01





『………』




じとりと感じた服の重みに目を覚ます。
途端に飛び込んできた眩しい光に思わず反射で目を閉じた。ゆっくりと再び目を開ければ、それが真上の太陽のものだと分かる。
同時に服の重みは自身の汗によるものだと理解した。季節は夏、こんな直射日光の下にいれば汗くらいかくもの。どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。ケータイはどこだ、今は一体何時。

しかし何故こんなところで寝てるんだろうと体を起こそうとすれば、手にはざらっとした違和感。
何かと思って視線を右手にやれば。――砂?




『(なんで私、砂の上で昼寝なんか……)』


「おーい」


『っ!?』




ついこの前入ったばかりの夏休み。
海に泳ぎにでも来てたっけと考え始めた私の目の前に突如現れたのは人の顔、それに驚いて飛び起きたと同時に鈍い音がした。額には痛みが走る。
状況が理解できていなかった私はたった今何が起きたかも分からず、とりあえず分かったのは夢を見ているわけではなさそうだということだけ。

直後に「いってー!」とすぐ近くで額を抑える人は紛れもなくさっき顔を覗き込んだ人で。
一瞬にして覚醒した頭で額の痛みがこの人に頭突きをしてしまったことによるものだと理解した時には、反射的に謝罪の言葉が出ていた。




『ご、ごめんなさい!私寝起き…で……』


「いや、大したことねェ………ん、どうした?」




思わず言葉を失った。“その人”は不思議そうに見てくる。言葉を失うなんて体験は生まれてきてそうそうしたことがないが、視界に入ったその姿に私は二度見すらできず、瞬きも忘れてただひたすらに固まった。

残念なことに夢でないことはさっき確かめてしまったばかりで、何かしたところで変わらないことくらい目の覚めた私には分かっている。それでもやらずにはいられなくて、顔だけ背けて自分の頬を思いっきりつねった。




『(痛ッ!)』


「どっか具合でも悪ィのか?」


『ぅえ!?そんなことないです……あ、あの』


「ん?」


『あなたのお名前うかがっても…よろしいですか…』


「名前?」




なんとも幼稚で単純な方法を試したおかげで一瞬変な声が出た。
より一層不思議そうにこちらを見る彼は当然の反応をしていると思う、何せ私は見ず知らずの人間だろうから。
赤の他人に開口一番名前を尋ねられれば首を傾げたくもなるだろう。

しかし一方で、私はこの人を知っていた。いや知っているというかなんというか。本でお見かけしたことがあるというか。


上半身裸にゴロゴロした赤いビーズのネックレス、黒い短パンに鮮やかなオレンジ色のテンガロンハットをかぶった男なんて知っている中では一人しかいない。
唐突に「お前海軍か?」と聞かれて反射的に「違います」と答える私、彼から発せられた特殊な単語に嫌な胸騒ぎはこのあたりからしていた。




「……
エース……ポートガス・D・エース」




ゆっくりゆっくり、目の前のその人は自分の名前を口にする。
予想していたはずの彼の名に、私の思考回路がショートした。









目の前にいたのは大好きだったあの人。
(…あれ、わたし天国にでも来たかな)




END.







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