「生体エネルギーはポケセンとかでは元にも戻らないの?」

 いつもお世話になっている、万能な治療器具を思い出す。バトルでボロボロでひんし状態でも、猛毒の状態でも火傷でも氷漬けでも麻痺していても…。大怪我でも回復してくれるとても頼りになるこの施設。
 私の問いかけに、ソヴァールさんは首を横に振る。

「ポケモンセンターでは回復はしません。生体エネルギーは生きようとする気持ちが少しでもあれば、ゆっくりとですが回復するのです」

 ですが……。言葉をつづけようとしたのだろうけれど、彼女は言葉を詰まらせた。
 生きようとする気持ちがあれば回復する。けれど、目の前の彼女達の言葉を聞く限り、当人は元に戻っていないのだろうということが分かる。

「それじゃあ、ボタンさん達がゼルネアスを求めるのは…」
「ゼルネアスが、命を捧げる伝説だからです」

 あぁ、成程。
 少し整理しよう。まずこの街にはフレア団の大量捕獲の被害に遭っている。そして、その際にボタンさんは大怪我を負い、その時にシュヴァリエさんが連れて行かれた。そしてフレア団の事件が解決したが、シュヴァリエさんは生体エネルギーを吸い取られなくなってしまう。生体エネルギーを回復させることは簡単なことではない。帰ってこないシュヴァリエさんを助けるために、ボタンさん達はエネルギーを求めた。それが、与える者として存在してエネルギーも膨大なゼルネアス。そして彼女達は私をゼルネアスと勘違いしていた。だからこそ、彼女達は私に力を貸してほしいと迫ってきたわけだ。

「質問。仮にゼルネアスが力を貸してくれたとしたら、どうやって生体エネルギーを回復しようとしたの」
「……それは、サージュさんにすべて任せておりました」
「サージュさんねえ…」

 海紀の質問にソヴァールさんは少し目線を逸らして答える。希咲はぽつりと名を呟いた。

「そういえば、皆さんのポケモンの種族って…」
「説明が遅れましたね。私はブリガロン・シュヴァリエの娘、私もブリガロンです。ムナールさんは色違いのゲッコウガ。サージュさんも色違い、種族はマフォクシーです」

 カロス地方の初心者用に博士からプレゼントしてもらえるポケモン達だ。ソヴァールさんはブリガロン…どこか納得した。屈強な見た目に反して穏やかな性格でとても仲間思いなポケモン。仲間がピンチになると、身を挺してかばうこともあるという。 背中には大きな甲羅があり、それに顔の前で両腕組み合わせて防御のポーズを取る事で、顔から胸を覆う円形の盾を作り出すことができるはずだ。彼女が助けてくれた時に振り回すようにして使用していた、大きな盾のような物。それはブリガロンだからだ。その防御力は相当なもので、爆弾の直撃も防ぎきるほどだと聞いている。
 それにしても、三人中二人が色違い…。まさか、と資料を捲ってシュヴァリエさんの写真を見る。そしてちらりとソヴァールさんを見て、再度写真を見る。その動作を見て彼女は気づいたのか、父も色違いですと答えた。
 色違いばかり…目立ちそう…。

