おふくろさんっ!


白ひげ海賊団。

この船の船長にして船員たちから「親父」と呼ばれ慕われているのはエドワード・ニューゲート。
船長として、「親」として、息子たちの成長を日々見守っている彼だが。

この船には、もう一人「親」がいる。










おふくろさんっ!










船内を駆け回り、きょろきょろと誰かを探す様に目を走らせる男。
この船の末っ子であるエースだ。
目的の人物が見当たらないのか、甲板にて足を止めうーんと唸る事数秒。


「エース、何やってんだよい?」
「あ、マルコ。……いや、土産持って帰ってきたんだけどさ。」


偵察帰りのエースの手の中には貝殻を加工して作られたバレッタ。
それを見てマルコは、エースの探し人に思い当たった。


「ああ、おふくろなら親父のとこだよい。」
「え?だって今日親父診察の日だからおふくろは他のとこじゃ……。」
「実はナースたちがねい。いくら親父に言っても酒を止めねぇからおふくろに怒ってもらうんだって言ってたよい。」
「あー……なるほど。」


苦笑したマルコの言葉に、エースも苦笑する。
あの親父が唯一素直に言うことを聞く人物。
それは、白ひげの伴侶にして、息子たちの母。

息子たちからは「おふくろ」と呼ばれ慕われてる……ナマエである。


「んじゃまぁ、親父のとこ行ってみる。」
「不機嫌そうなら後にしろよい。」
「わかってるって。……親父から拳骨喰らうのは勘弁だしな!」


ニシシ、と笑い目指すは船長室。
おふくろ、喜んでくれるかな?なんて想像して笑う顔は幸せそうなものだった。





足を進め、白ひげの身体に見合った大きな扉が見えてきたころ。
中から聞こえてきたのは白ひげと目的の人物の声だった。


「あなた……お願いします。」
「……そうは言うがな……。」
「この子達がこれだけ言ってるんですから……ね?」


ゆっくりと、ほんの少しだけドアを開き中を除けば……。
ムスッとした白ひげに、意気揚々としているナースたち。
そして……白ひげの前に立つ初老の女性。

白く染まった髪に、ふわりとした服装。
後ろ姿しか見えないが、声の様子からするに困ったような微笑を浮かべているのだろう。

目的の人物がいたことに、エースはバン!と扉を開け放った。


「親父!おふくろ!ただいま!」
「おう、戻ったかエース。」
「あらあらエースちゃん。おかえりなさい。」


エースの姿を見て薄く笑った白ひげに……。
ゆったりと振り返ったのは、「おふくろ」ことナマエ。

少し皺の寄った顔はそれでも御年60歳には見えない。
ふわり、と温かく微笑んだその表情に、自然と口角が上がるのは末っ子だ。


「偵察、行ってきたぜ!」
「どうだった?」
「問題ねぇよ、それなりの町もあるし補給も十分できる。ログは一週間だってよ。」
「グラララ、ご苦労だったな。ゆっくり休め。」
「おう!あ、そうだ、おふくろ!」
「なぁに、エースちゃん。」


微笑ながら首を傾げたナマエ。
いつもニコニコとエースたちを見守る笑顔はどこか安心する。
そんなナマエににししと笑いながら近づいてきたエースは、どこか少し照れくさそうで。

これ、と突き出した手の中には、貝殻のバレッタ。


「あらまぁ、綺麗ねぇ。」
「次の島の特産なんだってよ。……おふくろに土産!」
「私がもらっても良いの?」
「おう!おふくろなら似合うと思ったんだ!」
「まぁ……。ありがとうね、エースちゃん。」


エースから受け取り、さっそくそのバレッタを付けてみる。
白髪の髪に、よく映えた。


「わぁ!お母さん似合ってるわ!」
「それ綺麗ね!」
「エース隊長にしては良い趣味だわ!」
「おい!それどういう意味だよっ!」


ナースたちがナマエを取り囲み、キャッキャとはしゃぐ。
どれ程歳をとっても、褒められると嬉しいのだろう。

ほわりと照れたように表情を緩めたナマエは、まるで少女のようにも見える。


「グラララ!似合ってるじゃねぇかナマエ。」
「あら、本当ですか?」
「落ち着いた色合いが中々に良いぜ?」
「ふふ、ありがとうございます。」


エースちゃん、本当にありがとうね、嬉しいわ。
そう言ってエースに向って笑みを浮かべるナマエに……。
エースは満面の笑みを浮かべた。


「次の島に進路は決まったな、エースが帰ってきたことだし宴だ!」
「あなた?」


グララと笑い、宴を開こうと声を放った白ひげだが……。
にこり、と笑ったナマエにピタリと行動止める。


「まだお話は終わってませんよ?」
「…しつけぇな。別にいいだろう?酒の一つや二つ。」
「一つや二つで済まないから言ってるんじゃないですか。」
「……俺から楽しみをとろうってのか?」
「そんなつもりじゃありませんよ。少し控えて下さるだけで良いんです。」
「あのなぁ、ナマエ……。」


ナマエは白ひげを見上げ、微笑む。
ほんのりと頬を染めて。

それにグッと言葉を詰まらせるのは“世界最強の男”と恐れられる男。


「少しでも長く、あなたと居たいんです。……私の我儘、聞いていただけませんか?」
「……、……そう言われちまったら、もう何も言えねぇじゃねぇか。」


白ひげの言葉を聞いて、ナースたちがハイタッチ。
そんなナースたちを見て白ひげは苦笑し、ナマエは嬉しそうに笑う。

……親父の弱点は何時だっておふくろなのだ、と。

エースも笑った。















(次の島に着いたら、一緒に歩きませんか?)
(グラララ!ご機嫌取りか?)
(あら?私とのお散歩、お嫌いですか?)
(いや?……久々に散歩ってぇのも良いかもしれねぇなぁ。)
(ふふ……楽しみにしてますね。)
(……敵わねぇなぁ。)

グララと笑うその顔は幸せに満ちて


おふくろさんっ! END

2015/04/02



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ゆめうつつ