最終日-2


――




『それじゃあこれ、お弁当』




帰り支度をしたみんなが門の前に並んでいる。

お昼にお弁当はどうかと聞いたらぜひお願いしたいと言われたので、朝食と一緒に四人分作った。
右端にいた炭治郎くんから順に、中身を間違えないように渡していく。




『炭治郎くんのは、タラの芽の天ぷら多めに入れといたから』


「ありがとうございます!!」


『善逸くんはどれも美味しいって言ってくれてたから…全体的に少し多く詰めてみたよ』


「やった〜!超楽しみ〜!!」


『伊之助くんは海老の天ぷらね。ちゃんとお箸もついてるから』


「おう!!また食いに来る!!」


『煉獄さんは、薩摩芋をご飯に混ぜておいたので……』


「…うむ、ありがとう!」




一人一人に配っていって、最後に煉獄さんに彼の分を手渡す。
お礼を言われたので微笑んだが、何故か煉獄さんは弁当を受け取ったと同時に動きを止めた。中途半端な体勢に疑問を持って見上げたら、赤と黄色の特徴的な瞳がまっすぐにこちらを見ていることに気付く。
何かあっただろうかと首を傾げると、彼はゆっくりと話し始めた。




「昨日から……言おうか言うまいか、ずっと考えていたんだが…。
やはり言うことにする。このまま立ち去ってしまうのは、後味が悪い」




穏やかな声色は、どこか昨晩の彼を思い出させて。心臓がはっきりと波打ったのが分かった。
知らず知らずのうちに手に力が入る。…何を言われるのだろう。

期待と恐怖が入り混じって冷や汗に変わる。鼓動がどんどん速くなる。
でも、視線が逸らせない。




「短い間だったが、君には随分世話になった。
是非また来たいと思っている。それと……君の料理を、できることなら俺は毎日食べたい」




――ふわり。
風の音と共に耳に入ってきた言葉は、一週間ほど前に聞いたそれとよく似ていて。
違ったのは、“それ”を今改めてここで言われたというその事実だった。




『…わたしで良ければ、いつでもお作りします』




嬉しさで震える唇でどうにか言葉を紡ぐ。
これがきっと、今の私ができる精一杯の返事。


その瞬間、目の前の煉獄さんが片手で私の右の頬を掴んで。
驚いてる暇もなく一気に視界が暗くなって、何をされたのか理解したのは彼が離れた後だった。




「…っ、すまない!か、間一髪唇は避けたが……!!」


『い、いえ……』


「ア゙〜〜〜〜〜ッもう結局こうなんの〜〜〜!!?俺の明華お姉さんがぁああ!!」


「お前のじゃないだろ」




柔らかいものが当たった左の頬を手で押さえる。夢ではない……よね。顔に熱が集中する。
近くで善逸くんが何やら騒いでいるけど全然頭に入ってこない。唯一分かったのは、謝ってきた煉獄さんの顔が私と同じように真っ赤だということだけで。




「…!!」




ここまでされて何もしなかったら、もはや失礼にあたるだろう。

目線を合わせるために屈んでいた煉獄さんの肩に手を置いてぐっと顔を寄せる。彼にされたのと同じように、彼の頬に唇を軽く押し付けた。




「っ、明華」


『もう出発の時間ですよね?…またいらしてください。御馳走用意して待ってますから』




反射で頬を手で押さえるところが私と同じで思わず笑ってしまう。至近距離で見る彼の顔は相変わらず美しい。
一方的に話を終わらせた私に彼は何か言いたげだったけど、炭治郎くん達の方に目をやってから「そうだな」と呟いた。




「それじゃあまた、次に来るときは便りを出すから受け取ってくれ」


『分かりました。みんなもどうか、気を付けてね』


「はい!行ってきます!」


「またな明華!!」


「明華お姉さ〜ん……」




煉獄さんを先頭にしてその後ろを三人が着いていく。こちらに大きく手を振りながら歩いていくみんなのことを私も手を振り返して見送った。
だんだんと姿は小さくなっていき、やがてどちらからともなく手を振るのをやめて。もうこちらを振り向かないその背中に向かって最後に一度深くお辞儀をする。
――ああ、行ってしまった。




『(次までに、もっと腕を磨いておかないと)』




寂しい気持ちはもちろんあったけど、不思議なことにだいぶ薄れていた。きっとまた会える、そう強く思うことができたからだろう。
そのときがいつ来るかは分からない。数か月後なのか、はたまた一年後なのか。もっと経ってからなのか。
私は待てると思うから、どうか身体にだけはお気を付けて。


そっと手をやった左の頬には、まだあのときの感触が残っていた。






最終日


(またいつか、お会いしましょう)




END.




Story is finish.
Thank you for reading!



→あとがき



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