「手紙」 - 2

 ボイスレコーダーには一つだけ録音がされていた。それを再生すれば元気なアレクの声が聞こえてくる。

『お誕生日おめでとう!兼次!』

 ふ、と口元が緩んだ。この顔をアレクに見せてやれないのが残念だ。アレクは俺の笑った顔を見るといつも以上にニコニコと微笑んで目をきらめかせていた。一か月に一回、必ず律儀に会いに来る。最近メディア露出が増えてきて忙しいだろうに。そう零せば「兼次に会えなくなるならメディア露出とかいらないもん」と口を尖らせていた。日本語を勉強する時間を執筆の時間に費やせばいいのに。そう返事に書こうとして、ペンを止めた。
 面と向かって中々喋れない。相手の表情もわからない。だからこそ文字に感情を込める。この時間のかかる語らいというものもまた粋だと思っている自分がいる。未だ耳に残るアレクの声を反芻しながらまたボイスレコーダーの録音を流した。元気なアレクの声が聞こえてくる。十年前よりも背が伸びて、声も低くなった。傭兵という仕事や俺の教え方があまり上手ではないことも含めて、本来アレクが得たはずだった教養というものをあまり持たせてやれなかった。本来であれば竹中考助のように大学に通い、勉学に励んでいたはずなのだ。アレクが自ら選んだ道とはいえ、過酷な道であることに変わりはなかっただろう。それでも傭兵としてここまで生きているのは、生まれ持ったセンスと、鍛錬や努力を欠かすことなく続けてきた継続性によるものだ。
 他者の苦しみや痛みを自分の物のように感じることのできる純朴な少年が、よくここまで成長した。まぁ、成長しすぎている節はあるように思うが。他者を傷つけることに抵抗がないのは傭兵として悪いことではない。あの時、九十九神琴がカミロ・ヴァンニに抱き着いた時。危害を加える前に殺そうかとじっと見ていた時は百年間の成長というか、変化を感じた。いや、こちらでは二年しか経っていないんだったな。たった二年で。ここまで。しみじみとした気持ちを胸に筆を進めた。