ついにきました入園式


そんなこんなで今年4歳になる私、鈴木夢子は今日から幼稚園に入園です。
園子お姉ちゃんと同じ幼稚園に入ってもお姉ちゃんが私の世話をやいてしまい自主性を育てられないからと別の幼稚園になった
すごいな鈴木家。姉妹で別の幼稚園か。
紺色の制服に身を包み、幼稚園児の証と言わんばかりの黄色いポシェットを肩にかける。
今日はママが入園式についてくるとのこと。外国のブランドの品のいいスーツを着こなして浅霧さんを後ろに引き連れ私の手を繋いで幼稚園内に向かう。浅霧さんはその手にビデオカメラの準備をバッチリしていた。
3人目なのによく記録に残してくれてるなぁと感心しつつ、カメラを向けられると緊張して引きつった笑みを浮かべてしまう


「さ、夢子。リス組ですって。」

「リス…どうぶつなの?」

「えぇ、年少さんはリスとヒヨコ組。年中さんはウサギとコアラ。年長さんはキリンとゾウ組らしいわ」


受付を済ませたママが私に名札をつけてくれる
入園の証とばかりにお花のコサージュがついた名札はピカピカと輝いている
精神年齢は二十代後半の私だが、ようやく幼稚園児という一つの人生の節目を迎えた気がして子供のように誇らしく思う
いやこれから小学生、中学生、高校生…と上がって行くんだけどね
身体年齢に精神年齢引っ張られているんじゃないかって思うほどそわそわして自分の胸に輝くリス組を見せびらかしたくなった


「あさぎりさん!見て!!リス組!!」

「はい、夢子お嬢様。もうお姉さんですね」

「あら、やだ…仕事の電話だわ。今日はしないでって言っておいたのに。 浅霧さん、少し夢子を見ててちょうだい。」

「かしこまりました。」


カメラを構える浅霧さんは名札を見せびらかす私に聖母のような微笑みを向けてくる
ママが携帯にかかってきた電話に出るため、浅霧さんに言付けると一人園庭の端に寄って行った
子供達の乳母兼お世話係だと思っていたが家の広さに比べあまり人を雇っていない鈴木家のお手伝いさんの長を実は勤める浅霧さんは前世の私より少し年上のようだがとても綺麗な顔立ちをしていて優しくて大好きだ
この世界のもう一人のママ?なんて勝手に思って慕っている
自分でやれることは自分で。と自主的に生活をする鈴木家は屋敷の掃除や洗濯などの家事をするための住み込みの数人のお手伝いさん、料理を作るコックが2人いる。あとは定期的に庭師の人達が庭園を整えに来るぐらい。
それだけでも金持ちすげぇなと最初は思っていたが今じゃ血の繋がっていない家族達のようで、末娘の私がみんな可愛いのか私の行事にお祭りのように盛り上がるのでなんだか憎めない。
このビデオも入園式を見られなかったパパやお手伝いさんたちみんなで夜見るらしい。…実はハイハイや掴まり立ちしたときなんかも同じように上映会が行われている。
流石に夜の上映会を自分で見ることは無いのだがこの様子がまたみんなにワイワイと見られるのかと考えると溜息を吐きたくなる


「…ん?」


入園式を行うための体育館の入り口横に一人で立っている男の子がいた
次々と体育館に入っていく親子をチラリチラリと見て心細そうに制服のボタンをいじっている
可愛らしい顔立ちで子供の顔でもわかる、この子めちゃ美形になるやつ。
しばらく見つめていてもあの男の子の近くに親がいる様子がない。
無性に気になってしまい、浅霧さんに声を掛けるのも忘れて私は彼の元へと駆け寄った


「ねぇ?どうしたの?」

「…、おかあさん、トイレ行ってるから。」


待ってるんだ…と私をまっすぐ見つめて話す目の前の男の子は少しだけ色素の薄い髪、長いまつ毛とくりっとした髪と同じような色をした目、日焼け知らずな真っ白の肌。
ひゃーこりゃまたかわいい男の子だ。まるで女の子だな、と思いつつ彼の名札を見た


「てづか…、くにみつくん?」

「…うん。」

「私、鈴木夢子!」

「夢子ちゃん?」


こてん、と首を傾げられ私の名前を呼ぶ くにみつ君に思わずピシリと固まった
か、かわいい…何この可愛い子…
動きにくくなった身体でなんとか頷くとくにみつ君はほんの少しだけ口元を緩めて笑った

きゃーー!かわいいいい!!!
思わず心の中で興奮しているとパタパタと駆けてくる足音が聞こえる
振り返るとこれまた美人な奥さんがピンクベージュのスーツに身を包み此方に駆け寄ってきた
もしや、くにみつ君のお母さんかな?


「国光さん、ごめんなさいね待たせちゃって…あら?」

「こんにちは!鈴木夢子です!」

「まぁ こんにちは、初めまして夢子ちゃん。国光さんに声掛けてくれてたの?」

「はい。1人だったからどーしたのかな、って!」


あらあら、ありがとうね?と優しく微笑む美人な奥さんはキョロっと辺りを見ると「夢子ちゃんのお母さんは?」と聞いてきた
あ、やべ、浅霧さんに声掛けてない。と思って先程までいた場所を見遣るとビデオカメラをじっと構えて撮影してる浅霧さんとレンズ越しに目が合った。


「あ…えっと、おかあさんは電話中で…一緒に来てる人が、あそこ…」

「え、っ!…あの、カメラまわしてるひと?」

「…はい。あさぎりさぁーん!なにしてるのぉー!!」


いや、カメラまわしてるんだろうけど。
呆れながらこっちこっちと呼ぶとカメラから顔を離してしずかによってくる浅霧さん。
いやほんと何記録してるのこの人。


「申し訳ございません、1人で佇む子を気遣いお声がけするお嬢様の成長を記録せねばと。」

「…あ、うん…そう…」

「えっと、初めまして。手塚彩菜です。息子は国光っていいます」

「初めまして、鈴木家に仕えております浅霧です。」


中々にない自己紹介だなと思いつつくにみつ君のお母さんの反応を窺うと気にしていないのかニッコリ笑っている
浅霧さんも微笑を携えて、しかしながらカメラのレンズだけは私にちゃっかり向けていると気付くとまた自分の頬が引きつるのがわかる
そんな私には気づかずクイ、と服の端をくにみつ君が引っ張ってきた


「夢子ちゃん。同じ、リス組だね」

「え。あっ 本当だ。これからよろしくね!くにみつ君」

「うん。よろしく」


私の名札に書かれてリス組を見てくにみつ君は同じだ、と自分の名札を私に改めて見せてくる
先程は名前だけで気付かなかったが名札には「リス組 てづか くにみつ」と書いてある
どっかで聞いた名前だな?と思うがこんなかわいい見た目の男の子の知り合いもいないので気のせいだろうと思考から外した





ついにきました入園式



(あら?どちら様、浅霧さん)

(奥様、此方お嬢様が自ら御学友をたった今おつくりになりました、手塚さんです)

(手塚彩菜です〜よろしくお願いします。)

(まぁ!鈴木朋子です。よろしくお願いしますわ)

(くにみつ君一緒にいこー?)

(うん…そろそろすわろう。)





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