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『突然ですみません、この後お時間とかって…』

「あ?まぁ。なくはねぇけど」

『うち、近くの神社なんですけど。えっと、はぎわらさん?何かあなたに伝えたそうにしてて。来て頂けたら、分かるかもしれないので』

新手の宗教かと思われそうだな、なんて自分の事ながら思ってしまった後に、そういえば名乗りすらしてなかった事に気がついた。

『遅くなってしまってすみません。東雲慧と申します。神社の巫女をしてます。』

「あー…松田陣平だ。一応、おまわりさんってやつだ。」

『えっ』

「見えねぇってか」

『すっすいませんっ』

「ふはっ。正直な嬢ちゃんだな。」

からりと笑ったその顔は、グラサン越しでも分かるくらいにイケメンでした。強面お兄さんとか呼んでてごめんなさい。

そのまま神社に来てもらって、自分はいつも来ている巫女装束に身を包み、松田さんも身を清めてもらった後に本堂に入ってもらった。後ろを浮いている萩原さんはきょりょきょろと辺りを忙しなく見回している様子。町中の喧騒から切り離されたかのように静まりかえる本堂の中では、私の感覚も研ぎ澄まされるのか、先ほどまでは口ぱくでしかなかった萩原さんの声は、私の脳内を直接揺さぶる。

「…もしかして、聞こえてる?」

『はい、聞こえてますよ。多分私だけだと思いますけど。』

「おぉ!すっげー!いやずっと誰にも見られず聞こえずだったから寂しくってさぁ。でもこいつから離れるのだけは無理だったから、ずっと我慢してたんだよ。俺の名前は萩原研二。よろしくね、慧ちゃん。」

『萩原研二さん、ですね。どうして松田さんから離れられないんです?…ただ大切だから、って訳じゃなさそうですよね。』

「…ちょっと待ってくれ、嬢ちゃん。萩原、ほんっとうにそこにいんのか?」

空中を、正しくは幽霊になってしまった萩原さんを指さしながら、声を出した松田さんに首肯する。

『「なんなら、警察学校時代の最低点を公表しようか?」だそうですけど。私個人としても気になるので聞いてもいいですか?』

「分かった、信じるからやめてくれ。」

『で?』

「俺、爆発物処理班、ってところに所属してて、そこで殉職しちゃったんだけど、犯人はまだ捕まってないんだ。警察に恨みがあるような犯行だったから、まだ、きっと犯行は続くと思う。俺の時と同じように爆弾を使った犯行であれば、きっと次に被害に合うのは松田だと思ったんだよ。そう考えたら死ぬに死ねないって言うか、死んじゃったけど、成仏出来ないっていうか。」

『かくしか。らしいです、松田さん。もうすぐ11月だから、気を付けて欲しい、と。胸騒ぎがする、っていうのはきな臭いですね。これは私の考えなので定かじゃないですけど、幽霊さんって生身の身体がなくて魂そのものだから、人の感情の機微に影響されやすいと思うんです。何か感じてるって事は、何かあるかもしれません、11月7日に。』

顎に手を添えて思案していた松田さんと視線がかち合う。ひょんな事から、もしかして大事件に巻き込まれそうなのかな、なんて思わず考えてしまった私。だって爆弾なんて、連続事件なんて、普通に生きてたら縁もゆかりもない言葉達だ。とはいえ、人命がかかっているのだから、悠長なことは言ってられない。なんて考えていた矢先。

「そうか、…ありがとな嬢ちゃん。」

『え?』

「萩原、お前もさっさと成仏しろよ。」

「え?」

「そんじゃ、サンキューな。」

なんて言って出て行ってしまった。私と松田さんの背中を交互に見やった萩原さんは申し訳なさそうな表情を浮かべたあと、松田さんに憑いていってしまった。

『…大丈夫かな』