五日目-3
笑われてしまった。
いや、人に笑われることくらいなんてことないが、何故だか明華に笑われると気恥ずかしく感じた。
可愛らしいと言われたからだろうか。人から「可愛い」と言われることなんて滅多にないから。
そもそも自分は可愛くはないと思う、竈門少年達ならまだしも、俺は二十歳にもなる筋肉質な男だから。
つまり、容姿ではなく中身の問題だ。要は子供っぽかったのだろう。おやつに菓子を食べて、一人で騒いで。
そう思うと確かに恥ずかしい。頭で理解するよりも、身体の反応の方が早かったわけだ。
「すまない、はしゃぎすぎた……」
『いえそんな…すみません。喜んでいただけて、わたしすごく嬉しかったです』
顔が熱い。他人の目を気にすることがあまりないから“恥ずかしい”と感じる頻度も少ないが、明華といるとよくそう思う気がする。
紛らわせるように次々と菓子を口に入れる俺のことを、明華は傍でにこやかに見守っていた。
「…君が俺を怖がっているようではなくて安心した」
『? そう見えましたか?』
「少しな。髪と目の色が派手なせいか、時々人に怖いと言われるものだから」
穏やかに笑う彼女を見ていて思い出したことを口に出す。
日が経ったせいもあるだろうが、だいぶ俺とも話してくれるようになった。少年達のように砕けた話し方ではないにしても。
今の彼女の言い方からして思い違いだったかもしれないが、この前は距離を取られているように感じたから。
特に年下や女子供からは怖がられやすい。俺はそんなつもりはないのだけど。
今まで向けられた他人の視線を思い返していると、明華が少し間を空けてから口を開いた。
『煉獄さんの髪の色も、目の色も…とても素敵だと思います』
「…!」
『秋の、紅葉の…もみじとか、いちょうとかみたいで。すごく綺麗だなって思ってました』
“私の髪は、平凡な色なので”
簪でまとめられた髪の毛に手をやりながら明華が笑う。
紅葉。炎柱だからか「炎みたい」だと言われることはあるが、そう表現されたのは生まれて初めてだった。
「…君の心は美しいな。
俺は今まで、先祖が海老天を食べ過ぎたと言っていた。君のと比べると、情緒の欠片もない」
『ふふ、それも美味しそうで良いですね』
「そうか?ありがとう。明華に褒めてもらえて、心が軽くなった」
『そんな大層なことはしてませんよ』
そろそろ戻りますね、お皿は置いといて大丈夫ですから。
そう言って明華が立ち上がったので、「頑張れ」とだけ返して見送る。少しだけだが話ができて良かった。
菓子の続きを食べようと皿に目を戻したら、もうあと残りひとつで。いつの間にそんなに食べてしまったのだろう。もっと味わって食べれば良かったなどと今更ながら思う。
最後のひとつを口に含みながら、ふと昔後輩に言った言葉を思い出した。俺と同じように派手な髪色で、人から良く思われないことを気に病んでいた後輩。見た目など些末な問題、髪色が派手なのも才能だと言ったと思うが、今ひとつ元気は出して貰えなかった。俺も明華みたいに美しい表現ができていたら、何か違ったかもしれない。
物思いに耽っていたら、隣に座っていた竈門少年から「あの…」と声を掛けられたので顔を上げる。
「煉獄さん、明華さんに告白はしないんですか?」
「……。…え?」
「あ゙ーーーーーッ炭治郎〜〜ッ!!!お前って奴は!!お前って奴はァ!!!」
「いや、善逸も分かってるだろ?多分明華さんは」
「あ゙あ゙ーーッ俺の可能性を潰すんじゃねェエエーーーーッ!!!」
唐突に振られた話題に思わず固まる。告白、とは。そういう意味だろうか?
あまりにも突然過ぎて話についていけない。うっかり皿を落とすかと思った。
割り込んできた我妻少年が竈門少年の肩を揺らしながら「まだ俺の可能性が!!」と叫んだが、少年は「お前は弟みたいにしか思われてないぞ」と一蹴した。
「んなこと、明華お姉さんがいつ言ってたんだよォ!!」
「昨日出掛けたとき、善逸が途中の店で禰豆子と明華さんに髪飾り選んでただろ?あのときに聞いた」
「おまっ…油断も隙もねェ奴だな!!」
竈門少年曰く、昨日の買い物中に明華から困ってる匂いがしたからこっそり事情を聴いたらしい。俺も気が付かなかった。
少年がまとわりついているのが嫌なら言って欲しいと言ったが、彼女は「そうじゃない」と。嫌ではないけど、人前だと少し困るから、どうやってそれを伝えたらいいかで悩んでいたらしい。
「明華さん、弟さんがいるんだって。俺達と同じくらいの。でも生まれつき病気で身体が弱いから、弟の分まで頑張って働くんだって言ってた。
善逸のこと……いや、俺と伊之助も含めてやけに可愛がってくれるのは、弟さんと重ねてるからなんじゃないかな」
「住み込みで働いてて、あんまり家族と会えてないから」。寂しそうな顔で彼女はそう言ったらしい。
だから我妻少年にも甘いんじゃないかと。今食べているこの菓子も、この宿の持て成しとは関係なく彼女が勝手に好意で作っているものらしい。
竈門少年の言葉に、我妻少年が「それは薄々感じてたけどさぁ」と項垂れた。
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