譲れないんです

「いらっしゃいませー、こんにちはー」
「こんにちは、名前ちゃん!」

からんと軽快な音を立てて店内に入ってきたお客様を笑顔で迎える。
   これが私の最近の日課だ。

あの、シロガネ山と呼ばれる山から降りて、もう半年という月日が流れた。山に籠もっていた頃の記憶が今では懐かしく感じる。
下山した際にレッドくんが紹介してくれたオーキドという博士が、ポケットモンスターと呼ばれる獣について詳しく教えてくださったおかげで、今ではすっかりこの世界に馴染むことが出来たと思う。
町は、ポケモンがいることを除けば、私がいた世界とさほど変わらなかった。寧ろ、赤の他人である私を温かく迎え入れてくれたのだから、向こうよりもいいかもしれない。
私はあまりにもポケモンに関しての知識が無さ過ぎたおかげか、何らかのポケモンによって記憶を無くしたことになってしまった(帰り方が分からない上に、ポケモンの知識が無いと話したらそう解釈された)。悪いとは思っているが、こちらとしてもその方が好都合なので弁解はしていない。
そんな怪しさ全開な私にも関わらず、オーキド博士は身分を証明できるものを持っていなかった私に住所を貸してくれて、トレーナーカードなるものまで作ってくださった。
これで、様々な施設を無料で使えるようになるらしい。
あの時は、涙がちょちょ切れるほど嬉しかったね。いつか悪い人に騙されないか心配になったよ、うん。

そうして私は、晴れて新たな住居とバイト先を手に入れた。
本当は彼の研究室に住み込みで働いてもいいと言われたのだが、なんせ知識が浅い私には役に立てることもなく迷惑を掛け兼ねないので、近くのアパートを借りた。
バイトが入っていない日は、敷地内にいるポケモンの世話やお使いをしている。これだけで助けてもらった恩を返せるとは思っていないが、これが私に出来る唯一のことだと判断した。

アルバイトをしている理由としては、単にバトルが苦手だからだ。
勝つだけでお金が貰えるというシステムはとても魅力的なことだが、私は自分をあの子たちのトレーナーだとは思っていない。
ボールで捕まえたのだって怪我を完治させるためには仕方がなかったことだし、従者云々ではなく家族としてみている。
その家族が闘って傷付いた姿はあまり見たくないのだ。
信じていないわけではない。だけどやっぱり、ポケモンバトルというものを見慣れていない私には、とても辛いものがあった。
お金欲しさでバトルするのは、あの子たちを利用しているようで嫌なのだ。
だから私は、自分の手で稼いで、あの子たちを養っていくことに決めた。家族として、親として。
幸い、隣町であるトキワシティのフレンドリーショップが求人広告を出していたのを見掛けて、今はそこで働かせてもらっている。
お客様も気さくで良い人たちばかりだし、何より使用期限が切れそうな傷薬を無料で貰えるのはとても有り難い。

「名前ちゃーん、このモンスターボールの棚卸しお願いねー!」
「はーい!」

さて、今日も頑張るか。





(……あいつのことだから、いつもみたいに検討違いなこと考えてるんだろうな)
(ふふ、そうですね、名前はコイさんと似て心配性ですから)
(どういう意味だ)
(もう僕、退屈だよ、バトルしたいよ!)
(仕方ないよ坊や。名前は今忙しいんだよー)
(でも、でもねクマ!バトルした方が早くお金貰えるんだよ!僕たち強いから沢山集められるのに!)
(そうなんだ、そしたら名前も楽になれるねー!)
(よし、そうと決まれば俺たちも外に出るか)
(おい待てネコ!お前は自分が外に出たいだけだろ!)
(なに?うるさいんだけど、ウマのくせに)
(……なんだか腰の当たりが騒がしいな)
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