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――




『(連絡来なかったなー)』




いつも通り授業を終わらせて帰り道。
ちょくちょく確認はしていたけど、カラ松からの連絡はなかった。ということはまだ家にいるのか。
そして他の兄弟からも特になし。本当にあいつらはカラ松のことをどう思っているんだか。




『(仲直りのきっかけを作れるならわたしが……)』


「留衣〜!」


『!』




噂をすればなんとやら、後方から聞き覚えのある声がしてイヤホンを外す。
思ったとおり、声の持ち主おそ松がそこにいた。他の四人もいる。
一番に駆け寄ってきたのはチョロ松だった。




「留衣ちゃん!ちょうど良かった!留衣ちゃんのとこにカラ松行ってない!?」


『……なんで?』


「あいつ、一昨日の夜からいなくて…」




チョロ松のピンポイントな発言に一瞬どきりとするも冷静を装う。さすが、比較的常識人なだけあって頭の回転が早いしカンも鋭い。
全部ご本人から聞いたものの、チョロ松からの話をあたかも初めて聞きました風に聞きながら一緒に歩く。

一昨日カラ松がチビ太に誘拐されて、夜中に家の前で騒いだカラ松にむしゃくしゃして八つ当たりをした結果彼がいなくなったと。
怪我もしてるしすぐ帰ってくるだろうと思っていたのに、一日経っても帰ってこない。さすがに行方不明のまま二日目はやばいだろうと、こうして五人で探している。思い当たる場所はだいたい探した、病院にも行った。でも見つからない、と。




『喧嘩して家出?あんたらはまたそういう……』


「うん…あの時は確かに眠かったし梨も美味しかったしカラ松だったからいつものノリで酷く当たっちゃったんだけど……」


『ちゃんと探したの?』


「探したよぉ〜チビ太のとこも行ったしイヤミにも聞いたし…」


「カラ松兄さんがいつもいる橋にも5回は行った!!」




家への道を辿りながら話を聞いてる感じ、ちゃんと探しているのは本当のようだ。
これならあとは改めてカラ松に伝えて、この五人のところへ連れて行って、五人が謝ってくれれば無事に仲直りかなあと考える。

カラ松なら家にいるのだけど、そのことはバレない方が良い。じゃないと後々めんどくさそう。
「ちょっとやることあるから」と適当な言い訳をして、とりあえず家の前で五人と別れて帰宅。


玄関の鍵を開けた、その時だった。




「おかえり、留衣!」


『…!?』


「「「!!」」」




朝と同じような、えらくゆるんだ顔のカラ松がドアを開けた目の前にいた。
まさか出迎えてくれるとは思っておらず、一瞬言葉を失う。

と同時に、首を捻って家の前。
冷や汗が伝ったのが分かった。




「「カラ松!!?!?」」


「「カラ松兄さん!?」」


「……!!!」




『――カラ松!!避難!!!』


「…え?」




門を閉めておいて良かった。家に入るには門を開ける時間が要る。これなら逃げ切れる。
危険を察知した私は即行でドアを閉めて鍵をかけた。




『窓とか開けてないよね!?』


「ああ…大丈夫だ。すまん、みんなが一緒にいるとは思わなくて……」


『あぁ大丈夫そこはカラ松天使だったから何も問題ない』




自分の声のせいで兄弟にバレてしまったと謝るカラ松を撫でる。君はとても可愛かったので、私個人としては素晴らしいと思いました。

まだ思うように歩けないカラ松をひとまずその場に置いといてリビングへ回る。
一応大丈夫だとは思うが――




『!!? きゃあああ!!?』


「!? 留衣!?どうした!?」


「あっ!!留衣!!ここ開けろ!!!」




――大丈夫じゃなかった。

部屋に入った途端、窓にベッタリと張り付いたおそ松が目に入って思わず声を上げてしまった。
なんで家の窓にこの家とは関係ない人間が張り付いているんだ。絵面があまりにも怖かったので、応急処置としてとりあえずカーテンを閉めた。




『もしもしチョロ松!?不法侵入してるのが四人ほどいるんだけど!?』


《いやっそれに関してはほんとにごめん僕だけじゃ止めきれなかった!
でも留衣ちゃん、さっきいたのカラ松だろ!?僕も詳しく知りたいんだけど!?》


『カラ松ならわたしが誘拐しました!!返して欲しくばカラ松に誠心誠意土下座してチビ太にちゃんとお金を返しやがれ!!』


《開き直ったの!!?でも誘拐したわけじゃないよね!?》




窓に張り付いているおそ松とその後ろにいる弟三人を見て、まだ門の外で律儀に待っているであろうチョロ松に電話をする。
案の定外にいた彼はいまいち状況を理解しきれないでいるようだ。まあ仕方ないか。

