HappyHalloween!
『ハロウィン用の服選んで!』
咲来にそう言われたのは一週間前のこと。
今日はみんなで集まって、各自思い思いの仮装をしてのハロウィンパーティ。
おれは彼女の咲来と弟のルフィ、同い年で兄弟のサボと一緒に参加することになった。
ルフィは海賊、サボは吸血鬼、おれは狼男。
普段なら絶対着ないような衣装を身にまとって会場に足を運ぶ。
『サボとルフィも来てくれたんだ!』
咲来は先輩のナミから頼まれたとかなんとかでパーティ運営の手伝いをやっていたから、おれ達よりも早く会場にいた。
おれが選んだ服を着ている咲来を探しながら歩いて、数分後に人混みの中で見つけて声をかける。
こちらに気付いた彼女は、お菓子が入った箱を抱えながらやって来た。
「(めっちゃくちゃ可愛いじゃねェか…!!!)」
おれ達の前でにこりと微笑んだ咲来は魔女の格好。
その可愛さたるや、おれが思わず言葉を発せなくなるくらい。
ひらひらしたミニのスカートに太ももまでのハイソックス、三角の帽子と袖口が広めの黒のローブ。
試着した時ももちろん可愛かったけど、今日は服以外もハロウィン仕様でより一層可愛かった。
「咲来!魔女か!?似合ってるぞ!」
『あらありがとう、ルフィもかっこいいよ』
「なあ咲来、お菓子くれなくていいから悪戯してイイ?」
『サボってば…だーめーよ』
固まったおれをよそに、ルフィとサボが咲来に駆け寄って口説き始める。
その姿にはっとして、おれも急いで三人のもとへ。
「咲来、すっげェかわ」
「咲来〜!ちょっとこっち手伝って!」
『あ、はーい!わたし行かなきゃ、三人とも楽しんでってね!』
「あっ、」
“可愛い”、と続けたのに遠くから聞こえた甲高いナミの声で上書きされる。
忙しいのだろう。お菓子をもらうどころか、まともな会話すら出来ないまま咲来は人混みに消えた。
行き場をなくした次の言葉が喉の奥へと引っ込んでいく。
「…咲来、めちゃめちゃ可愛いな」
「おいコラ、人の彼女に色目使うんじゃねェよサボ」
「やっぱりエースには勿体無ェって、咲来は」
「うるせェぞルフィ、咲来はやらねェからな」
両隣でヘラヘラする兄弟達はおれと同じように咲来に惚れてて、でもその中で咲来と付き合えたのはおれで。
彼女になった今でも二人は諦めていなくて、油断も隙もないったらありゃしない。
「咲来もいなくなっちゃったし、せっかくだから回ってみよう」と会場内を指差すサボに続いて歩き始める。
黒い猫、フランケンシュタイン、ミイラ男……いろんなのが会場内でウロウロしている。
ハロウィンなだけあってお菓子を持ったスタッフが各地にいたけど、咲来から貰いたいという理由でおれとサボはパス。食いしん坊なルフィだけがスタッフ一人ひとりに「トリックオアトリート」と言っていた。
あともう少しで会場を一周するという頃。
ふと、後ろから自分を呼ぶ声がして振り返る。
「エース先輩!」
「……ん?」
女特有の高い声が耳に響く。後ろには若い女が数人立っていた。
おそらく、記憶が正しければ学年がふたつ下の後輩達。――名前、なんだっけ。
「(…あ、咲来)」
その向こう側、小さく映った彼女はあの格好のままニコニコしてお菓子を配っていた。
小さな子供相手に少し屈んで微笑むその姿はまるで女神か何かみたいで、数秒間釘付けになる。
微笑ましくも羨ましがっていたその直後、おれと同い年ぐらいの男が咲来に話しかけるのを見て思わず顔が引きつった。
「エース先輩、わたしの衣装どうですかあ!?」
「あ〜…いいんじゃね?」
「本当ですか!?」
普通に考えればパーティに来た客だろう。スタッフも客も所詮人間だ、どうせ同じものを貰うなら、男なら可愛い子から貰いたいと思うだろう。
お菓子を配るのが今日の咲来の仕事。接客なんだから誰に対してもニコニコするのは当たり前。
