宣言ホームラン - 2
九回表一死二、三塁。二対六でこちらが追う形。
もう限界だ。百十四球目の球を取った瞬間に、確信した。体力の限界は勿論の事、甲子園という舞台、一人で投げ切らなければならないという責任からくる精神の磨耗、これ以上点を取られたら取り返せないと言うプレッシャー。緊張に弱い一年生にここまで投げさせた側に問題があるとしか言えないが、この道を進む他選択肢は残されていなかった。それぐらいに俺たちの高校は人数的な面でも追い詰められていた。
次の投球を始める前に一度動きを止めさせて、マスクを上げながら小貫君の元へと駆け寄る。少し驚いた顔をしながらも隠しきれぬ疲労に心は泣き言を吐いたが、唾と一緒に無理やり飲み込んだ。
「小貫君、無茶してるだろ」
「え、いや、えっと……」
「嘘はつかないで。自覚ある? 球が荒れてるよ」
二、三塁にまで足が伸びてしまっている原因をしっかりと突きつければ、小貫君の頬を汗が伝っていく。暑さによるものというよりも、隠し事がバレた子どものもののように見えた。限界を押し込めて投げ続けさせてしまっていた。俺自身、それに気付きながらも見て見ぬ振りをしていた。
でもこれ以上は限界だ。これ以上無理に投げれば故障しかねない。小貫君は一年生で、まだ未来があって、これが最後の夏じゃない。だから俺は、これ以上は投げさせない。
「ここまでよく投げたね。交代しよう」
「でも、俺以外に投手はいないじゃないですか。まだ投げられます!」
「高崎先輩は元投手だよ。野手の方に適性があったから今は外野手をやってるけど、投げられないわけじゃない。……俺は君にこれ以上投げさせるつもりはないよ。もうフラフラじゃないか」
まだ投げられる、まだやれる。言いたいことはたくさんあるだろうけど、全部が荒い息になって吐き出されていく。それが何よりの疲労の証拠。
監督に目線を投げれば、監督は深く頷いて高崎先輩に指示を出し、高崎先輩が審判へと指示を伝えた。小貫君と高崎先輩を交代するようで、俺の意思が伝わったんだと把握した。
「高崎先輩のこと伝えてなかったこと、最後まで投げさせてあげられないこと、本当にごめん。でも君はこれが最後の夏じゃないだろう? 今はゆっくり休んで」
「…………はい」
名残惜しそうに、悔しそうにマウンドを去っていく。ベンチに辿り着いた小貫君が監督やマネージャーに介抱されているのを見て、そこから目を離した。
「流石に九回は投げすぎか」
「さっき内角指示出してたんですけど思いっきりド真ん中でしたね」
「あー、それはダメだな。下ろした方がいい」
「七回の時点で相当でしたから。ここまで抑えれてるなら十分合格点だと思いますよ」
「お前と監督に言われて練習はしてたけど、本業は外野手だからな」
「わかってます」
高崎先輩は少し居心地悪そうに帽子を被り直すと、自分の頬を叩く。逃げたようなセリフを吐きながらもその目の闘志はより強く燃えていた。
『〇〇高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、小貫君に変わりまして、高崎君。十番、高崎、晴人君』
「一イニング、よろしく」
「はい、頑張りましょう」