通話でアホみたいなやり取りをしていたら後ろからカラ松がゆっくり歩いてきた。




「あいつら、なんて言ってた?」


『一昨日からいないから探してるって。いろんなとこ探し回ったみたいよ』


「……そうか」




隣に座るカラ松。当然一晩で良くなるような怪我ではないので昨日と同じ状態。
通話しっぱなしのケータイからチョロ松の声が漏れる。




《カラ松、そこにいるの?いるなら出てきてくれない?ちゃんと謝りたいんだ》


「……」




カラ松からチョロ松への返事はない。

そのまま、無言で寄りかかってきた彼。
謝って済むような怪我ではない。ここまでされたんだからそう簡単に会いたくはないよね、仕方ない。
後ろから被さるような形で抱きついてきたカラ松を撫でた。




『チョロ松、悪いけど多分すぐには出れそうにない。
チョロ松は謝ってくれるかもしれないけど、他の四人はどう?』


《そこは僕がちゃんと言うから大丈夫。頭も冷えたし今ならあいつらだって…》


「あーーーーー!!!留衣それはダメーー!!アウトー!!!」


『!!?』




突然大きな声がしてそちらを振り返る。

反対側の、金属製の柵がついたやや高めの位置にある小さい窓。柵がついている上にすりガラスだからそう簡単に家の中は見えないようになっているわけだけども、半ば無理やりといった感じに覗き込んでいるらしい。ここまできたら通報しても文句は言われないのでは。




『おそ松、そこにいんの!?』


「留衣!!いくらカラ松に甘いからってそれはダメ!!それは許さない!!」


《なになに!?そっちで何が起きてんの!?》


「後ろからぎゅーして肩に頭乗せるって!カラ松も男なんだよ!?それ以上何かされたらどうすんだよ!!」


『カラ松なんもしないから!!言っとくけど今おそ松が一番怖いからね!!』


「留衣はそういうとこが鈍……っあああああー!!?」




――ガシャーン!

外で激しい物音が聞こえた。おそらくおそ松が落ちた音だろう。
そうか、弟がおそ松を肩車か何かで支えていたのか。

かなりの時間気を取られていたが奇跡のバカは放っておくとして、何よりもまずは兄弟の仲直りだ。
事の発端はこの兄弟全員が食い逃げをしたことにあるからカラ松も悪いのだけど、その件はまた別にチビ太に謝りに行くとして。
とりあえずカラ松が家に帰れるようにはしないと。

「謝る気があるんなら玄関まで回って」と外に向かって叫んだら足音がしたから、これは多分今日中に解決するかな。




『カラ松、立てる?玄関行くよ』


「……」




肩に頭を乗せたまま、カラ松がぎゅっと力を込めたのがわかった。
渋々といったようには見えたけどカラ松が立ち上がる。それに合わせて私も立ち上がった。

無言で手を握ってきたから、私も無言で握り返す。手を繋いだままゆっくり足を進めて玄関へ。
鍵を開けてドアを押し開けたら、五人が並んで立っていた。




「カラ松!」


「「ごめん!!」」


「「ごめんなさい!!」」




“誠心誠意土下座して”
私がそう言ったからか、玄関先で五人が綺麗に並んで土下座をした。
私と手を繋いだまま、隣でカラ松がぽかんとしている。

うん、やれば出来るんだよね。悪気なく大怪我させるのは良くないけど、別にカラ松が嫌いなわけじゃないんだよね。
あとは手加減というものを知ってくれれば完璧なのだけど。




『カラ松がタフなのは知ってるけど、お願いだからここまでの大怪我はさせないで。
特に一松、石臼投げたって聞いたんだけど』


「う……ごめんなさい…」


『一松は規格外として、他も十分危険だからね。人に向かって投げるものじゃないからね。
カラ松、どうする?』


「…うん、大丈夫だ。ありがとう留衣」




にへら。カラ松が笑う。
彼も分かっているだろう、こいつらに悪気がないことは。本気で見捨てられたわけじゃないことは。

ひとまずカラ松が家に帰れそうで良かった。一件落着、と言いたいところだけども。
実は根本的な問題はまだ解決してなかったりする。




『カラ松が良くなったらチビ太に謝りに行こうかね』


「「「はーい……」」」




あんまり本気で怒らないチビ太が犯罪じみた行動に出るくらいなのだから相当酷いのだろう、こいつらの無銭飲食は。
余裕があるときに私が地道に返しているつもりだけど、多分追いついていないし追いつかない。

成人済みニートで働く気もなければむしろ借金作るようなことするし、挙句に兄弟喧嘩で家出沙汰。
本当、これ以上問題を山積みにしないで頂きたい。






カラ松事変 






END.


おまけ→










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