レ・ミゼラブル - 1
欲望街、中華街ラオロンにやってきた探索者御一行。3ウェーブ目の±5のところで1D100を振って一発ドンピシャを引き当てた自探索者の視点の話。NWIの依頼では自探索者は無傷。変装の達人で依頼ごとに見た目も声も人生も変えている。特殊すぎて多分卓見てないとわかんないし卓見ててもわかんないと思う。そんな話。
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銃声、剣戟、打撲音。戦場と呼ぶに相応しい、朽ちた銀食器と焦げたスモーブローの香り。故郷を思い出すこの社交場で私は……私”達”は、踊っている。人の手を取って踊るなんて、人と一緒に依頼をこなすなんていつ振りでしょう。楽しくて、愉しくて、口元がにやけてしまいそう。
「うふふ」
「何をにやけて、ぎゃッ!」
「あら、ごめんなさい。あんまりにもちっぽけで存在に気づかなくって。踏んじゃったけど許してね?」
そのまま踏みつけた腹部をしっかりと踏み抜いてあげると、その人は醜い悲鳴を上げて動かなくなった。血肉が弾けて、アンクルストラップのついたパンプスに赤いペイントが張り付く。水玉模様……にしては、ちょっと面積が大きすぎるかな。
小華和さんとジョン君もとっても頑張ってる。小華和さんに銃を預けておいてよかったな。私は別にこの身一つでもなんとかなるし、彼女は力がとっても弱いから……。ジョン君はしっかり立ち回れてるね、うんうん。あの被り物してて普通の人と視野がほぼ変わらないのはすごいと思うな。まぁちょっとびっくりはするけど。
流れ弾が割と遠慮なく仲間に当たってるけどそれは経費で落ちる的なアレなのかな? まぁ少なくとも今私たちを殺せれば直近の危機は逃れられるもんね。でも私たちは殺し屋だからね。上手いこと人と人の間をくぐり抜けてあなた達を皆殺しにしちゃうから。このままいけば……まぁ、なんとかなるんじゃないかな。なんともならなくても私がなんとかするけど。
「うーん、ちょっとやかな」
なんとなく嫌な予感がして、その場にあった肉盾を軽く蹴り上げる。意識がないからか、死んでいるからか、とにかく重かったけれど。本能的な命の危機に私は抗えない。“そう”作られているのだから、“そう”あることしかできない。スパイさながら低く伏せ、次寄ってきた人を攻撃できるように銃を構えた。
「う、ッ……」
「うわっ!」
一際鋭い銃声と共に二人の呻き声が聞こえる。この数日間共にした彼女達の声というのは他の声より一際大きく聞こえてくるもので、居場所もはっきりとわかった。好きな人の声って、どんな街の喧騒の中にいても、地面が割れるような大嵐の中いても、はっきりと聞こえてくるでしょう?
思った通り寄ってきた中華服の男に銃弾を3発プレゼントしながら二人の方を見やる。運が悪いのか立ち回りが悪いのか、別々の場所で二人とも怪我を負っていた。特に小華和さんの方は重症だ。医学を少し齧っているだけの私にもわかるぐらい露骨に“ダメなところ”に傷を受けている。自分だって怪我をしただろうにジョン君は駆けて行き、小華和さんを抱きとめた。まるで素敵なラブロマンスね。かぼちゃ頭の騎士様と美麗で非力なお姫様。私はさながら恋路を邪魔するトリックスターかな。まぁそんなこと口に出したら、十中八九小華和さんの機嫌は損ねるだろうけど。
軽く合図を出し合って互いの状況を確認する。どうやら小華和さんは本気で気絶してしまったらしい。私よりジョンくんの方が力が強いのでとりあえず小華和さんの身柄はジョン君に任せることにした。まぁ私が大きく立ち回ってたらある程度は撹乱できるだろうし、こういう役回りはジョン君より私が向いてる。そうだよね?
