Short Story





後輩障子君

※社会人

私がサイドキックとして働いているヒーロー事務所に、かの名門校雄英高校の子がやってきた。障子目蔵君は、雄英高校ヒーロー科A組の中でも、USJ事件などの様々な事件を乗り越えてきた実力のある子だ。

この事務所では、隠密行動や捜索に優れた人たちが集まっているから彼も選んだのだろう。上司から聞いた話によると彼もまた然りで、尚且つガッツやパワーもあるとのことだ。

私はまだ彼と外に出たことはないのだが、事務処理などを教えているうちにある程度話す仲にはなった。
一つ一つ丁寧に学ぼうとする姿勢はかっこよくて、まるで年下には見えないなあ、なんて思いながら今日も二人で作業に暮れる。

他の人たちはパトロールや偵察に行っていたり、元々人が少ないので今は私と彼の二人だけだ。
6つの腕で器用に仕事をこなす障子君を見ながら自分も仕事をする。
ピロン、と外出している上司からメールが来てそれを開けば「今日は帰れないから鍵閉めよろしく」とのことだった。

あの人は人使いが荒いなあ、と思いながらも断れないので「承知しました」と簡潔に返信する。するともう一度メールが届いて、「最近この辺り痴漢がいるらしから障子に送ってもらえ」と書かれていた。

ええ、と思いながら向かいで仕事をする障子君を盗み見る。いやいや迷惑だろ。しかも私だって一応ヒーローなんだぞなめんな、と思いながら「はい」とだけ返信した。
というか私が帰る前にその痴漢とやらを捕まえてください。

まあ、言わなくてもいいだろう、と思いながら残りの作業に没頭した。





ようやく片付いた!と時計を見ればちょうど定時の時間だった。上司のデスクから鍵を取り出して、ずっと静かに業務をこなす障子君に声をかけた。

「もう時間だからあがっていいよ」
「いいんですか?」
「うん、上司から帰っていいって連絡きたし。もうやることないよね?」
「はい」
「じゃ、鍵閉めるよ」

電気を落として鍵を閉める。明日はやめに来なきゃなあ、と思いながら後ろで待っててくれる障子君に「先帰っていいよ」と促す。

「いえ、送ります」
「は、」
「もう暗いんで。それに…、痴漢がいるかもしれません」
「大丈夫だよ。私だってこれでもヒーローだからね?それに、」

こんな可愛げのない女なんて痴漢のほうから願い下げって感じでしょ。と笑えば障子君は「わかりません」とほんの少し、強めの声で言った。

「家まで無事に送れと言われたんで、行きましょう」
「え、言われたって、上司に?」
「はい」

そうなったら、もう送ってもらうしかないか。ごめんね、と謝れば障子君は「気にしないでください」と目を細めた。


誰かと一緒に帰るなんて久しぶりだなあ。あれ、そういえば。

「障子君は家どの辺なの?」

純粋に疑問を投げかければ障子君は少し考えてから「…この先です」とだけ答えた。

「えー、そうなの?じゃあ今度から一緒に帰ろうかな。そのほうが安心だよねえ。この辺り道暗いし」
「…そうですね、明日から送りますよ」
「近いなら、お言葉に甘えようかなあ」

ヒーローともなればやはり憎む人だっているだろうし、熱狂すぎるファンに狙われることだってゼロとは言いきれない。安いアパートを選んでしまったから帰りはほんの少し不安があった。

「あ、私ここだから。障子君も気をつけて帰ってね」

送ってくれてありがとうね、と頭を下げれば障子君も「お疲れ様でした」と頭を下げた。帰りを見送ろうと、障子君が帰るのを待つが障子君は動こうとしなかった。

「…どうかした?」
「いえ、見送りとかは大丈夫なので部屋に戻ってください」
「…?わかった、じゃあ、また明日」

自分のお家ばれたくないのかな?と、家に戻ってから窓を覗けば今来た道を戻る姿が見えた。

「…この先って、嘘じゃん」

なんか怪しいとは思ったけどやっぱり。メールいれとくか、とスマホを開いて「わざわざありがとう、でも明日からはやっぱり大丈夫だよ」と送ればすぐに返信がきた。

”俺はまだ新人で頼りないかもしれませんが、これくらいは頼ってください”

「…かっこいいこと、言うなあ」

ふふ、と笑って簡単に返信を送る。これから彼にどんどんハマっていくことを私はまだ知らない。

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