分かっているつもりではあるけど、どうしても気になって後輩への返事が上の空になる。
「(くそっ、)」
――あの男、絶対咲来との距離オカシイだろ。
そう思ったときには周りのことも考えずに走り出していた。
「エース先輩!?」
「おいエース!……って…あーあ、咲来攫われちゃった」
「咲来食われねェかな?大丈夫?」
「今あいつ狼だからな。食われるかもなァ……」
必死に人の波をかき分けて咲来のもとへと急ぐおれが、後ろでそんな会話がされていたことなんてもちろん知るはずもなく。
――
『ん、っ…!』
「…はァ、……」
メイン会場から少し外れた通路の影。
すれ違った人こそいなかったものの、誰が来るかもわからないような場所の壁に咲来を閉じ込めて強引に唇を奪う。
最初こそ驚いたような顔をしていた彼女も、キスを重ねるうちに大人しくなった。
「くそ、こんなことになるならこの衣装選ばなきゃ良かった!」
『…エース?』
言いながら咲来を引き寄せて、その肩口に顔を埋める。
真新しい洋服の匂いと咲来の香りが混じったような匂いがした。
「お前に似合うと思ったから選んだのに…他の男に見せるために選んだわけじゃねェのに」
『……妬いてるの?』
短めのスカートもハイソックスも、咲来の綺麗な脚が映えると思ったからそうしたのに。
背の低い咲来には三角の大きめの帽子が可愛いと思ったからそうしたのに。
別に他の男を釣るために選んだものじゃないのに。
ぎゅっと抱きしめたまま動かないおれの頭を咲来がゆっくり撫でる。
された質問に返事はできなくて、黙ったまま抱きしめ続ける。
何も言わないおれに困ったのか、次に口を開いたのは咲来だった。
『ねえエース、わたし衣装似合ってる?』
「今すぐ食いたいくらいには似合ってる」
『…わたし、エースが選んでくれた衣装、みんなが似合ってるって言ってくれて…嬉しいよ』
咲来がおれの頬に手をあてて上に誘導したから、それに合わせて顔を上げる。
お互いの鼻先がぶつかりそうなくらいの距離で咲来が微笑んだ。
『それにエースだって、女の子に囲まれてた』
「…そうだっけ?」
『覚えてないの?』
「ずっと咲来見てたからあんまり…」
『……バカ』
心当たりはあるもののあんまり記憶には残っていない。思ったことをそのまま口に出せば咲来が照れたような顔をした。
あ、その顔、すげえ可愛い。
『わたしは…エースのこと、あんまり見れなかったよ』
「……、他の奴に絡まれてたもんな」
『違うよ…』
「?」
おれはずっと咲来ばっかり見てたけど、咲来はそうじゃなかったみたいで。
仕事が接客なんだからそりゃ仕方ないよなと勝手に納得したら、咲来がちょっと躊躇うような素振りをしてから言葉を紡いだ。
『エースが……かっこよすぎて、直視できなかったの…』
暗がりでもわかるくらい真っ赤な咲来が顔を背ける。
そんなこと言ったらおれが何するか咲来もわかってるだろうに、その上で、っていうのが本当に。本当にたまらない。
「…、食っていい?」
『だめ、……!』
首筋にかぶりついたら反動で咲来の帽子が床に落ちた。
その白い肌を吸い上げる直前、咲来が思いっきりおれの頬をつねる。
「いへー!」
『もう、かっこいいからって許すわけじゃないんだからね!ここどこだと思ってるの!』
「ええー…」
『……仕事終わってからね』
「!」
小さく耳打ちした後、おれから手を離した咲来は落ちた帽子を拾い上げる。
その手首を掴んで引き寄せて、“了解”の意を込めておれとお揃いの赤い頬に唇を寄せた。
HappyHalloween!
(あ、戻ってきた。咲来無事そうだな、良かった)
(…エース、片っぽだけほっぺ赤いぞ)
(咲来に怒られましたー)
(その割には楽しそうだなァ…)
END.