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それからしばらくポツポツと喋っていたけど、どちらからともなく次第に静かになって。
時計すらないこの部屋で聞こえるのは互いの呼吸音だけ。それが今朝方まであまり喋ったことがないと認識していた人のものだから、なんとも不思議な気分だ。


こんなに穏やかに人肌を感じたのはいつぶりだろう。もしかしたら生まれて初めてかもなんて、自嘲気味に心の中で笑う。
ぎゅっとライを抱き寄せると、不意に彼は体を起こした。




『…ライ、……』


「そんな顔をするな。…良い夢が見られるおまじないさ」




額に柔いものが触れる。それが彼の唇だと理解したのは、こちらを真っ直ぐ見る彼と目を合わせてしばらくしてからだった。
唐突なことに驚いている暇もなく、その直後にライが顔を歪めたのを見て自分も慌てて体を起こす。




『ライ!?』


「う……」




目を強く瞑り胸を押さえる彼の姿に、これはただ事ではないと机に置いてあったスマホに手を伸ばす。
私は薬の効果を知らない。体が縮むところも見ていない。何か知っているとしたらやはりあの二人だ。

そうこうしている間にライがその場に蹲り、唸り始める。こんなことになるなら最初から言っておいて欲しかった。
何度も名前を呼んでみるが声は届かず、ただただその苦しそうな様子を見ていることしかできない。


狂う手元でようやくジンの番号を打ち終え通話ボタンを押そうとした瞬間、一気にライの体が膨らむように大きくなった。




『…も、戻った……』


「…ッハァ、……」




薄闇の中、さっきまで腕の中にいた彼はもうとてもじゃないが収まらない。
項垂れるように倒れこんできた彼を受け止める。ランニング直後のような荒い息が何度も耳元を掠めた。




『一旦これ羽織ってて?電話だけすぐしちゃうから!』


「…ああ、」




回した腕に触れるのは彼の素肌で、やはり服までは伸び縮みしないらしかった。
無残に引きちぎれた可愛らしい子供用パジャマを残念に思いつつ、ずり落ちた上着をライに掛け直して今度こそ通話ボタンを押す。
二日持たないどころか一日とちょっとじゃないか。戻る時だって心臓に悪過ぎる。未だバクバクと鳴り続ける心臓を抑えながら、ジンに垂れ流す文句を頭にいくつも思い浮かべた。




「アマレット、僕の服はどこに……ライ貴様何故ここにいる!??」


「バーボン!前!前は隠して!!ライもなんで背中に羽織ってんの!?」


「いや…アマレットが掛けてくれたものだから……」




部屋の隅に移動してジンの応答を待っていたらなんだか部屋が騒がしい。他の二人も来たようだ。同じタイミングで戻ったのか。
二人の姿を確認する前にコール音が通話に切り替わり、電波の先から聞き慣れた低い声がした。




『はあ!?……ジンのバカ!!』


「「「!?」」」




通話は10秒足らずで終了。
ブチッと切れた電話と“通話終了”と表示されたスマホ画面に唖然とする。「どしたの?」と控え気味な声が後ろから聞こえて、その声で我に返った。




『二人も戻ったのね!』


「あ、うん…今の電話ってジン?」


『そうよ。眠いから後にしろだって!信じらんない!誰のせいでこんなことになったと…』


「ジンにそんな口を聞けるのはお前くらいだな…」




リビングの入口から顔だけ出したバーボンとスコッチを見つけ、薄暗くてよく見えないが彼らも服が破れたのだろうと推測する。
バタバタと戸棚にしまっておいた彼らの服を取りに行き渡した後、着替え終わったのを確認して部屋を明るくした。




『…なに?』


「いや、案外動揺しないんだなって…」


『動揺?…ああ、男の裸くらい見慣れてるから大丈夫だよ』


「えっ」


『みんなほどのイケメンはなかなかいないけどね。ジンも昔は全裸でお構いなくウロウロしてたし…』


「…ちょっとその話詳しく聞かせて貰えますか?」




ドスの効いたバーボンの声に首を傾げる。ジンが全裸でうろついていた話を聞いて何か楽しいことでもあるのだろうか。

それにしても、みんなが戻ったからこれで“休暇”は終わりか。もう少しあのまま過ごすのも悪くなかったかもな、なんて。
元の姿に戻った三人を眺めながら、まあまた改めてこの姿で仲良くなれば良いかと一人微笑んだ。






ウィスキートリオの世話をする 後編


(…で、どうすんの?また仲良く寝直す?)
(寝れなくはないだろうが……)
(危ないからアマレットは僕と寝ましょう。ちょうどベッドは二つあるわけですし)
(いやお前もだいぶ危ないだろ。そこは俺が…)
(お前もダメだろう…俺の隣が一番安全だ)
(…爆弾の体験希望者なら常時募集中だけど、どうする?)
(((遠慮しておきます……)))





END.