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「あ〜、美味かった!」




空になった四人分の皿がテーブルに並ぶ。

さすがに昼間の二の舞はしないようにと慎重に選んだ本日のメインディッシュ、高級ステーキ肉。
三人は本当はお酒でも買って飲みたかったのだろうけど、コーヒーも飲めない舌ではおそらく楽しめないだろう。余っていたお金の使い道としてはこれで正しかったと思う。




「アマレット、前から思ってましたが本当に料理が上手ですね。どこかで習ったんですか?」


『独学よ。ジンに半端なもの食べさせられないから…たくさん練習したのよ』


「バーボンもめっちゃ料理出来るんだぜ!」


『あらそうなの?じゃあ次はご馳走してね』


「もちろん良いですよ」




ふわりと微笑んだバーボン、口元をソースで汚しているスコッチ、黙って頬杖をついているライ。
一緒に過ごしているうちに少しずつ三人のことを知れた気がして、突然のことで疲れはしたけどこの“休暇”に意味はあったかなと思う。だからといってまた好き勝手実験をされるのは困るけども。

お皿の片付けをして時計を見れば夜の8時を過ぎた頃。
今のところ三人の体に変わったことはないようだし、明日もこんな感じなのかなと考えつつお風呂の準備を始めた。




「アマレット一緒に入る!?」


『貴方が見た目通りの年齢だったら考えたけどね…』


「じゃあ僕とならどうですか?」


『…人の話聞いてた?』


「アマレット、キャンディが切れた」


『もう全部食べちゃったの!?』




自分の腰よりも低い位置でわいわいと動き回る三人を見て口元を緩める。
なんだかんだ言って今の状況を楽しんでるのは、私だけではないみたいだった。




──




「今日マジでな〜んもしなかったな!」




一通りのことを済ませてベッドに潜る。
昼間と変わらず隣を陣取ったスコッチが大きく伸びをした。




「息抜きというか…息を抜き過ぎたというか…」


『たまには良いんじゃない?』




昼間あんなに寝たから眠れなくなるかと思いきや、案外そうでもないらしい。
日頃の疲れがたまっているのだろう。布団を被って寝転がったら、数分もしないうちに睡魔に襲われた。




『おやすみ』


「おやすみー」




リモコンを操作して電気を消す。
みんなが目を瞑ったのを確認してから、自分も同じように目を閉じた。



数十分。いや、一時間ほど経ったか。
両隣が寝息を立てているのを横目に見ながらそっとベッドを這い出る。

そのまま部屋を出て、なるべく足音を立てないよう気を付けつつリビングへ。
しかし数歩後ろから人の気配。ドアを開け、手探りで電気のスイッチを探し当てる。




「寝れないのか?」


『ライ…』




ワンテンポ遅れてやってきたのはライだった。
彼は私の隣ではなくスコッチの向こう側にいたはず。まだ完全に寝ていなかったか、と申し訳なさが募る。




『起こしちゃった?ごめんね』


「いや、たまたま目が覚めただけだ。眠りが深い方ではないんでね……」




ソファに腰掛けた私の隣に彼も続けて腰を下ろす。

あまりまじまじと見たことはなかったが、そういえば彼はいつも目の下にクマがあったか。子供の姿になっているせいかそこまで目立ちはしないが、うっすらとそれらしき跡はある。
ライの目元を指でなぞると彼は頭にハテナを浮かべて可愛らしく首を傾げた。


私は一応見張り役なので、何かあった時のためにいつでも動けるようにしておきたい。
加えて朝ごはんの支度をするために早起きがしたいし、目覚ましでみんなを起こすのは忍びない。疲れている三人に余計な気を遣わせたくもない。
だからみんなには知られないようにここに移動しようと思った。わざわざこっそりベッドを抜けた理由を説明すると、ライは「なるほどな」と軽く笑った。




「お前はここで寝るのか?」


『うん。ソファなら爆睡はしないかと思って』


「それなら…お邪魔させてもらおうかな」


『え?』




理由も話したし部屋に戻ってくれるかと思いきや、こちらに頭を預けてもたれかかってくるライ。
言葉の意味をそのまま捉えるとしたらここで一緒に寝ることになってしまう。この、人一人寝転がるのが精一杯のソファで。




『…風邪引くよ?』


「お前がどうにかしろ…」




早くも目を瞑った彼はこれ以上動く気がないらしい。
その整った顔を眺めて思い出したのは、昼間彼が言っていた言葉だった。

まあ、この姿であれば“万が一”があっても私一人で対処できるだろう。やたらと絡んでくるバーボンやスコッチがいない今だからこそ、彼も彼なりに私と仲良くなろうとしてくれているのかもしれないし。

言葉数の少ない彼の思惑を適当に解釈し、電気を消してからその小さな体を抱き上げて横になる。並んで寝ることはできない。間違ってもライが落ちないように背もたれ側に寄りかからせると、彼は「優しいんだな」と呟いた。




「お前が“普通の女の子”役なのも頷ける…その性格は作られたものではないだろう?」


『どうだかね。深く考えたことはないよ』


「だからこそ、近くにいる人間を安心させられるんだろう。…悪く言えば油断か?
スコッチはまだしも、バーボンがあそこまで熟睡しているところを見たことがない」


『疲れてたんじゃない。忙しいだろうし、慣れない体で大変だっただろうから』


「お前にはそう見えるか?あいつは……」




肌寒さを感じ、ソファに引っ掛けてあった上着を掴んでライの上に被せる。
一度言葉を切った彼は数秒の間を空けた後、「あいつはお前がジンの名前を出す度に不機嫌だったがな」と続けた。
その意味深なトーンは少し気になったが、「気の所為だよ」と短く返す。