1.
「名前を2週間預かってください」

オーストリアに言われた言葉に思わず耳を疑った。珍しくオーストリアに会う約束を取り付けられ何か罠でもあるのかと渋々出向いた場所。そこにはオーストリアだけでなく名前までいた。そして、我輩だけでなく名前まで驚いた顔をしてオーストリアを見ている。

「えっ」
「はぁ!?なんで我輩が…」

声が重なり名前はこちらを見た。ぱちりと目があってすぐに目を逸らしたえこに苛立ちが募る。

「もう決まったことです。今決めました」
「何を言って…」
「頼みますよ」

勝手な決定に睨みを効かせてもオーストリアは目を逸らさない。いつもなら咳払いでもしてごまかすところを今日のこいつはしなかった。我輩は居心地が悪くなって舌打ちをした。

「…とりあえずお願いしますね」

有無を言わせない口調でオーストリアはえこを我輩に託した。名前は至極申し訳なさそうに、それでいてどこか嬉しそうに我輩によろしくね、と笑った。それがどこか過去のものとは違うふうに感じられたのは我輩が変わったのか、彼女が変わったのか。ただ我輩は気に食わないとむしゃくしゃした気持ちで彼女に背を向け歩みを進めた。数歩進んでから遅れて辿々しく足を動かし始めた彼女を視界の端に見て、それからはまっすぐ前だけを向いた。早く家に帰ってこの悪夢のようなよくわからない状況から離れたい。それだけをただ考えていた。

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徒野