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『…入っていい?』
「ああ!」
いきなり入るわけにはいかなかったので、まずは洗面所の外からノックする。中からの声を聞く限り風呂場の扉が全開な気がしてならない。OKの返事はもらえたけど入りづらいな、これ。
「失礼します」と引き戸を開けたら案の定風呂場の扉が全開で、湯船に浸かった状態の煉獄さんと目が合ったので反射で閉めそうになった。
「湯が出なくなってしまった!」
とりあえず視線を横に逸らしたものの、本人が本当に困ってそうなので恐る恐る目を戻す。
肩まで浸かってるし、入浴剤は濁り湯のを入れといたし、辛うじて大丈夫そうではある…けども。
湯船で顔だけ出している煉獄さん曰く、どうやらシャワーから水が出てこなくなったらしく。
なるべく彼に目を向けないように気を付けながらお風呂場にお邪魔して、壁に引っ掛かっていたシャワーを手に取った。
『ああ…これ押したら蛇口ひねっても出てこないんだ。もう一回押したら出るようになるよ』
「そうか、ありがとう!なんとなくそんな気はしたんだが、念のため聞いておこうと思って」
『さっき言い忘れちゃったね。ごめんね』
シャワーの水を手元で切り替えられるスイッチが押されていることに気付いて説明をする。普段あんまり使っていなかったので伝えるのを忘れていた。
ちゃんとお湯が出るようになったことを見せるために蛇口をひねろうとしたらすぐ近くに気配を感じて、思わず手で制してしまった。
『あの、濁り湯とはいえあんまり乗り出さないで……』
「あ…悪い」
ざぶんと音を立てて彼が湯の中に戻る。男の人だから上半身は見られても大して気にしてないんだろうけど、こっちが気にするので勘弁してほしい。この現実にもまだ慣れてないんだから。
シャワーも直ったしさっさと出て行こうと思ったけど、煉獄さんが長い髪の毛を湯船に浸けているのが気になったので最後にそれだけ声を掛けようと思った。
『髪の毛、邪魔になるね。ちょっと後ろ向いて』
「ん?」
自分の髪をまとめていたクリップを使って彼の髪をまとめる。使ったことはないかもしれないけど、ワンタッチだから使い方には困らないだろう。
こちらを振り向いた彼に「君が使うんじゃないのか」と聞かれたが替わりがあるからと断り、また何かあったら言ってねと伝えて今度こそその場を後にした。
『(よく冷静になれた……わたし)』
リビングに戻ってから思わず一人でガッツポーズ。
煉獄さんが家にいる事実だけでもどうにかなりそうなのに、まさか風呂場に呼び出しを食らうとは。元はと言えば説明不足だった私が悪いんだけど。
しかしよくパニックを起こさずに戻ってこれた。えらい。
最後に髪をまとめたときにちらっと見た程度だけど、やっぱり筋肉すごかったな。こっちの世界にいたらスポーツ選手か、ボディビルダーか。運動神経もそのままだとしたら間違いなくいろんな大会で優勝できる。どれだけ鍛えたらああなるんだろう。
水で濡れた髪の毛がぺたんこなのも可愛かった。お風呂入るとあんな感じなんだ。…そう思うとすごい癖っ毛だな。さすが二次元。
余計なことを思い出しながら、作りかけのまま放置してあったご飯を温め直す。
ご機嫌で作ったオムライスは、いつも自分に作っているものより数倍上手く出来上がった。
よくできました
(なんというか、いろいろと)
END.
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