ねえ、あいしています

 



『ねえ、誕生日に何が欲しい?』




部屋で忍具の手入れをしていた兄さんに後ろから声を掛ける。
気配で気付かれていたから特に驚かれることもなく、彼はゆっくりこちらを振り返った。




「…別に何もいらないさ」


『兄さんってば、いつもそればっかり』


「本当のことだからな……」




近くまで寄ればバラバラと床に散らばったクナイや手裏剣が目に入る。つい先程まで使っていた、血と泥に塗れたそれ。
そのひとつを手に取って丁寧に磨いている彼の隣に座る。
圧倒的な実力を誇る彼の肌には、道具を握っている手以外忍具についているような汚れは一切ない。




「あんまり、欲しいと思うものはないんだ。…嘘はついていない」


『疑ってはないけど…ほんっと、物欲ないんだから…』


「お前がそばにいてくれれば十分さ」


『そういう男として完璧な受け答えは求めてないのー』


「…ふふ」




かっこつけるでもなく、さらりと言いのけるイタチ兄さんにむくれて見せる。言ってくれた言葉はきっと冗談ではなくて本音なのだろうけど、今求めているのはそういうものではない。誕生日プレゼントに何が欲しいか、それが私の聞きたい答え。

普通の人であればあれが欲しいとかこれが欲しいとか、少なからず何かしら出てくると思う。それなのにこの人ときたら、去年も一昨年も同じようなことを言ってはぐらかされた。もともと物欲がない人だから欲しいものがないのは本当かもしれないけど、それこそちょっとした食べ物とか小物とか、なんなら生活用品でもいいのに、何ひとつ強請ってはくれない。

かと言って何もあげないで終わるわけにはいかないから例年では花束とケーキを買っているのだけど、この調子だと今年も同じようなことになりそうだ。




「そうだな……強いて言うなら、キスをしてほしい」


『…いつもしてる』


「じゃあ、当日もしてほしい」


『……なんか違うんだよねー、わたしの思い描くプレゼントと』


「ふふ、いいだろう別に」




――俺の欲しいものと言えばそれくらいだ。

そう続ける彼の頬に触れるだけのキスを落とせば、そのお返しを唇に貰う。
これじゃ彼へのプレゼントなのか私へのプレゼントなのか分かったものではないのに、唯一口にしてくれる“欲しいもの”がこれだから、これ以上に何をすれば良いのか分からない。
もっと特別な、愛する彼の年に一度のイベントにふさわしいプレゼントをしたいのに。


そう思う一方で、彼の物欲が極端にない理由も分かっているから、私には為す術がないのだ。




『しょうがないから、今年はケーキ手作りでもしてみようかな』


「それは楽しみだな…」


『見た目と味の保証はしないけどね』


「お前が作るなら美味しいさ」




手が汚れているのを気にしたのか、私の頭を撫でる代わりに髪に軽いキス。
微笑むその目は写輪眼ではない彼本来の黒い目で、手元の血塗れの布巾が酷く似合わないくらい優しい。




『上手くできるか分からないけど、わたし頑張るね』


「ああ。楽しみにしてる」




作業の邪魔にならない程度に寄り添えば、彼の服から血の匂いがツンと香る。


この人に物欲がないのは、この人の欲しいものがどんなに望んでも手に入らない形のないものだから。
彼が過去に置いてきた、もう二度と会うことのできない人たちと決してやってこない幸せな未来だから。
分かっている。分かっていても聞いてしまう。少しでも喜んでくれるのなら何でもしてあげたいって、そう思えるただ一人の人だから。


ならばせめて、この愛を。






ねえ、いしてます
(この命尽きるまで)




END.