僕の欲しいものは、
「レンさーん」
『!』
後ろから声が聞こえて振り返れば、純白の羽がゆらゆら。
ああ確かピットくん、とつい先日聞いたばかりの自己紹介が脳内で再生される。
自分よりもいくらか背の低い彼はこちらまで駆け寄ってくるとにこにこして私を見上げてきた。
「聞いて下さい、僕明日誕生日なんですよー!」
『え、そ、そうなの…?』
これまた随分と唐突な。なんて、嬉しそうな彼には言えず。
明日は皆さんがパーティーを開いてくれるんですと目の前の天使さんは可愛らしく笑った。
「ですから、明日の晩御飯はいつもの部屋ではなくて違う部屋なんです」
『あら…そうなの』
「あ、でもレンさんのことは僕が案内するので心配要りませんよ!」
なるほどそれを私に。突然誕生日の報告なんてと思ったがそういうことなら話が通る。
ありがとうと、一言お礼を言えば「いいえ」とピットくんは笑った。ばさり、彼の表情に連動して羽が動く。
それにしても“誕生日”。来たばかりの私がそんなことを把握しているわけもなく、パーティーを毎回開いていることも今初めて聞いた。
せっかくだし私も一緒にお祝いしたいのだけど明日だなんて急すぎる、今から用意してもいいが間に合うかどうか。
『ごめんなさい、わたし…プレゼント渡すの、遅くなっちゃうかもしれない』
「あ、いえ!そんなこと、お気遣いなく」
『ピットくんは……何が欲しいのかしら』
欲しくない物を貰っても嬉しくない。それは今までの経験上よく分かっている。
彼の趣味も好きなものも知らないしどの道買いに行ったところで迷うだけ、それならば予め聞いておくのが得策。そう判断して、目の前にいる彼と目線を合わせるように屈んだ。
「え、何でもいいんですか?」
『何でも……うん、わたしが買える範囲なら』
好きなものを買ってあげたいのは山々だが、さすがにあまり高価なものは。
おそらくそれくらい分かっているだろう、首を捻り始めた彼の次の言葉を待つ。
数十秒後、何かを思いついたように彼は顔を上げた。
「決まったといえば決まったんですが、値段がわかりません」
『…た、高そう?』
「人によるかもしれません」
『……?』
「リンクさんやマルスさんにとっては高いでしょうね」
『ま、マルスさんでも…?』
聞き覚えのある名前は昨日腕試しに付き合ってもらった人の名前。
顔立ちと振る舞い、雰囲気から何となく察していたが彼はいわゆる王子様だそうで。そんな彼にも高価なものだとすれば一体私にとってはどれだけ高いものだと。
可愛い顔して案外無茶ぶりをしてくれると、思わず苦笑いした。
『マルスさんにも買えなかったら、多分私にはちょっと…』
「あ、いえ、お金じゃないんです。価値観の違いで」
『…?』
――価値観?
首を捻るのは今度は私、よくわからないと彼に聞き返す。
「えーっと、よく言うじゃないですか。お金では買えないものもあるって」
『?』
「なんていうか……要するに、」
僕の欲しいものは、
(ほんの少しでも、いいですから)
(え、……)
(い、一日デート券とか!だ、だめですか…?)
END.
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