終わらせない

 




それは本当に突然だった。


幼稚園から高校までずっと一緒だった幼馴染。
もうそろそろ受験シーズンで、ついに違う学校になるとは言えど、近くの大学へ進学予定だった幼馴染。

先日、父親の勤務先が変わることが決まったとかで。
そいつはここから随分と遠い場所への引越しが決まった。


新幹線と電車を乗り継いで、さらにバスに乗ってようやく辿り着く場所だと聞いている。
当然、よっぽどのことがない限りもうこの先会わないことくらい簡単に予測できた。




「(おれも、馬鹿だなァ)」




このままずっと、ご近所さんで変わらない関係だと思っていた。
大学入ってもいつも通り同じ道通って学校行って、いつも通り帰り道でばったり出くわしたりするもんだと信じて疑わなかった。
だからこそこれまで何年も何も言わずに一緒にいた。チャンスなどいくらでもあったのに、言ってしまったら、この関係が終わってしまうと無意識に考えていたんだと思う。


こいつと過ごすであろう最後の夏。
いつも通り、歩いて行ける距離の花火大会に誘った。いつも通り、そいつはOKという返事を寄越した。
二人で浴衣を着て、他愛のない話をしながら屋台を回って。最後に花火見て、帰る。今日もそんな感じの予定だった。




『ねえエース、わたあめ食べたい』




去年とやってることは変わりないのに、お互いどこかギクシャクしてる。これで最後、ってこいつも考えているんだろうか。
屋台に売ってたピンク色の綿菓子を買ってやりながらそう思う。


咲来は綿菓子を食べながら、おれはその隣の出店で売ってたたこ焼きを頬張りながら。
“最後の”花火を見るために場所を移動する。

この年齢になってもこいつとこうやって二人で花火を見に来ることに違和感は覚えなかった。
本当は彼女とでも行くべきなイベントなのだろうけど、なんとなくこいつ以外と花火を見る自分が想像できなかった。
それがこいつのこと好きだからって気付いたのはいつだったか。でも言わずにここまで来て、改めて自分は馬鹿だなあと感じた。

いつか伝えようとは思っていた。その“いつか”が怖くて、ずっと後回しにしてきて。
その結果が、これだ。




「……なあ、咲来」




花火がよく見える特等席。数年前に咲来と発見した穴場。
客は大勢いるけど、この場所を知ってる人はおれら以外にはいない。


時間になって、夏の夜空に次々と花火が打ち上がり始める。
視界いっぱいに花が開いては、たった数秒で散ってゆくそれ。多分この先、自分一人で見に来ることはないんだろう。




「おれ、好きだったんだ。お前のこと」




打ち上げられた中でも一位二位を争うくらいでかい花火が上がった瞬間に、隣に並んでいた咲来に打ち明けた。
咲来の顔も見ないで、花火を見上げたまま、まるで独り言を呟くみたいに。




『………』


「……」




それでも聞き取ってはくれたみたいで、咲来は驚いたようにおれを見上げた。
そちらを振り向いたおれと一瞬だけ目を合わせた後、彼女は花火へと視線を戻した。


――終わった、なァ。
何も言わない咲来を見ておれも花火に視線を戻す。相変わらず、切ないくらいに今までのと変わらない美しさだった。




『…ずるいなあ』




また、でかいやつが上がった。


かき消されそうな小さな声に、おれは思わず振り返る。
咲来は花火を見上げたままだった。




『エースが花火に誘ってくれた日の夜から……絶対今日言おうって、思ってたのに』


「………」


『帰り際に言おうって、思ってたんだよ…』




こちらを見向きもせずにぽつぽつと言葉を紡ぐ咲来から目が離せない。
その間もずっと、花火は打ち上がり続けて。


夜空に流れていく光の粒と、咲来の頬に伝った雫が重なって光った。




『小さい頃から……ずっとずっと好きだったよ…エース』




今日一番の大きな花火が打ち上がったのと、おれがそいつの唇を奪ったのは、


多分、同時だったと思う。







(終わりたくない)








END.