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目が覚めたら隣で好きな子がおれの名前を呼びながら泣いていた。
当然迷わず抱きしめてるところなんだけど、それはおれが包帯ぐるぐる巻きで動けないってオプションがなけりゃの話。
『良がっだあ……!』
しまいにゃおれの手を両手で握り締めて泣き出すもんだから、おれは動けなくてある意味正解だったかもしれない。
「(そうか…やられちまったのか……)」
動けない体で何とか首だけ回して辺りを見渡したら、仲間がおれと同じように倒れていた。
全員包帯が巻かれていて、何故か床の上に布団敷いて寝てる状態。
辿れるところまで記憶を辿る。そう、確か島を出て数十分後に敵襲に遭ったんだ。
今回もやたら人数が多くて、しかも前回と違って個々の力が強くて。
複数人相手だったとはいえ、力負けしたんだ。情けない。
「敵は…?咲来ちゃん、怪我は…?」
『ローさんがやっつけた…わたしは平気っ……』
「そっか…」
まだ泣き続けている彼女に目を向ける。怪我はしていないようで安心した。
他の全員も怪我はしているが何とか無事、とのこと。良かった。
「誰も起きてねえの?船長は?」
『ローさんはあっちで寝てる……起きたのシャチだけ…』
「そうか…。咲来ちゃん、そろそろ泣き止まないと目腫れるぞ?」
『だってわたし心配で……っ』
片方の手で涙を拭って、もう片方の手でおれの手を握る。
咲来ちゃん以外全滅となればそりゃあ彼女にとっては心細かっただろう。起きたら全員で土下座でもするしかない。
鍛錬を怠ったことはないが、おれらもまだまだ力不足というわけだ。
『そういえばシャチっ、わたし傷の消毒してあげたいんだけど、』
ようやく泣き止み始めた彼女は手元に救急箱を用意する。
「やり方が分からないの」とか、「血はもう止まったのかな」とか、「しみるかもしれない」とか。
健気で一生懸命なその姿に、思わず口元が綻んだ。
「(愛されてんなァ、おれ)」
今朝方ペンギンとしていた会話を思い出す。昨日の件で咲来ちゃんに嫌われたって話。
全然そんなことはなかった。確かにちょっと気まずかったけど、今はこんなにも彼女はおれの心配をしてくれる。おれのために泣いてくれる。
――咲来がいるから、そんな気にもならないというか
「消毒くらいなら自分でできるぜ。咲来ちゃん、こういうの見るの多分不得意だろ?」
『う…うん……』
「してもらいたい気はするけどな!咲来ちゃんナースも似合いそう」
『もうっそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!』
「へへ、悪い悪い」
男ばっかの船だから女の子から手当なんてされたことがない。一度されてみたいものだ。別に船長の手当に不満があるわけではないけど。
『キッチンと食材借りても良い?シャチが消毒してる間にわたしスープでも作ってくる。お腹すいたでしょ?』
「…うん、ありがとな」
ぱたぱたと駆けていく彼女の後ろ姿を見送る。
確かに、街で遊んでいる時間などないような気がした。
「(もっと傍にいたい)」
一分でも長く。一秒でも長く。
悩んでいる時間などない。考えている時間などない。
その姿を求めて、彼女が消えたドアの先を見つめた。
手放さなければならないから
(余計に、そう強く思う)
END.
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