隣の席の応援団

授業の終わりを告げるチャイムを耳にしながら、ぼんやりとする染岡へ隣の席の鳴海凪は視線をやる。

「染さん、生きてる?」
「お前その生きてるって当たり前だろうが」
「いや、顔が死んでたからさ。あと精神的に死んでそうだなって」
「勝手に殺すんじゃねぇよ!」

染岡の鋭い一撃が凪の後頭部に直撃する。凪は唸りながらその部分を押さえ、机に突っ伏した。

「なんでさ!」
「ったく」

苛立たしげにする厳つい見た目の染岡と、中性的な凪は一見すると舎弟と番長の様に見える。だが、その実、上下関係でもなく、普通に仲がいい。気楽に付き合える友人同士といった感じだ。
この二人は、中学入学時から同じクラスで隣の席だった。そこから一年と少し、隣の席になり続けていれば嫌でも関わる。
そのため、ふざけた言葉を言い合うのは日常的なことだったが、今の染岡にはただ苛立ちを煽るだけだった。
染岡は頭を掻くと席から立ち上がろうとする。
だが、先程とはうって代わり、真面目そうな声で凪が染岡を呼び止めた。

「染さん」

今度はなんだ、と染岡が睨み付けると酷く凪いだ二つの瞳が見つめ返していた。

「あのさ、燻ってていいの?円堂、頑張ってるのに」

何処からか聴こえてくる部員募集の声。
『サッカー部の廃部』というのは少し前から噂になっていたが、昨日どうやら本当になったらしい。その当のサッカー部に所属している染岡にとっては予期していたことであっても、気の悪くなることだった。

「……うるせぇ。水泳部には関係無いだろ」
「あるよ。じゃないと此方にまで円堂、勧誘に来るし」
「断ればいいじゃねぇか。部長だろ」

凪は染丘の顔が苦いものでも噛み潰したようになったのを確かに見た。けれど、それもすぐにいつもの仏頂面へと変わる。

「購買行ってくる。着いてくんじゃねぇぞ」
「了解ー」

染岡の背が視界から消えると、凪は仕方ないなぁ、と溜め息を吐いた。少し前まではダメダメな感じがあったが、悩んでいるだけ良くなるだろう、と。
それから校庭に視線をやるとオレンジのバンダナが見えた。サッカー部の部長であり、小学生からの馴染みの円堂守だ。

「頑張れよ、円堂」

ぽつりと呟かれた小さな声での応援。教室の喧騒に掻き消されたが、呟いた本人は満足げにしていた。
凪はサッカーが好きだ。部活に入るほどではないが、プレイするのも、見るのも、どちらも好きだ。
けれど凪は水泳部の部長だ。転部はできない。できることといったらほんの少しの手助けだけ。今のように誰かの背中を押すくらいだ。それを歯痒く思いながら、彼女は席を立った。