「死ねアル!」
「あはははは!中国人だからって語尾にアルつけるのは無難、すぎ、でしょ!」
前菜は足、一気に飛ばして肉料理は顎、最後の甘味は横腹!喋りながら蹴ったからちょっとだけ舌を噛みそうになってしまった。危ない。マフィアの手元から離れた中国刀がくるくると舞って私の横に突き刺さる。お上手!
「お行儀が悪くてごめんなさいね。私、欲しいものだけが欲しいから……ふふ」
吹き飛んでいったマフィアの体は重なっていてまるでミルフィーユにみたい。とっても無様で面白くって、つい地面に突き刺さったままの中国刀を投げちゃった。うまく刺さって、傷口から赤い赤い生クリームが飛び出す。どんなに上手なオーケストラにも負けないぐらいの音楽が大音量で飛び出してきたから、私は飛び上がって大喜びした。ありがとう。大好き。一つ残念なところがあるとすれば、この手でフォークを持って、生地に直接刃を突き立てたかったってことぐらいかな。
「私の遊びに付き合ってくれてありがと♡こ〜んなに可愛い女の子に終わらされるなんて幸せでしょ?」
ひらりと回転して服の裾をつまむ。昔に学んだお綺麗な嗜みってやつ。
すぐ近くに感じた熱い視線から逃れるように近くの壁を蹴り上げて、くるっと一回転した。さっきまで私がいたところでは鉛玉と剣の切っ先が舞っている。ごめんなさいね。踊るのは人間とって決めてるの。手は取れないけど最期にプレゼントはあげる。空中で弾道をざっと読んで。およそ想定される私への求婚相手に目星をつけた。ばっちりと目が合う。なのでウィンクをしておいた。顔が引きつって、一気に真っ青になって、手に持っていた花束が落ちる。ガチャリと音を立てて花たちはすっかりダメになってしまった。全てがスローモーションのような世界の中で、私はお断りの言葉の代わりに銃弾を贈ってあげるの。ごめんなさいね、冥途の土産ぐらいは用意しておいたから。
ちょうど足元に薄い鉄の足場があったから、それを踏み台に近くにある人間の頭を蹴り飛ばした。うまいこと行ったらしくて首から上がなくなった。首無しマイクの出来上がり! こんがり焼いてクリスマスのターキーにしちゃおうかな。足場を支えていた人間が死んだからかぐらりと世界が揺らぐ。飛んでとりあえず地面に着地した。華麗には程遠いダンスだったかもしれないけど、高得点でしょう!
肺いっぱいにたまっていく人間の中身の匂いと、熱い雨に濡れて重くなる服。これこそ、これこそが私が常日頃求めてやまないもの。命のやり取りが楽しくてしょうがない。殺意と嫌悪が入り交じり、怨嗟と歓喜が、運命と理性が反発しあう。死にかけるほどラットレースを終わらせたくなくて、優位な状態であればあるほど命をもてあそぶ行為を楽しみたくて仕方がない。
戦場のど真ん中で悦に入っているとふと、間近から、もうダメな、手遅れの”嫌な気分”がやってきた。う〜ん、これはだめ。きらりと光る鈍色のナイフが私の腹部を貫かんとその距離を一気に縮めてくる。
「っつ、ぅ……」
あぁもう、しくじっちゃった。私の悪い癖。楽しいことがあるとそれに集中しちゃいすぎる。気を付けないとなぁと思ってたんだけど、まぁ仕方ないよね。戦場はいつでもどこでも自分がいるところがド真ん中。特に今回見たいな乱闘だとなおさら。油断した私が悪いかな。無理やり動かしたからか筋を痛めた足をかばいながら周りを見渡す。小華和さんを抱えたままのジョン君がこっちをちらりと見てきた。ウィンクと投げキッスをしたんだけどちょっと引かれたかも。
