障子君と
寒いねえ、と隣を歩く彼女がポソリと呟いた。彼女の吐いた息と空気の温度差の違いからか、少し乾燥した薄桃色の唇から白い息が舞い上がる。ポンチョを羽織っているものの、下はノースリーブの俺もまた「そうだな」とだけマスク越しに答える。そっと彼女の手を握ればじんわりと温もりが伝わってくる。俺の少し浅黒い肌とは真逆の真っ白な肌からは想像できないほどに暖かい。ぎゅっと少し力強く握れば彼女は「痛いよ」と笑う。
彼女の個性が発覚する前、彼女の父はこの世を去った。敵にひどく殴られ即死だったようだ。彼女は、自分の個性が命のやり取りをできるというものだと分かってから、すごく落ち込んでいた。母の前では見せなかったらしいが、ずっと昔、俺の前で「もっとはやく個性がでてればお父さんを救えたのに」と涙を流していた。
個性が発覚してから彼女は変わってしまった。自分のように悲しんでほしくないと言って、何人もの命を救ってきた。それは、自分の命を他人に分け与えるというもの。要するに、彼女自身の寿命を何回も削っていった。3回目くらいに、俺はいい加減にしろと彼女を咎めたが聞く耳を持たなかった。もうすでに、どれくらい寿命が残ってるかなんて知らないという。
「お前は、どうしてそんなに自分の命をヒョイヒョイと分け与えられる」
「またその話?言ったじゃん、自己満足だって」
目蔵が何て言ったってやめないよ、と舌を出して威嚇してくる。
「何て言ってもやめないのか。それは困るな」
「どうして?」
「お前の母に止めるように言われている。それと、お前に死なれたら困るからな」
「えー、お母さんてば。目蔵も気にしなくていいのに」
「そういうわけにはいかないだろ」
「まあ、でも止める方法なんてないでしょ?」
「いや、ある」
ぐっと握っている手に力を籠めればビックリした顔で見上げてくる。それから怪訝そうな顔に変わる。どうやって、という顔だ。
「お前は自分の命には鈍感だが他人のにはそうじゃないからな。名案がある」
「なにそれ、意味わかんない」
生命操作、完璧ではないんだろう。と握っていない彼女の右手を指さす。それがなにか?という顔をした。彼女の右手にはいつも手袋がはめられていた。ずっと一緒にいたんだ。俺はなんとなくわかっていたさ。
「右手に触れると他人の命を勝手に吸い取ってしまうんだろう」
「なんで、知ってるの?誰にも言ってないのに」
「ずっと、見てたからな」
グイっと彼女を引き寄せて右手の軍手を取る。途端に彼女は表情を変えて暴れだすが体格差も、男女の差もあってびくともしない。軍手の下に隠れていた細く雪のように白い右手を自分の胸元へと近づける。
「だめだよ、目蔵!」
「言っただろ。名案があるって」
「…まさか、」
「ああ、俺の命をお前にあげればお前はもう勝手に他人には与えないだろう。俺の命だしな。それに、お前も多少長生きできる。どうだ、一石二鳥だろう」
「…本当、勝手な人だよなあ。目蔵って」
「すまない」
だが、好いた奴には長生きしてもらいたいだろ。そう言いながら右手を胸に当てれば、彼女は諦めたように笑った。
ぼくのいのち、はんぶんあげる
title るるる