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「お前は指示も出せないで、自分のポケモンが傷ついても黙って見ることしか出来ねえんだろ!」

先ほど僕が叩きのめしてやったトレーナーが、逆恨みのごとく名前に言った。
負けたくせに指図するなんて、負けガーディの遠吠えもいいところだ。
怒りを表すために唸ると、案の定、男は怯んで逃げていった。

実は名前が罵倒されるのはこれが初めてなわけではない。
闘いに負けた後の人間達は決まって名前に向かって同じようなことを言った。

バトルに勝てたのはポケモンのおかげだ。
指示も出さずに、一緒に闘うこともしない卑怯者だ。

と。
それは当たり前だ。
名前には僕達ポケモンと共存していく上の知識が少なすぎた。
つい数ヶ月前に初めてポケモンを目にした名前は、教育を終えた10歳足らずの人間よりもその知識は遥かに浅かった。
種族名も知らない、捕まえ方も分からない、技という概念すら持ち合わせていない無知な奴なのだ。タイプを目利きして、相性を考えることなど、当然出来るはずがない。
そんな奴にバトルしろだの指示しろだのと言っても無理な話に決まっている(一度、見よう見真似の指示で野生のポケモンと闘ったことがあったが、それはそれは悲惨な結果になった)。
それ以前に、野生での経験が長い僕にとって、指示されること自体窮屈で仕方がない。
レベルが高くなってくると、その分ごり押しでも余裕を持って勝てるようになる。上手くこちらの攻撃さえ入れば、後は勝手に倒れてくれるのだ。
レベルの差が物を言わせるこの状況で、指示を待つ必要がない、というのが本音だ。

それに、あのバトル狂いの相手をさせられたら、誰だって嫌でも強くなる。
あいつらだって、今ではすっかり僕が手を焼くほど強くなってしまった。
この山に入れるトレーナーは実力者だけだと聞いたが、もう僕達に掛かれば敵ではなかった。
不覚ながら僕達はレッドという男に染められてしまったのだ。




「   名前」

男が去った後、ぼーっと突っ立ていた名前の顔に水を放った(勿論手加減して)。
ハッとした様子で我に返ったこいつは、何するの、と自分の服で顔を拭った。

バトルをするたび言われている言葉だけに、てっきり慣れていると思ったがどうやら違っていたようだ。
服で顔を覆ったまま、ぺたりと地面に座りこんだ。
ごめんね、と小さな謝罪が聞こえてくる。

「指示が出せないのはもう諦めたけど、バトルで傷付いたお前さんたちを見ていることしか出来ないのは流石にツラいかな」

変わりに私が傷付けばいいのにね。自分を責めるようにそう言った名前を見て、本当に馬鹿だなと思った。

そんなことになるなら、僕は名前が傷付いた分だけ、自分を自分で傷付けてやる。

まったく、ポケモンの知識が無いなら、無いなりに僕達を利用するくらいの肝があれば楽なのに。
こいつは支えてくれる人間が身近にいなかっただけに、僕達に対しての愛情が深かった。
まるで我が子を労るかのように僕達を気にかけて、心配して。どこへ行くにも一緒に付いてくる。
そんな名前から感じられるのは、親として母性愛。
彼女にとって、僕達と共にいることがこの世界で唯一の役目であって存在意義だと、本人は話していた。
だから今回だって、見ていることしか出来ない自分は、いつか見放されてしまうんじゃないかと不安なのだろう。

だとしたら、勘違いもいいところだ。
僕やあいつらだってバトルが好きで勝手に闘っているだけだというのに。まるで無理矢理闘わせて僕達が傷付いているみたいな口振りをしやがって。
それに、僕達が簡単に相手に負けて、名前を見放すはずがない。見放すなら拒絶していたあの頃に、そうしていたに決まっている。
こいつは一体今まで、何を見てきたんだ。


言葉で伝えられない代わりに、しゃがみ込んでいる名前の上から大量の水ぶっかけた。
苦しそうに顔を歪めた名前が僕を睨む。
今度は尾鰭で頭を叩いてやった。

「いたい……」
「ばーか」
「コイ、ごめ、ぶふっ!」
「謝るな見苦しい」
「おいお前!せめて何か予兆をしてから叩いてよ!痛いんだからね!」
「ハッ、お前がふざけたことを口にしなければいいんだ」
「あ、今鼻で笑ったろ!せっかく私は真剣に悩んでたのに!」
「うるさい」




(誰になんと言われようと、僕達は僕達だ)
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