組み分けの結果

各寮の監督生が一年生を案内している中、ドラコはハッフルパフ寮の方へ消えていったナマエの後ろ姿を睨みつけていた。

「あいつ、随分と楽しそうじゃないか」

面白くなさが頂点に達して、思わず呟いていたが、隣のクラッブもゴイルも聞こえていないようだった。

それにしてもドラコにとってナマエという少女は、初めて会うような人種だった。何かとおどおどしてこちらの顔色を伺い、ヘラヘラと気の抜けた顔でよく笑う。意思が弱そうに見える態度に反して、真っ直ぐドラコを見つめる、黒目がちの大きな瞳の印象が頭から離れなかった。
それから、たどたどしいイギリス英語で一生懸命話についてきて、ドラコの話を聞こうとする姿はなんだか間抜けだけど、健気だとも感じられた。

ただ、なんせ最近イギリスに来たばかりの外国人だから、ホグワーツのこともイギリス魔法界のことも詳しくないし、マルフォイ家のことも知らないと言うのだから少し軽蔑した。ちなみにハリー・ポッターのことを知らないことは、ドラコは最高だと思っていたし、最高に嫌なやつだとも教えてあげていた。

これまで自分の周りにいる女の子は、自分やマルフォイ家へのリスペクトが強く、ドラコに気に入られようと必死な輩が多かった。そういう女の子と一緒にいるのは、自尊心が満たされるし居心地がよかったが、あんなタイプも面白いんじゃないか。ふとそんな思考がよぎって、ドラコはまた苛立った。

スリザリンだったら、色々教えてやろうと思っていたし、そしたらあいつはまたヘラヘラ笑いながら「すごいね」ってドラコの言うことは何にでも言っていたんだろうなと思う。

とはいえ、ドラコの薄々感じていた通り彼女がスリザリンに組み分けされることはなかった。面白くはないが、ナマエはハッフルパフが妥当だと言いたいのだ。
そして、グリフィンドールじゃなくてよかったと少し安堵していた。

「そういやさっきのやつ」

「ハッフルパフだった」

「あんなやつどうでもいい」

思い出したように、いいのか?みたいな顔でドラコを見るクラッブとゴイルに、ドラコは抑えたイライラが復活してきて乱暴に舌打ちをした。いいのか、も何も、人の組み分けを選ぶ権利なんか組み分け帽子にしかないのだ。
本人が望んでさえも、いけないこともあるのにドラコに選べるわけがない。というかそもそも彼女はスリザリンに来ることを望んでいたのだろうか?

今度見かけたら嫌味の一つでも言ってやらないと気が済まない。ドラコはそうして心を落ち着かせたのだった。


一方、ナマエはスリザリンではなかったことに安堵して組み分けの儀式を終えていた。自分がスリザリンになることはないと初めから信じてはいたが、とはいえあの場所に座って、帽子の答えを待つ時間は緊張して手に大量の汗をかいた。

特に迷う様子もなく組み分け帽子がハッフルパフと告げ、そうしてナマエは大きな大きな溜め息を吐いた。難所をまた一つクリアしたような気持ちだった。

そうして、組み分けは終わったものの、ナマエには一つ問題が出てきてしまった。
友達づくりに出遅れたのだ。

大広間や部屋の仲間にはとりあえず挨拶をしたが、いかんせん緊張してしまうことと、ホグワーツには数少ないアジア人ということもあり毛色の違うナマエはすっかり出遅れてしまっていた。

組み分けの儀式の翌日の最初の授業に向かう際、朝起きた時点で、もうすでに同室の仲間は大広間で朝食を終えており、バタバタと食事をして、教室に着くのは一番最後だった。

そして一番初めの授業は魔法薬学で、そこでスネイプ先生に褒められてしまったのもあまりよくなかった。褒められたと言っても、「よろしい」と言われただけではあるが、グリフィンドールへの理不尽な減点の後の「よろしい」に周りはザワザワした。

そんなこんなで初日の魔法薬学の授業を終え、ナマエの心はすっかり萎れてしまった後、移動教室の最中、今度はあのプラチナブロンドの少年に捕まってしまった。

「おい、落ちこぼれのハッフルパフにいったと思ったら友達もいないのか」

「…!」

ナマエの行く道を遮るように立ちはだかったドラコは、隣にクラッブとゴイルを連れている。スリザリンじゃなかった時点で、何か彼が思っているのではないかとは感じていたが、こうもストレートに言われると思っておらずナマエはたじろいでしまった。なんなら会わなければ何とかなると甘い考えをしていたから、会った時に何を言うかは考えてなかった。

「ドラコ!クラッブとゴイルもこんにちは。」

「呑気なやつだな。さっさと落ちこぼれの友達探しでもしろよ」

ドラコはさも面白いというように、クラッブ、ゴイルと笑っている。コンパートメントでは穏やかに過ごせたと思っていたが、寮が違うだけでこうも関係が変わってしまうことにミサはわずかな寂しさを感じた。

