殺意の悪魔は穏やかに朝を迎えたい








爆発音が轟く。あーあ、また引っ越さないとなぁ、悪魔は冷めた目で呟いた。





悪魔は殺意の悪魔だった。人は何かの命を奪おうとするとき殺意が生まれる。悪魔はそんな殺意から生まれた。悪魔はこれまで片手で数えられるほどしか死んだことがない。そんな悪魔をここ最近毎度毎度襲うのはニホンの公安だった。殺意の悪魔は人々の殺意を操ることが出来た。悪魔は人の殺意から派生する戦意を消すことも可能なのだ。そのせいで悪魔は人間から狙われていた。否、もっと詳しく言えば支配の悪魔であるが。支配の悪魔にとって戦意を操る事の出来る悪魔は邪魔なのである。しかしながら悪魔の野望はゆっくりとゆっくりと生きることだった。悪魔にとって人間や他の悪魔なんてどうでもよかったのだ。殺意の悪魔は誰にも襲われない穏やかな朝を毎日迎えたいだけなのだ。

「・・・でびる、はんたー・・・」
悪魔は目の前に現れたニンゲンの男をぼぅっと見つめた。家を壊すだけじゃ帰ってくれなかった。支配の悪魔はしつこいなあ。彼女に従う人間もとても愚かだ。
「あぁ、そうだ。上から殺意の悪魔のお前さんを殺す、もしくは拘束しろと言う命令が来てるんだ。」
「そっか・・・でもわたし、いやだなあ。」
悪魔は地獄はまだ行きたくはなかった。
「そこで、今ここで契約をするならば俺はお前を逃がそう。」
馬鹿な。支配の悪魔を欺くなんて、裏切るなんて命知らずにもほどがある。けどまぁ、私の命の保証が約束されるなら良いかなぁ。この人間が支配の悪魔に何されようがどうでもいいし。
「契約内容によるかな。」
「マキマについてお前さんの知っている情報を吐いて欲しい。ただそれだけだ。勿論、お前の居場所はマキマには言わない。」
人間にも面白いのがいるんだなあ。悪魔は漠然と思った。
「いいよ。契約しよう。」
悪魔が手を差しだした。人間は手を差し返し、互いに手を結んだ。人間の手は暖かく悪魔がちょっと火傷しそうになった。
「契約成立だ。俺は岸辺。」
「キシベ、知ってると思うけどわたしは殺意の悪魔。殺意の悪魔でもキルでも好きに呼んで。・・・場所を変えよう。あの女狐は下等生物を使っての情報集めが十八番なの。」
そういって悪魔は数メートル先の鉄筋コンクリートで出来た建物を指さした。
「・・・なるほど、分かった。」







鉄筋コンクリートの中。わたしの、数個目のセーフハウス。向かいに座るキシベ。嫌いなコーヒーの匂い。
「まず前提として、君の言うマキマという人物は支配の悪魔で自分より下等だと思った対象を操ることができる。そして私は殺意の悪魔。対象の殺意を操ることができる。」
一口、目の前のホットミルクを口に含む。あまい。
「つまり、マキマの情報収集能力はそこから来てたんだな。」
ミルクに反射したキシベの顔は深刻そうだった。動物はあちこちにいるから対処が大変だよね。私も隠居は大変。虫一匹入れないようにしないといけないから。セーフハウスがいくつあっても足りないよ。
「そうだね。それでまぁ、これは早い者勝ちになるけど、きっかけさえあれば私は支配の悪魔に勝てる。あと支配の悪魔の手先とかにも対処できるの。殺意っていうのは戦意に強く影響するから。」
「強いな。マキマがお前の始末に躍起になるのがよくわかる。」
「そんなことはないよ。能力が無きゃただの雑魚悪魔。・・・ここからは、私も分からない事が多いからあくまでも予想が混じるけど、支配の悪魔は何かしら野望がある。それでその野望を叶えるのに邪魔なものを消して、逆に必要な物を集めてるんだと思う。」
キシベは頷いた。ここまでは、きっと分かっている。話はここからだ。
「私は戦意も操れる悪魔。そんな私が邪魔だってことはきっとそれに深く関係してる事だと思う。そう、例えば・・・誰かを翻弄して翻弄した先に、みたいな感じ。その先は私には分からないし、なにより支配の悪魔なんて関わりたくが無いよ。それでも支配の悪魔はその少しの可能性の芽を摘んでおきたいんだ。」
「なるほどな。」
だいぶ理不尽だと思う。私はゆっくりと生きたいだけなのになぁ。
「あ、あと、数年前まで支配の悪魔は私を追わなかった時期がある。えっと・・・十?まぁ、十年前後かな。」
「だいぶ昔だな。」
「そうかな?・・・ま、だから、支配の悪魔は数年前、その野望はもう叶う寸前まであったのに失敗したんだと思う。そこでまた私と支配の悪魔の追いかけっこが始まったからさ。これ以上はもうないよ。」
「そうか。協力感謝する。最後に、お前は何がしたいんだ?」
「そうだね・・・ゆっくり、穏やかな朝を毎日、毎日、人間が消えるその日まで迎えたいな。ただ、それだけなのになあ。」



キシベはどこか痛々しいなと思った。
誰よりも平和を望む悪魔はただゆっくりと生きたいだけなのだ。




△▲△▲△▲





いつも通り、必要な物を買うだけ買って悪魔は鉄筋コンクリートの家へと入るはずだった。しかし、いつもと違うのは・・・誰も居ないはずの部屋に誰かがいたこと。

「うっそ・・・なんでここにいるんだよ、支配の悪魔。」
ソファに座り優雅に珈琲を頬張る支配の悪魔。
「中々君が捕まってくれないから迎えに来たんだよ。さぁ、これはめ」
「殺意が邪魔だなあ。・・・ねぇ支配の悪魔、そろそろ諦めたら?チェンソーマンが君だけのものになるわけがないじゃん。」
悪魔は支配の悪魔の能力が発動する前になんとか自身の能力を発動する。時間が足りなく随分と生半可になってしまった。長くは持たないだろう。
「・・・相変わらず、君は人の戦意を消すのに特化してるね。本当になんだかどうでもよくなってきたよ。」
「そうだと嬉しいね。でも、嘘つき。その感じじゃ3分も持たないね。さーて、私は今のうちに逃亡するとしよう。じゃ、もう会わないことを祈るよ。」
悪魔は手に持ってた荷物すら捨て窓から飛び降り鉄筋コンクリートを後にした。





「・・・、次はどう近付こうか。チェンソーマンはもう現れた。アメリカが動き出すのも時間の問題。本当、キルは邪魔だなあ。」





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