「どうしよう……」
阿近さんとのお食事から一夜明け、いつものように技局に足を運んだはいいものの。中にも入らず入口でウロウロしている私は、周りの目には相当怪しく映っていることだろう。
昨日のお食事は本当に楽しかった。阿近さんにも一応楽しんでもらえたようだし、想定外ではあったにしろ部屋まで送ってもらえちゃったし。問題はそのあと、だ。
「どんな顔して会えばいいの……」
昨日の別れ際に起きた出来事は、一晩経ってもまだ私の頭を悩ませていた。
急に引き寄せられて、抱き締められたと頭が理解した時にはもう阿近さんの体は離れていて。呆けている間に阿近さんは帰っちゃうし、私は私で完全に高揚してしまって何をしててもそのことばかり考えちゃうし。もう寝ようと布団に入っても浮かぶのは阿近さんのことで、正直昨日は寝れたものではなかった。
阿近さんが何故あんなことをしたのか分からないけれど、単純な私は簡単に舞い上がってしまって。阿近さんの手が、阿近さんの胸板が、鮮明に思い出されてドキドキして。こんな状態じゃ、恥ずかしくて阿近さんと話すどころか顔を合わせることすらできない。
「あああああ〜……」
「何してんだお前は」
「え」
頭を抱えてしゃがみ込んでいると、頭上から降ってきた呆れたような声にびくりと体が反応する。いつもなら大好きで仕方ない声、けれど今はあまり聞きたくなかった声。阿近さん、だ。まさか朝イチで会ってしまうなんて。
「お、おはよう、ございます……」
「おう」
どうしても顔が上げられなくて、失礼を承知で下を向いたまま挨拶する。そんな私を気にする様子もなくいつもの調子で返してきた阿近さんに、安心したのが半分、へこんだのが半分。阿近さんが普段の変わらない態度でいることに、どうしてこんなにショックを受けているんだろう。
「んなとこで丸まってねえでさっさと入れ」
「は、はい」
呆れたようにそう言うと、阿近さんは何事もなかったかのようにスタスタと局内に入っていってしまった。踞ったまま阿近さんの消えていった局の入口をポカンと見つめる私は、我ながら結構な間抜け面をしていると思う。
「えええ……」
昨日のことは夢だったのではないかと疑うくらい、阿近さんの態度は普段と変わらなかった。挙動不審になってる私の方がおかしいと言わんばかりのあの落ち着いた対応は、阿近さんが昨日の出来事や私のことを何ら意識していないという証拠で。
ふわふわと浮わついていた気持ちが一転、急に現実に引き戻された気分だ。浮かれていたのは私だけで、阿近さんは私のことなんて全く気にしていなかった。
正直、好きな人にあんなことをされて少し自惚れてしまっていた。そんなはずない、と理性で抑え込んでいたものの、心のどこかに淡い期待があったのだ。その期待が今、一瞬にして粉々に砕け散った。
「バカか私は……」
私みたいな特に取り柄もない平局員を、阿近さんが好きになるわけなんてない。現実はそんなに甘くないのだ。雑念だらけだった頭をぶんぶんと振って、頬をぺしんと叩いてから阿近さんの後を追った。
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