遊我くんのパーカー
今日は土曜日。休日でも私の行くところは変わらない。手書きのロード研究所という看板のあるドアをくぐれば珍しいことに作業の音が聞こえなかった。いつもいる遊我がいないなんてことあるのだろうか。そう思ってそうっとあたりを見回すとすうすうと寝息が聞こえてくる。そこには机に伏せて眠っている遊我がいた。珍しいことに彼は暑かったのかいつもきている赤いパーカーをそばに置いたまま眠りに落ちていた。
「(遊我の、パーカー…)」
何をするわけでもなかった。けれど身体は無意識にそれを拾い上げていた。大好きな遊我のパーカー。それを思うと胸が激しく動いて顔がほてった。ぎゅと抱いてみるとほのかに遊我の香りがして、自分のやっている行為が酷く背徳的に思えた。見られたらどうしよう、そう思いながらも胸の高まりは止まらなかった。大好きすぎて泣きそうになりながら、ふと近くに置いてあった資材の反射で自身の姿が見えることに気づいた。私は無意識にごくりと唾を飲むと彼の着ているパーカーに袖を通す。音を立てないようそろりと腕を入れ、羽織る。反射で写った私と赤いパーカーは見慣れなくて、でも目に焼き付けたくてじっと見つめた。胸が苦しくて、幸せで泣きそうに思った。バレたらどうしよう、そんな気持ちはつゆともなくて、
「ん…」
「っ!」
彼にバレるということ自体を忘れていた時だった。後ろから聞こえた遊我の声に恐ろしくて後ろを振り向けない。脱がなきゃ、すぐに。でも、体が震えて脱げなかった。遊我が起きてませんように、ただ唸っただけでありますように、そう願った。けれどその願いはむくりと起き上がった遊我によってすぐ打ち砕かれることとなる。
「あれ?来てたの?っていうかなんで僕の服…」
「ちっ、ち、ちが!ちがうの!遊我!これはね、!!」
顔に熱が集まるのがわかる。見なくても顔がひどいことになっていると思った。ギクシャクする私に遊我は不思議そうな顔をしてから、まぁいいけど。と話を終わらせてくれた。
「起きてみたら寒いから返してもらえる?」
「う、うん…!ごめん……」
「別にいいよ?」
いそいそと遊我のパーカーを脱いで彼に渡した。彼はその場で躊躇いもなくそれを着るものだからヘンに私が恥ずかしくて目を背けてしまった。本当に何も思わないのだろうか。その方が助かるのは事実である。だけど…。そう思っているうちに彼はいつものように作業に戻るようだった。遊我は椅子を回し設計図に向き直る。サバサバしていて遊我っぽい。けれどなんだか胸がもやもやした。私はなんと言って欲しかったんだろう。勝手に着ておいて胸がちくちくする自分を嫌悪していた時だった。遊我は不意に椅子を回してこちらをみた。
「着てて貰ったからあったかいや、ありがとう」
「そ、そっ、か…」
当たり障りのない内容で私がほっと息をついた時だった。
「でも今度は僕が見てないとこで着ちゃダメだよ、」
にこ、と遊我がいたずらっぽく笑った。その笑みが何を意味するのか私にはわからなかった。理解できなかった。でも私が彼の服を着た下心や恋心が全部見透かされている気がした。きゅ、と心臓が甘く締め付けられて私は返事をすることもままならず、こく、と力なく頷くしかなかったのだった。
徒野