「種族、タイプが分かればこっちのものだ。対策はとれる」
「でもゲッコウガの時ダメだったじゃん」

 千旭の言葉に、海紀がすかさずツッコむ。うぐ、と千旭が声を詰まらせた。

「……彼は、特別ですから」
「特別?」
「えぇ、正しく言えば彼等…ですけど。彼等は特性が普通とは違います」

 ゲッコウガの一般的な特性はげきりゅう。体力が減った時に水タイプの技の威力が高くなる。だが、ムナールさんの特性は“へんげんじざい”というものらしい。彼が技を繰り出す直前に、自分のタイプがその技と同じタイプに変化するというものらしい。
 説明を受けて、彼とのバトルを思い出す。そうだ。本来ゲッコウガはみず・あくタイプなのに千旭のはどうだんが効かなかった。それは、彼が寸前に私へじんつうりきを繰り出していたからだ。じんつうりきはエスパータイプ。タイプが繰り出した技と同じになるのなら、彼はあの時エスパータイプだった。それじゃあかくとうタイプの技である、はどうだんが効くわけがない。その後に彼はまきびしを繰り出した。まきびしはじめんタイプの技。彼はじめんにタイプが変わった…それじゃあ希咲の電気が通るわけがない。なんと面倒くさい特性なんだ。
 そしてサージュさん。彼女の種族であるマフォクシーの特性はもうか。征良と同じ特性で、ピンチの時に炎の威力が上がる。けれど、彼女の特性は“マジシャン”というものらしい。相手が道具を持っていて自分が道具を持っていない時、攻撃を与えた相手の道具を奪うというもの。簡単に言えば、ポケモンの技のどろぼうやほしがるが特性になった、という感じか。
 ふ、と征良の首元を見る。彼はずっとチョーカーのあたりを気にしている。

「もしかして、征良のメガストーンが取られたのも」
「ええ、その特性です」
「はっ、更に魔女っぽくなってら」

 魔法とか魔方陣とか使ってんじゃね。真心がソファーの背もたれに寄りかかりながら、吐き捨てるようにして言う。魔女…魔女、か。
 ちらり、と横に居る征良の横顔を盗み見る。彼の表情は、怒っているようにも悲しんでいるようにも悔しんでいるようにも見える、少し難しい顔をしている。もしかしたら、今の感情全てを持っているのかもしれない。
 彼の空いている方の手に、そっと私の手を重ねた。彼は気づいていなかったのか、突然の事にびっくりしたらしい。珍しく肩を跳ねさせて、私の方を見た。その表情はまるで説教されるのを恐れる様な子供のようだ。その表情を見て、思わずちょっとびっくりする。
 もしかして、彼は私に怒られるとか思っているのだろうか。なんで? と思ったけど、そうかメガストーンが無いと彼はメガシンカできないし、あれは買ったりして入手するモノでもない。大切なモノをなくしてしまった=怒られるという考えなのかもしれない。
 バカだなあ、なんて思いながら彼の手の甲を痛みを感じない程度にぽんぽんと叩きながら話し始める。

「別に怒ってないのにそんな顔しないでよ。返してもらえばそれでいいんだからさ」
「……だが、俺は元の姿に戻れなくなったし…これじゃあ足手まといだ」
「君が居てくれたら、それで私は助かってるっての」

 最後にパシンと少し力を込めて叩いた。君は私にとって、どれだけ助けられる存在か分かってない。もっと自覚して自信持ってくれても良い。

「今だけかもしれないよ? 心と身体のバランスが崩れてしまったとか、ちょっとした些細なことが原因かもしれないし、少し色々と会って混乱してしまっているのかもしれない」
「……だと、良いんだが」
「大丈夫、何があってもどうなっても私は君の味方だし、裏切ることも捨てることもない。そこは安心してほしいんだぞ」

 ていうか、長い付き合いなのにまだ信じてくれなかったの…。少し寂しいぞ。
 むす、と口を尖らせていれば、彼は優しい笑みを浮かべて優しい声色でありがとうとお礼を述べてくれた。その言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれる。

「そうだ、シュヴァリエさんは今はどこに?」
「まだ我々の元には戻ってきていません。フレア団の一人だったという人間が、もう少し待てと。それが明日が約束の日として戻ってくる予定でした」
「ふぅん……」

 明日か……。それじゃあ、私…まぁゼルネアスと勘違いされてるけど、私を捕まえておいて明日シュヴァリエさんが帰ってきたときにエネルギーを渡す…という計画だったのかな。
 そうか、それじゃあもしかしたら明日になったらまた向こうから来るのかもしれない。用心しておくに越したことはないか。
 一人で考えていると、真心にお嬢ちゃんと声を掛けられた。

「ホロキャスター貸してくれる。連絡を取りたい」
「え…良いけど…って、あ」

 そうだ、私荷物も全部取られて…! しまった忘れてた…! どうしよう、と思っていればソヴァールさんが此方の方へ寄って来て、そっと私に何かを手渡してきた。渡されたものを受け取ろうと両手で受け入れれば、手の上に乗っているのは私の愛用している鞄だ。
 ビックリして彼女を見ると、私が預かっておりましたと頭を下げる。あぁ、彼女が味方で居てくれて本当に良かった。お礼を述べてから鞄の中のホロキャスを手に取って、そのまま真心の方へ軽く放る。彼は上手くキャッチして、ホロキャスを見せるように腕を上げてありがとうと礼を言ってくれる。

