愛を刻む
『兄さん、お誕生日おめでとう』
暁アジトにて待機していたイタチ兄さんを、自分の部屋へと連れ込んだ。
今日は兄さんの誕生日。
任務帰りに立ち寄った小さなケーキ屋さんで小ぶりのホールケーキを買い、アジトへ持ち込んだ。
まさかS級犯罪者の彼の名前を書いてくれと頼むわけにもいかず、“お誕生日おめでとう”とだけ書かれたプレートをケーキと一緒に購入。
可愛らしいプレートはホールケーキの真ん中に。
年の数には足りないロウソクを立ててから、順番に火をつける。
バースデーソングを歌うのは私一人。
二人きりの、小さな小さなお誕生日会。
「ありがとう」
火を吹き消してはにかんだ兄さんは、相変わらずどこまでも美しい。
『今年もお祝いできて良かった』
「…ああ、そうだな」
ケーキを切り分けて食べ始める。
兄さんは普段あまり表情を変えないけど、今日はとても嬉しそうに見えた。
兄さんと言っても実の兄ではない。仲の良い年上のお兄さんだから自然とそう呼ぶようになっただけで。
彼の兄弟は年の離れた弟、サスケ君のみ。父や母はいない。そう、彼が殺したから。
両親だけではない、彼の一族は弟を除く全員が、彼によって殺された。
そしてその後を追って里を抜け出した私もまた、彼と共に追われる身である。
『今年もプレゼントは用意できてないよ』
「ああ、構わない」
暁に入ってすぐだっただろうか。
それまでと同じようにプレゼントを用意したものの、箱に入れたままアジトに置きっぱなしで次の誕生日を迎えてしまったことがあった。
兄さんだけじゃない、私もだ。彼にもらったネックレスを、その一年の中で使えたことがなかった。
忍びというだけでも常に死と隣り合わせなのに、その上私たちは犯罪者。
恋人にもらったネックレスをうきうきして次のデートにつけていく、なんてことができるような身分ではないのである。
「いいんだ。
架音とこうして過ごせれば、それで」
ケーキを口に運びながら、兄さんが微笑む。
普通の誕生日が過ごせなくても、
街中を堂々とデートできなくても、
式を挙げて、二人で幸せに暮らすことができなくても。
別にいいんだ、それで。
私もそう思うよ。
だって私は、
それでも貴方が好きだから、今こうしてここにいる。
『(あと何回、この日を迎えられるだろうね)』
そっと手を重ねれば、彼が私の手を取って口付ける。
彼の細い指を更に細く感じるようになってからどれくらい経っただろうか。
形に残せない今日という日が、
お互いの長くない人生の中に、強く刻まれていますように。
愛を刻む
(形より、心に残るものを)
END.