弾かれ者

不安が渦巻く混沌とした空気の中、今年のホグワーツ寮対抗クディッチが始まった。
事件はまだ解決しておらず、ホグワーツ内の空気は決して明るいものではなかったが、魔法界中が熱狂するこのクディッチという競技の試合に、城の温度は少し上がっているように感じた。

ナマエはクディッチ自体が好きか嫌いかと聞かれると、正直どっちでもいいと思っていた。日本にいたときも、親と観戦することはあったし、観たら面白いということもわかる。しかしどうも周りへの興味関心が薄いナマエにとっては、観戦している人や、クディッチの話をする人たちと、自分の温度感の違いに居心地の悪さを感じられて、あまり楽しく観られていなかった。

そして今日は、ドラコが待ちに待ったシーカーとしてのデビュー戦かつ、因縁のスリザリン対グリフィンドールの試合の日で、モチベーションが高くないナマエも、今日だけはクディッチ競技場に訪れていた。
たとえハッフルパフの試合であっても、クディッチの試合をわざわざ競技場で見ようとは思うことはないナマエであったが、ドラコが以前嬉しそうに箒を見せてくれたことを思い出すと自然と応援に行こうという気持ちになった。

ナマエは初めてクディッチ競技場に足を踏み入れたが、今年最初の試合と、因縁の対決に観客は
興奮気味で、屋外で冬前だと言うのに会場は熱気で充満していた。
ただ天気はあいにくの強風と恐らくこの後雨も降るだろう。この最悪の天気に、ドラコの飛行が心配にもなった。

ナマエはどこがスリザリンの応援席かいまいちよく分からず辺りを見回したが、周りの人が持つフラッグの色やフェイスペイント等でなんとかスリザリン席を判断した。そして目立たない端っこの方が空いていたのでそこで観戦することにした。
ハッフルパフやレイブンクローもちらほらいるが、流石に周りはスリザリン生ばかりで、顔も知らない人だらけのアウェー感にナマエは戸惑った。正直居心地は良くない。きっとこの先ドラコが様々な試合に出るとしても何度も観にくることはないだろうなと直感的に感じた。

ふとスリザリン席の中心の方に、見たことのある大きな身体の二人組を見つけた。彼らも当然応援に来ているようだった。
ナマエはそこに合流しようか一瞬悩んだものの、それはすぐになかったこととなった。
そもそもクラッブとゴイルはドラコがいるからナマエと関わりが少しあるだけで、ドラコがいない中で彼らと友人のように語らい合うことは全く想像できなかったし、彼らがナマエに対しいい印象を持っていないこともわかっていた。

「…あれ、あの子…」

「誰?」

「あの黒髪の小さい…」

「あ、ドラコのパシリじゃん」

「なんでこっちにいるの?」

試合が始まるのを静かに待っていたナマエだったが、誰かの視線を感じたため顔は正面を向いたまま、視線だけで数メートル先の斜め前を見やった。

緑のマフラーを巻いた女子二人が、ナマエを見て噂をしているようだった。もちろんナマエは喋ったことのない生徒だったが、ドラコといることが増えてから、こうして噂話をされたり周りで馬鹿にしたような笑い声を聞くことはよくあった。

ただでさえ居心地が悪かったし、それがさらに最悪な気分になっていく。内容によっては傷つくこともあり、こうして噂になること自体がナマエにとっては苦痛でしかなかった。
それこそ日本にいたときと同じような空気感にどんどんと気持ちが沈んでくる。

ドラコが有名人で、そしてナマエが珍しい毛色の少女で、そしてスリザリン生とハッフルパフ生の組み合わせで…様々な要素が複合的に絡まり、二人はどんな関係であっても目立ってしまう。ナマエは今日ここに来たことを後悔し始めた。

「え、あれナマエ・ミョウジじゃない?」

「スリザリンの応援来てるのかな」

「ミョウジってあのドラコ・マルフォイと仲良いみたいだよ」

「えー!信じられない!あんな子がなんで?」

「ミョウジも純血主義かもね」

気をつけた方がいいよ、と今度はナマエの後方から声が聞こえた。少しだけ振り返ったが、一瞬見えたマフラーの色が黄色で、今度はハッフルパフ生のようだった。

寮にいるときもこういった噂をされていることは知っていたし、ナマエの耳に直接入ってくることもあった。

スリザリンからもハッフルパフからも話題にされ、そしてどちらともから決して友好的に受け入れてもらえていないことをナマエは改めて自覚してさらに落ち込む。
そもそもハッフルパフですら友達を作れず浮いている自分だ。いい話のネタになるんだろう。
そこからナマエはただひたすら何も考えないようにして、試合が始まるのを待つことにした。

そして試合が始まり、すごいスピードで飛び交うドラコや他のメンバーと、大雨による視界の悪さで、ナマエはドラコを目で追うのがやっとだった。

周りと同じようにスリザリンに点が入れば嬉しくて歓声をあげたし、危ないプレイがあれば小さく悲鳴をあげた。
試合は様々な展開を見せたが、ナマエの視界の中で動くのはドラコだけだった。

その後ブラッジャーが暴走するというハプニングが発生し、競技場は騒然とした。ハリーポッターとその近くにいるドラコにそのブラッジャーがぶつかりそうになるシーンもあり、ナマエは見てられなくて両手を握り、ドラコの無事を祈るばかりだった。