「そういえば、真心はどうしてソヴァールさんが味方だって分かってたの?」

 美術館でも彼は彼女に敵意は出していなかった。そして先程も『彼女は味方だ』と言っていたし。首をかしげると、彼はチラリとソヴァールさんを見てから片方の手で食べているマカロンを私に見せる。って、それって私が貰ったマカロンじゃないか! 何勝手に食べてるんだい!
 彼は謝りもしないで、ゆらゆらとマカロンを持っている手を揺らす。

「昨日出された紅茶に毒は入っていたが、マカロンには盛られていなかった。紅茶はサージュ、菓子はソヴァールが用意したものだろ」

 だからだよ。と結論を述べてから再度口の中へ運んだ。チラリとソヴァールさんを見ると、彼女は頷いた。

「……私がゼルネアスだったら、毒盛ってました?」
「いえ、その様な事は致しません。私は騎士ですから」

 彼女の真っ直ぐな瞳と声の限り、嘘ではなく本当の事なのだろう。小さく微笑んで、再度お礼を述べた。


「うん、そろそろ夕ご飯にしようか。また明日に備えて、栄養とって休息も取って」
「よーし! ご飯だ!」

 私の言葉を聞いて海紀が両腕を上げて喜びを表現した。座っていた皆も次々と立ち上がる。ポケセンの食堂で食べようかと言えば、皆も頷いてそのまま食堂の方へ向かっていく。ソヴァールさんも一緒に、と誘えば彼女は少し慌てたけれど小さく彼女のお腹が鳴り、綺麗で可愛い顔を真っ赤にさせる。思わずくすりと笑みがこぼれた。

「す、すみません…!」
「誰だってお腹はなりますよ。私なんていつも笑われて」
「……ふふ、ご一緒させて下さい」
「勿論!」

 扉の所で待っていた希咲がソヴァールさんを招いて、彼女は小走りで希咲の元へ向かう。その姿を少し見送ってから、私も後を追おうとすれば彩瀬がまだ移動していないことに気付いた。彩瀬? と声を掛けると彼は私の傍まで寄ってくる。

「サクラさん。さっきの話ですけど」
「ん?」
「この街に行こうって言いだしたのは貴方ですが、自分たち全員が賛同し、皆で意見をまとめた結果です」

 彼の言葉に、思わず開いていた口がそっと閉じる。巻き込んだ、という私の言葉に一番良い顔をしなかったのは誰よりも優しい彼だった。そんな優しい彼と目を合わせるのが切なくて、そっと目線を下に動かす。

「だけど、推したのは私だよ」
「そうですね。でも、貴方のせいじゃないです。自分にも責任はありますし、ひいては賛同した個人個人に責任があります」

 彼の言葉はいつも優しいけれど、でも彼は誰よりも冷静に事実を述べてくれる。私に関することで周りの皆のように激しく動揺することもなく、冷静に対処する。熱くなったり、皆が感情的になるときに客観的に考えてくれる。そんな彼だからこそ、こうやって言葉をくれるのだ。

「……」
「貴方の所為ではないです。貴方は、不幸とか責任を率先して引き受けようとしますけど、良いんですよ。自分たちの不幸くらい、背負い込まないで。慰みで手を差し伸ばす程度の気持ちでいてください」
「……うん、ありがとう」

 私の手を丁寧に救う様にして手に取り、そのまま私の手の甲の上に彼の手を乗せた。彼の体温がじんわりと伝わってくる。安心する。
 彼の手をぎゅっと握って、何度もお礼を述べる。笑顔で言えているかな。
 私の顔を見て、彼はその綺麗な顔を崩さずに綺麗な笑顔で返してくれる。見た目も心も綺麗なの、本当反則的だよね。彼も手を握り返してくれて、食堂へ行きましょうとそのまま手を引っ張ってくれた。今日二度目だ。彼の手に何度も救われている。





<<

[4/4]
ALICE+