適当に壁を撃ち壊して、人間の死体の山の近くにがれきを蹴り落とす。下にいたマフィアは死んじゃったけどそんなところにいるのが悪いよね。ジョン君は私のやりたいことがわからなかったらしいので手を引いてこっそり陰に隠れた。
「う〜ん、バレてないといいんだけど……小華和さんどう?」
「目を覚ます気配が全然ねぇな。正直人数が多すぎて治療を施すような余裕もないし……」
「ん」
「子供もよくあの中を本気で無傷でいられるよねぇ。私見てここ。ほら。お腹切れちゃった。いててだよ」
少し心配そうな顔を向けてくる子供の頭を撫でながら、ちらりと小華和さんに目をやれば苦しそうな顔をしながら荒い息を立てている。意識はないんだろうけど割と速やかに傷を何とかしないと駄目なのかも。これは絶好のチャンスなのでは? 私がたっくさん人を殺せる大大大大大チャンスなのでは!? ワクワクしすぎて笑えちゃう。手持ちの銃に銃弾を込めて、一つ深呼吸をして立ちあがる。
「まぁ時間ぐらいなら今から稼ぐから大丈夫大丈夫。なんならそのままみんな殺してくるよ」
「大丈夫か?」
「平気平気。私の業運見てたでしょ? あと少なくとも君たちよりかは運がいいし人殺しにためらいはないよ。まぁまぁ、軽く命賭けちゃって? 倍にして返してあげるから♡」
それじゃいってきま〜す、なんて軽口をたたきながらルンルンで飛び出していく。私は強いよ。だって貴方たちより人を殺すの好きだもん。私は負けないよ。だって貴方たちとは覚悟の大きさが違うもん。だから勝つの。貴方は負けるの。簡単でしょ?
ジョン君の不安そうな視線を背中に浴びながら、この世界中の人間に、この世界の外にいる人間に、”君”に、見せつけるように。右腕を上にあげて手に持った拳銃を二発撃った。視線がこっちに向けられる。殺意が、憎悪が、怨嗟が、歓喜が、全ての感情が私に降り注がれる。全ての意識が私に向けられる。それを傍目に私は減った分の銃弾を補充した。二発。少ないけど、人を殺すには十分な鉛の玉。
「私、淑女なので。私と踊りたい方は跪いて手を取ってくださいな?」
差し伸べられた手を切り落とすから。私が踊れるのは死の踊りだけだから。だから殺すの。”そう”あれと願われたんだから。純粋たれと。”そう”あれと作られたんだろうから。霧の中であれと。
皮を裂いて肉を抉って骨の一本一本を観察してあげる。ほんとの私であれるように。本当の自分自身を見つけるために。貴方たちみたいなしくじったからやろうだなんて、そんな生意気で突発的な目的じゃないの。生まれた時からそうだと定められているのだから。まぁそれは”私”ではないけどね?
直観と運。自分の体に張り巡らされた危険的直観。助かるビジョンが見えないような現状を何とか適当に打破するための運。結局運なのだと思う。何とかするしかないんだ。というか。勝手に何とかするしかないんだ。殺そう。何とか出来るから私はここにいるんだ。殺そう。この戦場というダンスフロアで私対みんなで踊ろう。どちらかが全滅したら終わり。全滅した方が負けね。
痛む横腹を見ないふりをして、足を踏み外さなくとも突っ込みそうな死の狭間を抱きしめる。他二人の命とか別に背負ってるわけじゃないんだよね。だからあくまで”賭け”なの。私は私の命をチップにこの戦場で戦う権利を得た。見てて、脳男くん。聞いてて、脳男くん。どこにいるのかわからないし欠片も興味はないけれど、私は君の力なんて借りずとも一人で何とかするよ。スムーズな進行がお望みでしょ? 一発でキメてあげる。
「みんなのこと、あいしてるよ♡」
愛の代わりに、痛みをあげる♡ だからせいぜい足掻いて、ね?