Short Story





轟君に名前を呼ばれたい

お昼時の食堂でだけ、A組の彼を見ることができる。今日もこっそりと、後ろのほうから赤と白のコントラストを見つめる。

轟焦凍君。私が恋をしている男の子だ。

でも、彼には既に可愛い彼女がいた。彼と同じA組の女の子。いつだって笑顔で、体育祭で見た時の個性も凄くって。彼らが一緒にいるのを見た時は、悲しいとかそんなのよりもお似合いだなって思った。

勿論悔しくないわけじゃない。
私にもヒーローになれるような個性があれば、彼女にはなれなくても轟君に名前を呼んでもらえたかもしれない。少しでも勇気があれば話すことだってできたかもしれない。

でも、やっぱり勇気がない私はあきらめるしかないのだ。

轟君の彼女さんが席を立って食器を戻しに行く。その後ろを轟君もついていく。私の前を通ったときに轟君が彼女の名前を呼んだ。

優しくって、たまらない声。

ああ、私も彼女と同じ名前ならよかった。そうしたら、轟君に呼んでもらえたのになあ。

○○です、縁下くん

「にゃー。」
学校のお昼休み。私はパンと昨日スーパーで買った猫のフードを持って学校付近の公園に来ていた。
お昼ということもあって公園には誰もいない。いや、正確に言うと私たち以外には人の姿はなかった。
私の足元には一匹の三毛猫。最近私の家に出入りしていて、野良猫なのだが半分私の家族となってきている。そんな猫の名前はちぃちゃん。
「ちぃちゃーん。」と呼ぶとしっぽをゆらりと揺らして近寄ってきた。
月曜と木曜の夜はやってくるちぃちゃんだが、お昼は水曜日にしかやってこない。
どこで何をしているのかはわからないが、お腹を空かしているのは確かだ。だから、こうやってこの公園にやってくる水曜日だけでも餌をあげようと思ってここに来るのだ。
ふわふわとした頭を優しくなでると気持ちよさそうに目を細めた。
ヒョイとちぃちゃんを抱いてベンチに座り、膝の上に乗せる。ちぃちゃんは私の膝の上で丸くなった。
「あのねーちいちゃん。」
私が呼びかけるようにするとちいちゃんは目は瞑ったままだったけど耳はしっかりとこちらに傾かれた。
「今日体育の授業があってね、縁下君がバレーやってたんだよ。」
私なんか躓いちゃって笑われたんだよ。と今日の体育についてを話す。
ちぃちゃんはまたか、というように顎を前足の上に置いた。
かっこよかったなあ。そう呟くとちぃちゃんは目をパッチリと開けた。
「どうしたのちぃちゃん?」
私が話しかけてもある一点を見つめたまま動かない。何かあるのかなと思って首を少し回すと、縁下君が立っていた。
「え、あ、」
「…あー、こんにちは。」
「う、ん。こんにちは。」
普段縁下君と話すことはあるが、それは最低限の会話だけだしこうやって二人きりになるなんてことはなかったからドキドキ緊張してしまう。
ちらり、もう一度彼に目を向けるとミルクを持っていた。
私の視線に気づいたのか、縁下君は隣に座ってミルクを開けた。
紙がこすれる音を聞いてちぃちゃんが私の膝から降りた。風が膝をなでて、すこし寒い。
「…もしかして、この子縁下君の猫だった?」
「えっ。いや、そっちの猫じゃなかったんだ。」
この猫、時々うちにやってくるんだよ。
優しそうな瞳がちぃちゃんに向かれた。
「私の家と一緒だね。この子、私たちの家行き来してたんだ。」
「みたいだね。」
そこで、会話が途切れた。
何か話すべきかと思ったが話題が思い浮かばない。
ちぃちゃんがミルクを飲み終えて、チャイムが鳴った。
携帯で時計を確認すると、もうあと何分かで授業が始まる時間だ。
「急ごっか。ばいばい。」
縁下君はちぃちゃんに別れを告げてこっちを見てきた。一緒の教室だし、一緒に行こうってことかな。
私「ばいばい。」とちぃちゃんに言って、学校に向かった。
「あ、あのさ。」
「え、何?」
「さっき、あの子に、話しかけてたよな?」
「う、あ、知って…!?てかいつから…!」
「あー、まあその辺はともかくさ、その、なんというか…」
バレーいつでも見に来ていいよ。
優しくはにかんだ彼の顔を見て、いてもたってもいられなくなった私は彼の顔を見れなくなってしまった。
かっこいい、の後に好きっては言わなくてよかった。

ネコ相手に恋の相談
(言えるようになるまで待っててほしいな、なんて)

title 序曲
過去サイトの小説を少し弄って掲載。

三奈ちゃんと天パと私

「あーあ、天パっていやだなー、モモちゃんが羨ましい…」
「分かる…天然ナチュラルサラツヤヘアーっていいよねー」
「三奈はまだピンクで可愛いけど私なんて黒いからもう…オタク…」
「…それで自分ディスったら緑谷とかどーなんのさ」
「緑谷君は…似合ってるし緑だから…でも悩むよね」
「何が?」
「天パって劣性遺伝じゃん?となるとサラサラヘアの人と結婚したらその子供は高確率で天パ…こんな劣性遺伝を広めてはいけないという使命に駆られる一方でじゃあ天パ同士でとなったら子供が可哀想な気がして…」
「大げさだなー」
「いやいや…これは一大事だと思うんですよ芦戸さん」
「じゃあ、私と結婚すればよくない?」
「なんで?」
「そうしたら劣性遺伝を気にする必要もないし、名案じゃん!」
「ええ…」
「なんでいやそうなの!」
「三奈の可愛いピンクは残していかねば…」
「そもそもウチらに劣性も優性も関係あるの?」