メールめーるメール
※顔文字が大量に使われてます。苦手な方がいましたらご注意ください。
風呂上がり、凪が日課の柔軟を行っていると携帯が鳴った。こんな時間に珍しい、と手に取り確認すると『成神健也』とディスプレイに表示されている。思わず彼女は「げ」と声を漏らした。
「何なんだよ、ホントに」
疑いながらもしっかりメールを確認する辺り、かなり律儀である。それを指摘する人はいないが。
『さっきはヤバかったな!オレとも今度サッカーやってくれよな!(^-^)v』
ラフな文面に先輩だのを敬う言葉は見受けられない。それでとやかく言う性格ではないが、馴れ馴れしすぎるなぁ、と凪は思った。
返信画面を開くと、ゆっくりと文章を打ち込む。ちなみに凪に顔文字を使うという選択肢は無い。使ってみたさはあるものの、使い方が分からないのだ。それが分かっている雷門のメンバーはなるべく使わずにメールを送ってくれるため彼女的には読みやすいのだが、知り合ったばかりの成神はそんなことは知らない。
『忙しいからむり』
かなり速めに打った方だった。しかしその数秒後には成神からの返信が届く。
『えー!冷たいじゃん!!オフの日とかでもいいから!(^3^)/』
その速さに凪は戦慄した。彼女の周りにはそこまで早く打ち返しす人はいなかったからだ。ちらりと時計を見ればそろそろ就寝時刻だ。終わらせるつもりで凪はボタンを打った。
『ことわる、おやすみ』
よし、これで寝るぞ。充電器に繋ぎ布団に入る。が、それを妨げるように携帯の振動音が耳に入る。入眠を邪魔されイラつきながら凪は携帯を開いた。
『少しだけやろうぜ!てか、寝るの早くないか!?Σ(・ω・ノ)ノ
何か話そうぜ!ヽ(・∀・)ノ』
非常に顔文字に苛立ちを覚えた。メールでここまで怒りを覚えたのは彼女は初めてだった。怒りに任せ、文字を打ち込み送信ボタンを押す。
『身長伸ばすには夜の10時までに寝ないと成長ホルモンがちゃんと分泌されないんだぞ。ねろ。おやすみ』
凪にしては驚異的な速さだった。部活でブログをやっている秋や春奈に比べれば劣るものの、恐らく彼女の返信速度を知る者であれば褒めちぎっただろう。ぜぇはぁと息を荒くしながらこれで終わるだろうと凪は枕を整える。が。
「いい加減にしろ!!」
携帯は無慈悲にもメールの到来を告げる。恐る恐る画面を開くとそこには
『マジか!じゃあ寝るわ!(^-^)/
おやすみ!(。-ω-)zzz』
彼女が待ち望んだ会話終了と取れる文面があった。思わず凪はその場でガッツポーズを決める。夜中なので声は上げなかったが、腕を突き上げ喜ぶ。だが。
「凪くん、まだ寝てないの?」
後ろからの善一郎の声に身体を固まらせた。ぎこちなく振り向くと、何故か心配そうな顔の善一郎がドアの隙間から覗いている。まさかと時計を見ると就寝時刻を30分以上過ぎている。慌てて繕うように凪は携帯を突き出した。
「叔父さん、ごめん!ちょっと知り合い?からメールがうるさくってさ!!」
「部活の子?」
「……まぁ、そんな感じ」
ぼこぼこにしてきた帝国の生徒です、とは言えず言葉を濁す。
凪はあくまで帝国の生徒とメールしていたこと、それと遅くまでメールを交わしていたこと、それを隠そうとしていた。
しかし、善一郎が心配そうな顔をしていたのは全く別の理由だった。叔父として、保護者として、彼は凪を心配していた。そして、中学生ならいつ起きても構わないようにと思っていることがあったのだ。それは、『彼氏』問題である。凪の性格上、彼女を作る可能性も否定できないがそれでも誰かを好きになる年頃の子供だ。寛容に受け入れるつもりだった。そして何より、この叔父は姪の恋バナを聞きたくて仕方なかった。つまり何が言いたいかと言うと、そこまでメールを弄らなかった凪が熱心に、時間を忘れるほどに夢中になっていたのだ。甘酸っぱい何かがあると思わずにはいられない。
勿論、凪も成神もそういった感情は無い。
「メール、ほどほどにね?」
「分かってるよ」
「別にしちゃいけないとは言ってないよ?」
「いや、うん。分かってるけど……何さ?」
「隠れてしてても良いんだよ?」
「えっと!?どうしたの!!?」
善一郎のそんなソワソワした空気が理解できず凪は疑問符を浮かべながら言葉を返す。叔父の思い、姪知らず。完全に善一郎の空回りであった。