結局試合はハリーポッターがスニッチを取ったことでグリフィンドールの勝利となり、ドラコにとっては残念な結果となった。試合の途中、ドラコの指の先にスニッチがいた場面があったが、あと少しのところで風に箒が煽られ軌道が逸れてしまった。

彼の気持ちを思うと気の毒だったが、ドラコに大きな怪我がなかったことをナマエは何より喜んだ。

試合後、あの試合についてドラコと話す機会がないまま数日が経過した。寒い日だったが天気が良かったので、ナマエは昼食で出たサンドイッチを手に中庭で本を読んでいた。

「お前、見てたらしいな」

本に集中していたナマエは、まさか自分に誰かが声をかけるなんて思ってもおらず反応に遅れてしまった。
そこにはドラコが眉間に皺を寄せて、睨むようにナマエを見つめていた。

「ドラコ、こんにちは。見てたってなんのこと?」

「知らないふりか?試合に決まってるだろ!」

苦々しく顔を歪めたドラコはナマエを強く睨みつけた。ナマエはというと、試合のことは大した気にしていなかったこともあり、ドラコの反応に驚いていた。宿敵のグリフィンドール、そしてハリーポッターに負けたことがよっぽど悔しかったのか…確かに言われてみれば彼の性格上それを許せるようなタイプではない。とにかくドラコが無事だったことに安心していたナマエは、八つ当たりされる可能性なんて考えてもみなかった。

「あ、試合…!そう、ドラコが箒を見せてくれたから、初めての試合を応援したくて見に行ったの!ドラコの箒捌きすごかったよ、綺麗で…」

「フン、どうせお前も僕が負けたことを心の中では笑ってるんだろ!」

「…え?」

「天候が悪かったんだ!ブラッジャーも邪魔してきたし、最悪だった!」

ナマエは、ドラコの箒の技術はすごいと思っていたし、本心で感想を伝えようとしたが、ドラコはそれを聞くこともなくその日の文句を口にした。
何かあったのか、もしかして周りに何か言われたのかは定かではないが、ドラコにとってナマエは感情の捌け口のような存在なのかとナマエは感じた。

「そうだよね、あの日は本当に天候が悪かったし、ブラッジャーも怖かったよ。私、ドラコが無事で本当に良かった」

「…僕があんな天候でどうにかなるわけないだろ」

「信じてたんだけど、私だったら飛ばされて大怪我するくらいの天気だったから……」

「まぁお前みたいな間抜けならそうだろうな」

ナマエは自分でもドラコの扱いがうまくなったなと少し面白くなった。少しだけではあるがドラコの表情が和らぎ、そうして最後は得意げに皮肉を言った。
この対応が良かったのかはわからないが、ドラコの気持ちが少しでも楽になればいいなとナマエは思った。

「でもドラコ、私が見てたことを誰かから聞いたの?」

「周りがいちいち教えに来るんだよ」

「あ、え?そうなの?…どうして?」

「はぁ?」

ドラコはナマエがなんの気無しにそんなことを聞いてくることに少し同情した。もしかしたらナマエは、ドラコといることで自分が周りから噂されたり馬鹿にされたりしていることに気づいていないのかもしれないなと思ったのだ。

先日の試合で負けたドラコは、寮の奴らの落胆した雰囲気や責めるような雰囲気にここ数日怒りが溜まりに溜まっていた。
あれはそもそも事故でたった一回だけ運が悪かった話で、チームの他の奴らがかなり足を引っ張っていたんだからドラコに責任はないと思っていたし、試合前はあんなに持ち上げていたやつらの変わりようも許せなかった。

そうして、中庭を通りかかった際に偶然本を読むナマエを見かけて、半ば八つ当たりのようにドラコは絡みに行った。

そのときのナマエの、試合のことなんて忘れていたような雰囲気には少しイラついたが、周りのように責めたり気まずそうにされるよりは今のドラコにとってはよっぽど居心地がよかった。
呑気にいつもみたいにヘラヘラ笑って、無事でよかった、と本気で思っているような素振りをナマエは見せる。その手にはサンドイッチがあり、それもまた彼女の呑気さを際立たせた。

そんなナマエを見ていると、周りが何を言っているとか、どう思われているとか、そんなことは何一つ彼女には届いていないんじゃないかとドラコは呆れるものの、安堵している自分もいた。

「一人でも平気なくらいの鈍感だからなお前は」

「ええ、それは関係あるの?それに私友達がまだいないことはずっと気にしてて…」

でも、ドラコがいてくれるからそれに甘えてるかも。ナマエはどこか遠い目をしながらも、ドラコの視線に気づくと困ったように眉毛を下げて笑う。
その姿と言葉にドラコは全身の毛が逆立つようなそんな感覚を覚えて身震いした。

気にしないようにしていたが、ドラコは自分が何故ナマエのような少女に構うのかを心の片隅で疑問に思っていた。
一緒にいることにデメリットも多くあったが、それでも見かけたら皮肉でも声をかけてその反応を揶揄ったりすることを実際楽しんでいた。

その感覚とはまた別で、今このナマエから出た発言が、この一連のナマエのスタンスや考え方が、自分の心の足りない何かを満たしてくれるような、そんな妙な気分。

「いや、あの、変なこと言ってごめんね、気にしないでね?」

返事をしないドラコの様子に、ナマエは恥ずかしそうにしていた。表情は相変わらずドラコがへらへらと評する、困ったような自信なさげな頼りない笑顔だった。