01



皆さまこんにちは初めまして。
突然ではありますが、私の身の上を聞いていただきたい。
というか聞いてくださいホント誰かに愚痴でも言わないとやってらんないっていうかお願いしますこの通りです。


私は普通の一般人だったはずでした。


極々普通の一般家庭に生まれて。
極々普通に育ち。
高校を卒業後はそれなりに普通の大学に。

父はサラリーマン。
母は専業主婦。
普通の学校に通う兄妹。
あまりにもありふれた平々凡々な人間だったと自負してます。
特記すべき事項は何もなく。
特徴のない女というのが特徴くらいなもんで。
まぁ、普通の女の子と比べて多少はゲームやアニメが好きかなと思うくらい。

ほんと、それくらいの何処にでも居る人間だったんです。


……そう、“だった”んです。


その頃、私は“大神”というゲームにハマっていて。
明日も講義があると言うのにピコピコとそのゲームをしていました。
アマテラス可愛いなぁ、なんて和みながら画面を見ていれば。

くらりと揺れた視界。

気がつきゃ、先ほどまで画面に映っていた景色が目の前に広がっていて……。



……私、“大神”の“アマテラス”に成り代わっていたんです。











01 どうしてこうなった











そりゃもう、パニックでしたよ。
えぇ発狂モノでしたとも。

それでも、この“ゲーム”をクリアすれば元の世界に帰れるんじゃないかなんて。
いっぱいいっぱいの頭で考え付いたわけで。

そりゃあもう死に物狂いでクリアしましたよ。
イッスンやいろんな人に助けてもらいながら。
クリアした……んだけど。



クリアしても、私は元の世界に帰ることができていない。



常闇ノ皇を倒して変わったことと言えば……
そのままタカマガハラにはいかなかったこと。

後は……
「アマテラス」の姿から本来の「私」の姿へ変化できるようになったことくらいだろうか。
(……体中に、アマテラスと同じような赤い隈取りがあることと、巫女のような装束を着ていたことを除けば、だけど。)

箱舟ヤマトに乗り込んで、ラスボスである常闇ノ皇も倒して。
筆調べも神器も神飾も装備品も、集められるもの全てゲットして。
はぐれ珠もひとつ残らずかき集めて「唯我独尊の数珠」も手に入れて装備してますとも。

思い描けば、目の前にポンと現れるメニュー画面の扇。

私が知る限り物は全てゲットしていて。
……これ以上何をしていいのかわからなくなった。

とりあえず、色々と試してみた。
(ちなみに、人間の姿だと神器で戦うことはできなかった。筆調べは大丈夫だったけど。)
各地を巡ってみたり、人のうわさ話を聞いて情報を集めてみたり。


それでも、私が元の世界に帰る手がかりはつかめなかった。


その頃になると、私は「あ、もう、いいかな。」なんて考えになって来てたわけで。
妖怪さえいなければ、この世界は平和でとても綺麗だ。
春の陽気な風が優しい花の香りを運んでくる。

……別に、この世界で生涯を終えたとしてもいいかな、なんて。
そんなことを思うまでには馴染んできてたわけで。


今日も今日とて、神木村のご神木の傍から村を見下ろす。


村に住まう人たちの表情は明るく、穏やかだ。
ソレを見て、フと笑う。

もうこの世界には、私の……「アマテラス」の力は必要ないだろうけれど。
それでも……これからも、この世界を守っていけたら……なんて、思ったその時だった。


「おぉ、我らが慈母・アマテラス大神よ。」
「サクヤさん?」


ふわり、と花の香りを纏って現れたのはご神木の精であるサクヤさん。
うーん、今日もセクシーですね、なんて考えながらそちらへと歩み寄った。

ちなみに、私は「アマテラス」の姿の時は喋れません。
それでも、サクヤさんには私の言葉がわかるらしい。
(神様ってスゴイ。)


「どうかしました?」
「お休みの所もうしわけございません。しかし、これを見ていただきたいのです。」
「?」


サクヤさんが指さしたのは……ご神木の近くにある池。
そちらを凝視してみれば……。

ぐにゃり、と…水面が歪にゆがんでいた。


「これは……。」
「わかりませぬ。慈母がお帰りになる少し前より、ときおり現れるのです。」


池の水面。
それは、水の揺らめきや波紋などではなく……歪み。


「……悪い気配ではなさそうだけれど。」
「えぇ、ですので判断をしかねています。」


この世界にとって害となるか否か。

せっかく平和になったこの世界。
どんな小さなものであろうと害になると言うのなら放ってはおけない。


「わかりました。調べてみましょう。」
「お願いいたします。」


頭を下げたサクヤさんに向けて笑みを浮かべる。

心配はご無用。
自惚れる訳ではないけれど、体力攻撃力防御力胃袋全てMAXで、すべての神器装備品を揃えている私はほぼ無敵状態だ。
(アイテムも同様に)
アマテラスの姿になり戦闘モードに入っていれば、ちょっとやそっとの事では傷一つつかない。

身体をアマテラスへと変化させて神器を装備する。
気を引き締めて、その歪みを覗き込めば……。

その歪みの場所だけ水底が見えず、色が違った。

池の水は透き通っていてほんのり青や苔の緑が混じった美しい色合いだ。
しかし、その場所は何ていうか……。
海の青というか……まるで、竜宮あたりの、深海の色。

さて、どうやって調べようか、と。

ちょん、なんて前足でその場所をつついた
その時だった。


「ガウ!?」
「アマテラス大神!?」


バシャリ、と私の前足に絡みついた歪みの水面。
それは瞬く間に、私の身体を引き摺りこみ。


「キャイン!!」
「あぁ、アマテラス大神!!」


あっという間に、私はそこから姿を消した。










ゴポリ、と水の音がする。
口を開けばガボッと水が流れ込んできた。
空気を求めても……息ができない。

あ、マズイ。私今…アマテラスの姿だ。

アマテラスは石像からの復活だからか、泳ぎが得意じゃなくて……。
人間の姿ならまだしも、この姿じゃ泳げない。
水面へ出ようと必死でもがくけど……。

ヤバい、マズイ、このままじゃ……


死ぬ


それでも、パニックになっていた私は変化することもできず。
必死で動かしていた手足が、重くなる。
意識が薄れていく。


あー…まだ、死にたくないな。


なんて、頭の片隅で思った時だった。

グイッと引き上げられる身体。
バシャリと水面に顔を出せば、一気に流れ込んでくる空気に酷くむせた。
それでも、生を繋ぐために必死で呼吸する。
誰かに体を支えられているのだろう。
身動きはできないけど、こうして息ができるだけでありがたい。


「おーい!サッチ、大丈夫か!?」
「おう!こいつも無事っぽいぞー!」
「梯子降ろせー!」
「サッチ隊長―――!!」


たくさんの人の声が聞こえる。
ぼんやりする意識の中で私は……。

大きな船を見た。















(ここはあの海の難破船?)
(いや、でもあれに人は乗っていなかった。)
(それに……)
(あの船べりでこちらに向かって満面の笑みを浮かべる人)
(オレンジ色の帽子に、黒髪、そばかす)

(どこかで)
(遠いどこかで、見たような)

(嗚呼、でも、本当に)

どうしてこうなった


01 END



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ゆめうつつ