「もっと早く言えば良かった」


 



「留衣ちゃんってさあ、やっぱ一松のこと好きなの?」




今日は久しぶりにチョロ松と二人で松野家にいた。


そもそも六人で行動していることが多いこの兄弟のうち誰かと二人きりというのはあんまりないのだけれど、時々偶然が重なるとこうなる。今日はイベント帰りのチョロ松と合流してそのままこの家に向かったらこうなった。

イベントの内容とか最近の出来事とか、そういう話を一通りして少し静かになった後に切り出された話題がこれだった。




『…意味深な聞き方だけど、それはわたしが特別一松を好きってこと?』


「そう。ゆくゆくは結婚したいとか、そういう」


『結婚なんて一松に限らず考えたことないけど……』


「じゃあ付き合いたいとか」


『それも考えたことないけど…』


「え、誰とも?カラ松とも?」


『……なんでカラ松?』




――この手の質問はあまり受けないんだけどな。

私とこの六つ子との間でなんとなく避けられる恋愛関連の話題。友達として一緒に過ごしてきたこの数年間、ずっと避けられている傾向にある本格的な恋愛の話題。
というのも、お互い“曖昧”な方が何かと都合がいいのだ。女は私一人、男は六人。
人数の合わないこの状況ではうやむやにしておかないといろいろと面倒くさいこともある。


こんなこと、今更言わなくても勘のいいチョロ松が分かってないことはないはず。
この質問に裏があるんだろうということには気付いていたけど、それが何であるかまでは分からない。




「留衣ちゃんってさ、一松とカラ松には特に甘いでしょ。ほら、先週一松が怪獣になったときも」


『あれはもふもふで普通に可愛かったと思うよ』


「でも中身は一松に変わり無いでしょ。
そうじゃなくても、普段からスキンシップ結構…激しいじゃん。抱きしめたり、手繋いだり」


『一松カラ松以外も同じだと思うけどな〜』


「それは……そうかもしれないけど…」




おそ松に感化されたっていうのがあって、スキンシップが激しいのは今に始まったことではない。そして相手が誰だからというわけでもない。

どこか渋りだしたチョロ松に、あともうひと押しかと考え始める。




『おそ松ってさ、いわゆる典型的な構ってちゃんでしょ?自分から仕掛けてくるタイプの。
それに比べるとあの二人は待つタイプの構ってちゃんだから、わたしから行くぶん甘く見えるのかもね』


「留衣ちゃん的には二人に何か特別なことしてるつもりはないの?」


『ないよ。わたしは平等にみんなのこと好きだし』


「……」




私の言葉に不満げなチョロ松。彼がこんな顔をするのは珍しい。
もっと直接誘導すれば乗ってくれるだろうかと、彼の方向へ体ごと向き直った。




『チョロ松、わたしに言いたいことあるでしょ。言ってみて?
今は他に誰もいないんだから』




――じゃないとこんな話持ちかけてこないよね?

目が合って、観念したようにチョロ松が息を吐いた。




「……。
留衣ちゃんは本当、僕らのことよく分かってるよね」


『そう?それなら嬉しいなあ』


「何考えてるか分からない一松が構って欲しいこと見抜いたりとか、カラ松がああ見えて自分から構って貰いに行くのは苦手なの知ってたりとか。
おそ松兄さんの面倒な構ってちゃんの上手いかわし方とか、十四松の暴走のなだめ方とか、トド松の甘えたがりをどこまで受け止めればいいかとか」


『うん、まあ何となくね』


「それでいてみんなの喜ぶことも分かってるし、どこからどこまでの言葉が傷つけない範囲かも知ってるから、あしらい方も上手いし」


『……』


「僕がアイドル大好きなのももちろん知ってるよね」


『うん、知ってるよ』


「でも留衣ちゃんはさ、」




――自分に向けられる感情には鈍いところ、あるよね。

チョロ松が酷く真面目な顔をして、そう言い切った。




「留衣ちゃんは僕がアイドル好きなの知ってるからこそ、僕に遠慮する部分あるよね。スキンシップだって、他の兄弟に比べたら全然少ない」


『……』


「分かってるよ、僕はおそ松兄さんや十四松みたいに構って欲しいアピールできないから、あの二人より分かりづらいでしょ。
トド松みたいに気の利いたデートプランなんて考えられないし良い誘い文句も思いつかないから、いっつもアイドルのイベントに付き合わせることになる」


『……、』


「一松とカラ松はさ、留衣ちゃんに構ってもらってる間すごく嬉しそうにするでしょ?僕ってさ、留衣ちゃんの前だと上手く話せないから、嬉しい気持ちが伝わりづらいと思うんだよね。
僕だって留衣ちゃんのこと好きなんだよ、ほんとはもっとあいつらみたいにべったりくっついて、あいつらみたいに頭撫でてもらったり抱きしめ返してもらったりしたいんだよ…!!」




いつも以上に早口でまくし立てるチョロ松はもう目を合わせて喋ってはくれなかった。
正座したその膝の上で握った拳が震えている。

俯いて顔を上げてくれない彼の顔を覗き込んだら、その目には涙が溜まっていてぎょっとする。
反射で思わず抱きしめたらチョロ松は私の服をぎゅっと掴んだ。




『ごめんチョロ松、大丈夫?』


「……うん、…ごめん、力入っただけ……」




泣くとまではいかなかったもののそれに近いものがある。原因が自分であることくらい分かっていたから、「ごめんね」と頭を撫でてその涙を指で拭った。

つまりだ、
私のしていた“彼を思ってやっていたこと”が今回は裏目に出てしまったわけだ。




『遠慮されるの、嫌だったんだね』


「……うん」


『似たようなこと言われたことあるな…。もうちょっと愛されてる自覚持ってよって……。
なに、チョロ松はわたしにそういうことされても怒らないの?』


「怒るわけない…」


『チョロ松がアイドル大好きなのは知ってるからさ。追いかけてる子以外の女に触られるのってあんまり気分良くないんじゃないかと思ってたよ』


「…だから今まで僕にはそんなに触ってこなかったんだ?」


『まあそうなるね』


「………」




一応私も女だし、アイドルっていう好きな子がチョロ松にいる以上、変に絡むと気を悪くするかと思っていたから彼へのスキンシップは確かに控えめにしていた。
でもそれが逆に彼の気に障ったらしい。他の兄弟より自分は好かれていないのだろうかといった思考になってしまったらしい。実際、全くそんなことはないけども。




「留衣ちゃんって人のことはとことん見抜くのに、なんで自分が関わるとそんなに鈍いんだろうね」


『うーん…おそ松に同じこと言われたことある気がする』


「…だろうね。……ねえ、」




――寂しかった。


肩口に顔を埋めた彼と一緒に、床に転がった。






「もっと早く言えば良かった」


(少しずつ埋め合わせするから)
(…じゃあしばらくこうしてたい)




END.







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