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『……』




次に目が覚めたのは、見知らぬ白い天井のある部屋の中だった。




「あっ、気が付いたのね!」


『……(病院…)』




ドアの開く音がしたので視線をそちらに向けると、看護婦らしき女の人がこの部屋に入ってきたところだった。
部屋の間取りと空間に漂う薬品の香りからして予想はしていたが、ここはどうやら病院らしい。

「今警察の方を呼んでくるから」と再び部屋から出て行った女性の言葉に、とある人物の姿が頭を過る。




「良かった…気分は?」


『……悪くはないわ』




先程の女性と共に部屋に入ってきたのは、やはりというかバーボンだった。
いや、今はバーボンとは名乗っていないだろうが。

「彼女と二人で話しても?」と彼が看護婦さんに聞き、頷いた女性が部屋を出て行く。
私はただぼんやりとそのやりとりを眺めていた。




「どこから話そうか?もちろん、組織の目なんか気にする必要はない」


『…貴方がNOCであることはなんとなく感づいてたわ』


「いきなり来ますね…」




一体いつから?

私の寝ているベッドの隅に腰掛けたバーボンが苦笑いをしてこちらを見る。




『ジンが貴方を怪しんでから。…あの人、そういう感覚だけは鋭いのよ』


「それがどうして“感づいてた”になるんです?」


『…ごめんなさいね……貴方が部下らしき男と一緒にいるところ、偶然見ちゃったのよ』


「…!」




いつだったか覚えてはいないが、命令口調で見知らぬ男に指示を出していた場面に出くわしたことがある。彼は表向きは私立探偵でアルバイトくらいしかしていないという情報だったからその状況には引っかかるものがあった。
しかし確証がなかったためにジンに報告はせず。疑わしきは罰する短気な彼のことだから、報告したらすぐにでも葬ろうとするだろう。
そのときにはもうそれなりにバーボンと仲良くやっていたし、優秀な彼を曖昧な情報で失うのは組織にとっても良いことだと思えなかった。

でも結局ジンの感覚が正しくて、彼の依頼で盗みに行った例のリストでバーボンの本職が公安警察だと知った。本当、勘の良い人だと思う。
一通り話し終えたところで「おちおち外で指示も出来ませんね」とバーボンが肩を竦めた。




『わたし以外にはバレてないと思うわよ。貴方の見張り担当はわたしだったから』


「その見張りってやつも随分前になくなったものだと思ってましたが?」


『…やっぱり気付いてなかったのね』


「え?」


『つい最近もいたわよ、あのカフェに。…わたしの個人的な理由でね』




唐突に暴露した事実にバーボンが目を見開く。「あのカフェ」とはもちろん彼がアルバイトをしている“ポアロ”という名のカフェである。
本気で気付いていなかったらしいことは彼の様子を見れば分かった。

無理もない。ジンの命令で見張りをしていた頃は大した変装もせずに訪れていたが、その後はベルモットの変装術で別人として訪れていたのだから。




「い、一体いつ?」


『先週の…水曜日だったかしら。ちゃんと貴方に対応されたわよ』


「貴方ほどの美人がいて気付かないはずが……」


『地元の学生に紛れてたからね…褒めても何も出ないわよ』


「学生!?」




彼に気付かれずに通うため、わざわざその周辺の女子高生が着ている制服を調べて買いに行った。この歳で高校生の制服を着ることになるとは思わなかったが、変装していれば見た目に違和感はなかった。ベルモットの変装術には毎度感心する。

さすがに彼女ほどの変声能力は持ち合わせていなかったが声色と口調だけでも案外どうにかなるらしい。あの探り屋バーボンを欺けたのなら上等だ。


なんでまたそんなことを、と怪訝な顔をする彼に「だって貴方の作る料理が美味しかったから」と微笑む。




「…そんな理由で通ってたんですか?本当に?」


『個人的な理由って言ったでしょ。組織の目は気にしてないつもりだけど?』


「……。言ってくれれば作るのに…」


『あら、作ってくれるの?』




――じゃあ今度、お願いしようかしら。
あの店に通っていた本当の理由を言い出せずに飲み込んで、貼り付けた笑顔で笑う。

本当のことは言えない。バーボンがNOCであると確定した今、私にそれを口に出す資格はない。
ジンに言われて盗み出した彼の名の入ったリストを最後の最後で隠してしまったその時から、彼に言いたかった言葉は墓まで持って行くと決めていた。


さあ、この先私はどうするとしよう。
少なくともバーボンは事情を知ってしまった私を野放しにはしないだろう。このまま日本の警察に連れていかれて尋問でもさせられるだろうか。それはあんまり楽しそうではない。
かと言って向こうに戻るにしても、手負いの状態でここから逃げ出すのは一苦労。

だったら隙を見て、いっそのこと。――いや、元よりこちらはその気で。




「…言い逃げはさせませんよ」




パシリ。
不意にバーボンに左手を掴まれ、思考が中断する。




『言い逃げ?』


「さっきから貴方ばかり言いたいこと言ってるじゃないですか。ここに来る前にも理由のわからない礼を言われましたし。
僕の周りの人間は…どうも、すぐあの世に逃げるみたいですから」




貴方もあのまま放置してたら逃げそうでしたからね。
死ぬことを視野に入れていた私を見透かしたように、バーボンがボソリと呟く。




「僕だって……貴方のこと、気に入ってたんですよ…」


『…!』




ぎゅっと私の手を握った彼が先程のお返しと言わんばかりに、「気付きませんでした?」と小さく笑う。

名目は見張りだったけど、よく世話を焼いてくれて嬉しかった。潜入捜査中でも私といるときは幾らか気が楽だった。
“敵”だと分かっている相手に向かってバーボンが穏やかに笑う。組織にいたときには見たことのない、優しくて穏やかな微笑み。

さっきまでこの人の隙をついて死のうとまで考えていたのに、そんな世界にいることも忘れるくらい綺麗な笑顔だった。




「…ねえ、アマレット。アマレットも僕に堕ちてください。
せっかく奪ったリストを隠してまで僕のことを守ろうとしてくれたなら、僕のことがお気に入りなら…」




――僕のために、この先も生きて。


見慣れていたはずの彼の目が見たことのない色に染まる。
ああこれが“彼”の目かと、まっすぐにこちらを見るその目を見てそう思った。




『…まさかお相子だったとは思わなかったわ』


「それは僕もですよ。ジンのお気に入りに近付けてラッキーだと思ってたのに」




リストで見かけた彼の本名が頭の中をちらつく。


未だに繋がれたままの彼の手は、逃がさないとでも言いたげだった。






Revive 




END.


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Reviveイメージで安室夢。安室というかバーボンだけど…。
曲聞いてたらなんとなく、立場上お互いに恋しちゃダメだと分かってるのに惚れちゃったバーボン×夢主かなーと思いました。
リクエストありがとうございました!