阿近さんと技局を出て、いろんな人に聞いて回ってやっとの思いで決めた素敵なお店に入って。阿近さんがいつ吸いたくなってもいいように喫煙席に通してもらって、注文を終えてから数分。私たちの間に流れるのは、尽きることのない無言の時間だった。
 ……沈黙が、重い。二人きりなんていつものことなのに、こんなに緊張してしまうのはやはり状況が違いすぎるからか。技局でもなければ十二番隊の食堂でもない、特別なこの環境が私をどんどん固くさせた。

「えっと……煙草、吸っても大丈夫ですからね」
「あァ、食後にちと吸わせてくれ」
「は、い」

 会話終了。再び沈黙が訪れる。二人きりでいてもいつもなら、仕事だからという全うな理由がある。けれど今はそうじゃない。私のお誘いで、仕事関係なくプライベートで、二人きりで食事に来ているのだ。私自身あまりお喋りな方ではないにしろ、お話が出来ないわけでもないと自分では思ってるのに。その私がこんなに喋れなくなる程には、阿近さんのこと意識してるんだなと実感させられた。けど、このまま黙ってるわけにもいかない。阿近さんも気を遣うだろうし、私から誘ったんだから私がなんとかしなきゃ。

「えっと……先日はすみませんでした」
「あ?」
「迎えに来てもらった日です」
「ああ、それか」
「腰、大丈夫ですか」
「あ?何だそれ」
「おんぶしたから腰痛いって」
「……あー、ありゃ嘘だ」
「え」
「女一人背負って歩いたくれえで痛めるほどヤワな体してねえよ」

 あんなん本気にしてたのか、と呆れたように言う阿近さん。いやそりゃ本気にするでしょう。結構傷つきましたとジト目で伝えると、そりゃ悪かったなと全く悪びれのない表情で謝られた。まあ事の発端は私だし、阿近さんを攻められるような立場ではないのだけど。
 阿近さんが普段通りの態度でいてくれるおかげで、だんだん私もいつもの調子が戻ってくる。変に入っていた力が抜けて、口も自然と動き出す。

「でも、忙しかったのはホントですよね」
「まあそりゃあな」
「すみませんでした、以後気を付けます」
「そうしてくれ、つーか松本とは飲むな」
「えー、それは無理です」
「お前な……」

 軽口も交えながらいつも通りのお喋りを嗜んでいると、注文した料理も運ばれてきて。リサーチした甲斐もあってとてもおいしいそれは、阿近さんの舌も満足させてくれたようだった。談笑しながらご飯を食べて、私に至ってはちゃっかりデザートまで平らげて、食後のお茶も飲んで。宣言通り食後に一服する阿近さんの吐き出す紫煙を、湯飲みを握りながらぼんやり眺めた。

「……あ、そういえば阿近さん」
「何だ」
「私の部屋どうやって調べたんですか?」
「あ?」
「私意識なかったじゃないですか。なのに部屋まで運んでもらってたから、どこで知ったのかなって」
「調べるも何もねえよ。元々知ってる」
「……え」

 な、なになに。なんで私みたいな下っぱの自室なんて知ってるの。驚いて目をぱちくりさせる私とは対照的に、落ち着いた表情で煙草の味を楽しむ阿近さん。

「な、なんで知ってるんですか」
「俺に分からねえことがあると思うのか」
「いや確かに思いませんけど私みたいな平隊士の部屋なんか把握してるってどういうことですか!」
「何ならお前のスリーサイズでも言ってやろうか」
「わあああ遠慮します!!」

 なに!?なんでそんなこと知ってるのこの人!確かに頭も記憶力もそこらの人とは比べ物にならないくらい良いし、なんでも知ってそうなイメージはあるけど。でもそれはあくまで研究とか技術開発とかそういう部類であって、部屋だのスリーサイズだのまで把握してるなんて恐ろしすぎるんですけど!この人に隠し事とか絶対出来ないんだろうなと改めて恐怖していると、ゆらゆらと天井に上ってゆく煙が途切れた。短くなった煙草を、阿近さんが灰皿に押し付けたのだ。

「……そろそろ行くか」
「はい」

 阿近さんの言葉に続いて席を立つ。店を出るともうすっかり夜も更けていて、頬を切る夜風にまだ夜は寒いなあ、と考えつつ歩きだす。阿近さんの隣を歩ける幸せを、しっかりと噛み締めながら。