プール掃除

「ひゃっはー!」
「三馬鹿ー!転けるな……って遅かったか」

デッキブラシを手にした三馬鹿達が転け、頭から汚れたプールの底を滑っていくのを余所目に、凪は手で日除けを作り空を見上げた。
本日、晴天吉日。気温も高く、陽射しの下にいるとじっとりと汗ばんでくる。まさに、プール掃除日和である。
プールの掃除や整備は毎回、水泳部の仕事だった。気温がある程度上がり、泳げる時期になると、デッキブラシとホースを手に一足早くプールに入る。

「さ、やっちゃいますかね!」

体操服の袖を捲り、凪はデッキブラシでプールの床を擦る。冬の間に溜まっていた汚いものが落ちると青く塗られた面が見えた。

「凪先輩!」
「ん?どうかし……」

ばちゃり、とホースから飛び出した水が全身に掛かった。一応、こんなこともあろうかと体操服の下には水着を着ている上、タオルも用意してあるので問題はない。
髪から雫を足らしながら、凪は水を掛けた後輩の三木にニヤリと笑みを向けた。

「みーきー?」
「水も滴るいい男!ですよ先輩!」
「全く……おりゃ!」

びしょ濡れのまま、三木に抱き付く。そのまま二人でけらけらと笑っていると、雪野に呼ばれた。

「紙濡れちゃうから上がってきてくれる?」
「ん!分かった!」

鉄製の梯子を滑らないように登り、熱くなったアスファルトのプールサイドに上がる。少し水で冷えた身体には、適度に心地いい熱さだった。

「どうかしたの?」
「さっきプールの倉庫の備品チェックしてたんだけど、コースロープがちょっと交換した方が良さげなの。だからこの書類書いといて欲しいんだけど」

雪野の言葉に凪は眉根を寄せ、溜め息を吐いた。

「あー、分かった。去年授業で乱暴に扱われてたみたいだし、それが原因かも」
「それ困るよね……」
「うん。その辺りの注意徹底して貰うよう先生達に掛け合っておくね。あれ結構高いし」

と、話していると「凪」と名を呼ばれる。聞き馴染んだ声に凪は笑いながら顔を向ける。

「風丸、どうしたの?プールの方来るなんて珍しいね」
「外周走ってたんだよ。プール掃除か?」

うん、と頷くと凪はフェンスに近寄る。すると、

「な、おまっ!?そそそそそののまま歩くな!!こっち向くな!!」

風丸は凪を見るなり頬を赤らめ顔を反らし叫んだ。

「え……?なんでさ!?」

昔馴染みの突然の行動に凪は戸惑う。その後ろでは雪野が困ったように笑っている。

「いいからジャージを羽織れ!!早く!!」
「解せぬ!!」

まったく理解できない、と言わんばかりに凪は唇を尖らせた。彼女は少しも気にしていなかったが、水に濡れたせいで体操服の下の水着が透けていたのだ。しかし、水着がなんだ、下着じゃないんだぞ。
と、水泳部として半裸やら見慣れていた凪には、風丸がそんな態度を取る理由が心底分からなかった。
それを察したのは二人のやり取りを聞いていた三馬鹿の一人、三野だった。

「鳴海、そこまでにしてやれ……な?」
「解せぬ!!!」

そっと、プールサイドに置かれていた凪のジャージを拾い上げるとその肩に掛ける。渋々とそのままジャージを着ると、三馬鹿の残り二人、永瀬と畠山が彼女の両肩にそれぞれ手を置いた。

「鳴海、純情ボーイなんだよ……風丸は」
「そうそう、仕方ないことなんだ。理解するのも友情だぞ……」

三人から注がれる生暖かい視線に、風丸は耐えきれなくなったのか「じゃあな!」と逃げ出した。凪だけが一人、渋い顔のままプールサイドに立っていた。