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積もる話はあるけれど、気付けばいい時間だったので明日の流れを軽く話す。
朝は私は起きるけど煉獄さんは気にせず寝ててもらってて良くて、好きな時間に起きたらメモに書いてあるものを適当に食べて欲しい。夕方になったら先にお風呂に入っててもらえると助かる。
暇潰しが漫画や本くらいしかなくて申し訳ないけど、うるさくしなければ大体何をしてても大丈夫だから。

ついでにレンジの使い方も教えた。温めるだけなら自動ボタンでどうにかなる。
ラップとレンジの便利さに感動していたのが微笑ましかった。




『じゃあわたしはあっちで寝るから、煉獄さんはわたしの部屋の布団使って』


「あっち?…とは?」


『そこの長椅子』


「あれでは体が伸ばせないだろう?風邪も引きそうだ。君にそんなことはさせられん」




本日最後の問題、寝る場所。正直煉獄さんの性格からして揉めるであろうことは予想がついていた。

私の家に寝る場所は自分の部屋のベッドしかない。一人暮らしだから当然なんだけど。他に候補と言えば、リビングに設置してある数少ない家具のひとつ、三人掛けのソファー。ちょっと寝転がれる程度のソファーが欲しくて買ったものだから寝るのは不可能ではないが、寝具として使うにはイマイチであることは否めない。床で寝るよりはだいぶマシだと思うけど。


本当に煉獄さんがここにしばらくいるのなら何か購入するのも検討するけど、今は明日ですらどうなるか分からない状況。
こうなった以上は私がソファーで寝るしかない。大事な煉獄さんをソファーで寝かせたくない。

が、やはり私の意見に煉獄さんは簡単には頷かなかった。そうだよね、優しいもんね。
でも私も食い下がるわけにはいかない。煉獄さんをベッド以外で寝かせてなるものか。どうにかして彼をベッドに寝かせねばならない。たとえ多少の喧嘩になろうとも。




『煉獄さんは背が高いんだから、あの椅子じゃ寝転がるのも難しいでしょ?だからわたしが寝る』


「駄目だ。俺が邪魔してるんだから、君は君の寝床で寝ろ。俺は床でも寝れる」


『煉獄さんを床で寝かせるなんて絶対できない!!絶対無理!!』


「じゃあ俺と一緒に布団で寝るしかない」


『え?』




むっとした顔の煉獄さんが言ったことがすぐには理解できず、一瞬戸惑う。
不可能ではないけど選択肢に入れるには躊躇いがあった、最終手段とも言えるそれ。




「君なら嫌がらないかとも思ったが……しかし、嫁入り前の娘が見知らぬ男と同じ寝床で寝るなど…」




煉獄さんが眉間にしわを寄せる。
とても失礼で申し訳ないけど、煉獄さんもそういうこと考えるんだな、と思った。




『わたし…は、ありがたいくらいだけど……煉獄さんが嫌なんじゃ…』


「嫌ではないんだが、罪悪感が……。その、君は本当に大丈夫か?
俺は絶対に何もしないと誓うが、中藤は隣に俺がいて眠れるか?」




こちらを覗き込んでくる彼は本気で私を心配してくれているらしかった。確かに、男女で一緒にいたら不利なのは間違いなく女性側だ。力で敵わないから。
つまり不安で眠れないとしたら私の方になる。でも前にも言った通り、何かあったら自己責任なのはこの人を家に上げたときから承知済みなわけで。


二人で私の部屋に移動して、先に煉獄さんにベッドの奥側に潜ってもらう。
「電気消すね」と言って消灯してから、人の気配を感じる布団に潜りこんだ。




「あんまり端にいると風邪を引くぞ。何もしないから、もっとこっちにおいで」


『煉獄さんは何もしないと思うけど、わたしがしたら困るから。ていうかするとしたらわたしでしょ』


「君が俺に何をするんだ?」


『…嫌われたくないから何もしないけど……寝ぼけて変なことするかもしれないし』




なるべく距離を取れるよう、ベッドの端っこに彼に背を向けて寝転がる。
煉獄さんは呑気なことを言ってるけどこっちは必死だ。だいたい、彼が私に何かする確率より私が彼に何かする確率の方が圧倒的に高いというのに。理性があるうちは抑え込めるけど、朝の起き抜けなんかは特に怖い。夢だと思ってやらかしかねない。
そのうち寝返りを打つかもしれないから最初だけかもしれないけど、最低限の抵抗はしておきたい。

名前を呼ばれたけど頑なに動かずにいたら、背中側からふっと笑い声がした後に続けて何やら物音がした。




『わ!ちょ…っ』


「ほら、これで君は何もできないだろう」




「そして風邪も引かない」と満足そうに呟いた彼は、あろうことか私を無理やり抱き寄せて布団の真ん中に戻した。背中側からがっしりと抱き締めるようにして。

確かにこれでは動けない、けどもうそういう問題じゃなくなった。この体勢で寝ろと。冗談じゃない。心臓が破裂する。
暗闇の中、手探りで彼の腕を掴んで反論しようとしたけど物凄い力でびくともしなかった。こうでもしないと私は言うことを聞かないと見なされたのか。いや、実際その通りだけども。

「やっぱり嫌だったか?」と頭上から声がして、その漏れた息を自分の髪の揺れで感じてしまって、思わず身体が硬直する。




『嫌じゃない…けど……』


「落ち着かないか?でも、君は俺に抱き締められるのが好きなんだろう?」


『それは……』




反論ができなくなって項垂れる。ここに来て実力行使に出てきたか。優しいんだかそうじゃないんだか分からない。
状況的にこれが最善策なのかもしれないけど、でも、このまま朝まで耐えられるだろうか。

黙り込んだことをOKと捉えられたらしく、それ以上の追及はなかった。ただ静かに「おやすみ」とだけ囁かれる。


ああ神様、どうかこの人に私の心臓の音が聞こえませんように。






緒に居たいとは思ったが


(これはちょっとやりすぎです)




END.





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