「そうね…頑張って探してみるわ」

「頑張ってできるものなのか?」

「……」

「何にも知らないとは思っていたが、友達の作り方まで知らないとは日本で何してたんだろな」

片方の眉をあげてニヤリと笑うドラコとくすくす笑うクラッブとゴイル。

ナマエは言われたことが全て言い返せず、すっかり黙ってしまった。そして、友達作りの方法を知らなかったからイギリスに逃げて来たんだよと、本当のことを言いたいけ言ったらまた馬鹿にされてしまうと思い口をつぐんだ。

何も言い返さないナマエに、ドラコは今までのイライラがスカッとする気分だった。彼女は嫌なことを言われただろうが、相変わらずおどおどして、困ったように眉尻を下げて薄ら笑いを浮かべていた。

そうしてナマエは最後は何も言わず俯いたため、ドラコはもうイライラする気分はすっかりなくなった。まあこいつが望むなら子分くらいにはしてやろう、なんて傲慢な思考でナマエを見つめる。

さて、俯いた顔がどんな悔しそうにしてるだろうとドラコがナマエを覗き込んだ際、彼女の瞳が潤んで揺れていることに気づき、ドラコは動揺してしまった。

ヘラヘラしてる彼女のことだからまた罰が悪そうに笑っているかなと思っていたが、思っていたより傷ついていたみたいだ。
入学初日に他の寮の1年生の女の子を早速泣かしたとなっては、紳士として聞こえが悪い。それも今回は側から見ればドラコが悪く見えるだろう。

「ふん、友達なんかいなくても僕が」

「そ、そうよね、友達の作り方がわからないなんて変よね、ドラコの言う通りよ」

「…!」

「ハッフルパフだけど、ドラコがよかったらまた仲良くしてくれる?」

私のイギリスでの初めての友達がドラコだったから…。ドラコにしか聞こえないくらいの小さな声で、寂しそうに笑いながら言ったミサに、ドラコは狼狽えた。
さっきまで泣きそうに目を潤ませていたのに、彼女は涙を堪え、へらへらと寂しそうに笑う。

「あ、いや…私みたいな落ちこぼれが友達なんて言って嫌よね?ごめんなさい」

「…は?」

「まだ二日目だからこれから頑張ってみるわ、ありがとね」

なんだかよくわからないままナマエは早口で答えて、そうしてドラコに背を向けて歩こうとした。肩を落とした後ろ姿が、誰がどう見ても落ち込んでいるようで、ドラコは訳のわからない苛立ちが再度湧いてくるのを感じた。

どうして、この僕が悪者みたいにならなければならないんだ!そうして考えるより勝手に体が動いて、ナマエの元にドラコは向かっていた。
隣にいるクラッブとゴイルは何もわからずまだニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていたが、ドラコがナマエを追いかけて肩を掴んだことに驚いた様子だった。

「おいまだ僕は何も言ってないだろ!」

「えぇっ?!」

ドラコは衝動のままナマエの肩を掴んでしまい、ナマエの驚いた顔に思わず舌打ちしたし、ドラコ自身が自分の行動に驚いていた。

「僕が何も言っていないのに決めつけるのは許さない!僕はそもそもお前より歳上なんだ、敬意を持って接しろ!」

「…ええ??」

「落ちこぼれでも荷物持ちくらいできるだろ」

「え、荷物持ち…?」

ドラコはなんだか何を言いたいのかわからず、捲し立てるように話してしまい、それにまた苛立つ。ナマエの言う通り、いくらナマエが純潔の家系(そう思い込んでいる)だとしても、スリザリンでもなければ友達もいない落ちこぼれのハッフルパフ生なんかと仲良くする必要はない。
しかしあのナマエの泣きそうな顔と、寂しそうな笑顔を見たときの心のざわつきが気持ち悪かった。列車では、真っ直ぐドラコの瞳を見つめてきた真っ黒の瞳が、自分から逸らされて輝きを無くして燻んでしまうのがもったいないような気持ちでもあった。
そして自分でも訳わからないが、ナマエの言う通りにすることが何故だかドラコの紳士像とはかけ離れており、プライドが傷つくような感覚だったのもある。

「あぁ、もう…遅刻するぞ!…いくぞ、クラッブ、ゴイル!」

「え?ドラコ?…え?」

ナマエは口を開けて、見たことのないような間抜けな顔でドラコを見つめている。その顔は笑えたが、ドラコを真っ直ぐ見つめる瞳の色が戻ったことにドラコは何故か心の突っかかりがとれたような気持ちになった。
ただあの間抜け顔で見つめられるのは居心地が悪く、クラッブとゴイルをつれて足早にその場を去った。

彼女がハッフルパフじゃなければこんなにイライラすることもなかったのか、ふとそんな風に思ったが、彼女がハッフルパフだから物珍しいのでは、と考えてドラコは自分自身の考えに辟易する。まさかあんなやつを気に入ってる?情けを与えようとしてる?そんなはずはない。自分は高貴なマルフォイ家の後継だぞ。
あんなやつ放っておけという自分自身と、あいつが泣かなくてよかったと安堵している自分と、複雑な心境にドラコは更にイライラする。
結論、ドラコはナマエがハッフルパフだったことのイライラを彼女にぶつけようとしたのだが、ハッフルパフだろうがなんだろうが話しかけなければよかった。そう思って落ち着かせたのだった。