これだから恋は


 



『あーあ、ふられちゃった』




手持ちのスマホの画面を見ながら、唐突に留衣がそう言った。




「…え?ふられた?」


『ん?うん』


「え、なに…アンタ好きな奴いたの?」


『……ん?』




家で一人で暇してたらちょうど留衣が遊びに来たから、今日は運が良いと思ってたのに。
突然のトンデモ発言で台無しだ。

特に意味もなく背中合わせでくっついていた留衣の方を振り返る。
僕の質問に留衣は一瞬ぽかんとした後、首を捻ってからゆっくり頷いた。




『んー…まあ』


「……、あっそ」


『何か言いたげだね、一松』


「べ、別に…」


『ならいいけど』


「…おめでとうございます、くらい」




前に向き直って手元にいた猫を撫でる。そいつは人の気も知らないで呑気にあくびをした。
僕の吐いた嫌味に、留衣が振り返る気配を背中越しに感じる。




『なーんでそんなこと言うの〜?』


「アンタがふられたって言うから、おめでとうございますって」


『だからなんでそんなこと言うの〜』


「……じゃん」


『ん?』


「…仕方ない、じゃん」




猫を撫でる手を止める。もっと撫でて欲しいと手を伸ばされたけど、生憎今そんなに余裕がない。
いや、割ともう限界が近い。視界が揺れてるのがその証拠。




「仕方ないじゃん、僕はアンタが好きなんだから!
…他にどう返せばいいんだよ……」




好きな人に自分以外の好きな人がいることが判明するなんて、そんなの誰にとっても地獄だろう。
しかも僕はこの人のことをそれこそ病的に依存するくらい大好きだから、ちょっと悲しいと泣く程度では到底済まないのだ。

縮こまって動かなくなった僕を見て、留衣が体重をかけてきた。
その軽い体で僕のことを押すなんてことはまず無理で、留衣が僕にもたれかかる状態になる。




『じゃあふられちゃったから、一松埋め合わせできる?』


「は?」


『わたしが見たかった映画。先生も好きだったから一緒に見に行こうと思ったんだけど、この時期忙しくて無理そうだってさ〜』


「……は?映画?」




聞こえた単語に顔を上げる。
「ちょっと意地悪しちゃったかな」と背中側から困ったように抱きついてきた留衣に、騙されたと気付いたけどもう手遅れだった。






これだから恋は
厄介極まりない



(紛らわしい言い方すんじゃねえ!!)
(え〜?キャンセルのことふられたって言わない?)
(言わない。…他人の埋め合わせなんか嫌)
(わたし一松と映画見に行きたいなぁ)
(……チッ…次から先に俺誘えよ…)
(ごめんってば、泣いちゃうなんて思ってなかったの)
(もうきらい…留衣きらい……僕がどんだけアンタのこと好きだと…)
(うん、知ってる。ごめんね)




END.



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Twitterでぼやいてたネタ。しゃべってコンシェルの一松に「ふられた」って話しかけると「おめでとうございます」と返してくるとこから広げました。
わたしもしゃべってコンシェルやりたい……できない…友達に借りた……。







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