Let's study!



『もうやだ!テストなんて嫌いっ』




予想問題が書いてある用紙が宙に舞う。更にお次はノート。
弧を描いて飛んでいったそれはぼふりとベッドに着地した。




『なんで社会なんてあるの!歴史なんて生きてくのに必要ないじゃない!
理科だって…実験レポートが将来何の役にたつの!?』




何が卑弥呼さまよ!なんて一人で騒いでみる。大丈夫、だって今家には誰もいないし怒鳴られる心配もない。

私はそんな過去の人知ったこっちゃないし、興味もないし、きっとこの先もテスト以外でお付き合いなんてないのに。なぜ名前をその時の出来事と一緒に覚えて、しかも全部漢字で間違えのないように用紙に記入しなければならないのか。勉強ってものが根本的に分からない。




『(ううう…まだこんなに残ってるなんて…)』




教科書に貼ったたくさんの付箋がやる気を削っていく。
わかりやすいだろうと重要な単語のあるページ全部に貼ったのが仇となった。




『(買い物も行けないし、遊べもしないし…。かと言って教科書開いてるだけじゃ駄目だし…それはわかってるけど……)
…あ、そうだ我愛羅!』




思いついたように放り投げてあったケータイを開く。
電話帳から、彼の名前を探し出すのに時間はかからなかった。

私と同い年で恋人でもあるその人は、容姿端麗成績優秀で私から見ても周りから見てもまさに完璧な人。
未だに何で付き合えたのか不思議だけど、そもそも数ヶ月前告白してきたのは向こうだし今幸せだから理由なんてなんでもいい。




『(我愛羅ならコツとか教えてくれるかも!)』




彼は勉強全般に強い。付き合う前から噂は聞いていた。
きっと頼めば力になってくれるはず。




「…どうした、架音」




通話ボタンを押して耳にあてて、数秒の後に聞こえた柔らかい声。
今時間あるかと、そう尋ねれば用件も言ってないのに「勉強か」と返された。




『よく分かったね』


「まあな…ちょうどその時期だから」




まさか遊ぼうなんて言わないだろう。そう言った彼は電波の向こうで笑う。
まあ確かにねと、家に来て欲しいことを伝えれば快く承諾してくれた。
通話を終了させて先程投げ捨てたプリントとノートを机に戻す。


手に取ったシャーペンをくるくる回しながら、我愛羅早く来ないかななんて、無意識のうちに巡らせていた思考にいつからこんな乙女になったのだろうかと自分に苦笑いした。




──




「架音?」




30分しないくらいでインターホンの音がして、階段を駆け降りてドアを開く。
門の前で我愛羅が勉強道具が入ってるであろうバッグを持って、そこに立っていた。




『わざわざごめんね、さ、入って!』


「…お邪魔します」


『大丈夫だよ、誰もいないから』




少し遠慮がちに入ってくる彼に前置きをする。父親は会社だし、母親は友達と食事とか言って朝からいない。

用意していたお菓子とお茶の乗ったトレーを二階に運ぼうとすればすぐに奪われて、少し口角を上げながら階段を上る。




「…で、どこが分からないんだ?」


『全部』


「………」




教科書を広げながら聞いてくる我愛羅に正直に答えた。

呆れられたかも。でも事実だし。




「…分からない所を具体的に言え、教えてやるから」


『んー、じゃあまずこの問題集終わらせたい』


「分かった」




ノートの山の中から問題集を取り出せば彼は頷いた。
テスト明けに提出することになっている、数学の問題集。

ページを開けば数字、数字、数字。見てるだけで頭が痛くなりそう。
思わず眉をしかめていればすぐ隣に我愛羅の気配。




「本当に全部が分からんわけでもないだろう……どの問題が分からないのか言ってみろ」


『……、これ分からない』


「そこはな、ここに公式を当てはめて…」




トントンと私の書いた式を我愛羅が指で小突く。
前から思っていたけど、白くて長くて綺麗な指。なんて、考えている場合ではあるまいに。

スラスラと公式を書き始めた彼に我に返る。
ああ、そんな公式あったあった。




「…ここからは分かるか?」


『あ、分かる分かる!』




じゃあやってみろとシャーペンを手渡される。
公式のxに数字を当てはめて、yにはこの数字が入って。

途中式の続きを書いていれば自然に答えが求まって、「できた」と見せれば彼は「あってる」と笑った。




「しばらくは同じような問題だな…また分からないのがあったら言ってみろ」




“見ててやるから”。
隣で微笑む彼の顔を直視できずに、問題に目を通した。




───




『終わったー!』




我愛羅の解りやすい説明のおかげで問題集終了。
いつもなら項垂れながらやるから二時間は余裕でかかるのに、今回は一時間もしないで終わった。




『ありがとう我愛羅!こんなに早く終わった!』


「…良かったな」




とは言っても、まだ一部だけど。
でもこれでかなり時間短縮できたし、助けを求めた甲斐があった。




「……、そうだな…」


『…?
なあに?』




ふと何かを考えるように首をひねる彼に一緒になって首をひねる。
何があるのかと思えば、


──ちゅ




『…え?』


「……、ごほうび?」


『なんで疑問形なのよ』




頬に触れるだけのキス。
それだけでも、あまり積極的ではない彼の行動にしては珍しいもの。

頬に熱が集まるのを感じていればどうやら我愛羅も同じだったようで、目線を外した彼に思わず笑う。




『テストで8割とったら、今度は口にして』


「…、分かった」




今なら、苦手な勉強も頑張れる気がする。







Let's study!


(ねえ我愛羅、これもこれも分からない)
(…これはな、)




END.




------------------------


勉強嫌い!
すみれ様に捧げます。

------------------------