家族の愛情。


色々考え過ぎて熱まで出しちゃった翌朝、とっくに朝日が昇りレースのカーテンから射し込む光は暖かで眩いものだった
目が覚めてしばらくベッドでぼけぇーと寝惚けているとコンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた
はぁいと返事をするとゆっくりとドアが開いて園子お姉ちゃんが顔を出した
私の姿を見てホッと一瞬気を緩めるとキッと眉と目を釣り上げてドアを勢いよく開け放して部屋に乗り込んでくる


「夢子!あんたねぇ何熱だしてるのよ!!」

「えぇ…? ごめんなさい…」

「まったく!気をつけなさいよ!」


口調は厳しいが先程の表情といい言ってる事といい、妹である私を心配してくれていたのがわかる。
ツンデレさんだなぁ園子お姉ちゃん。
一見傍若無人だが周りの人の様子をよく見て、一人になってる子はいないか、行動が遅れてる子はいないかなど彼女はよく見ている。
結構世話焼きというか頼られるのが好きな姉御肌な所があるのだ
小さい内なんて原因不明の高熱など多々あると思うのだが、私が覚えてる限り今までの姉にそれは見られない。
健康優良児だから家族で一番弱い私の突然の発熱に本当に心配をかけてしまったのだろう
自分でコントロールは出来ないけれど。出来るだけ健康には気を使ってあげよう。


「おねーちゃんも心配してたんだから!あとで顔見せてやんのよ」

「綾子お姉ちゃんも?わかった…」


ぽわぽわと普段私を甘やかしてくれる綾子お姉ちゃんにまで心配をかけさせてしまって申し訳ない
ふ、と枕元のサイドボードを見ると飲み水と共にキラキラに包装されたキャンディボックスが置いてあった
なんだこれ?
私の視線に気付いたのか園子お姉ちゃんがそれはパパがお仕事切上げてわざわざあんたに買って来てやったお土産よ!大事に食べんのよ!とお姉さん風を吹かせて言い放つとそのまま私の部屋から出ていった

マジか。パパ仕事切上げて様子見に来てくれたんだ。

前世の父を思うと現世の父はどうしても自分の中で線引きをしてしまい、本心から“父親”と思えていない自分がいることに少し前に気付いた
パパーママーと呼びはするが、心のどこかで「この体の」「園子の」がついている事に薄々気付いた私は罪悪感からか甘えられない子供になっていた。
精神が既に大人だからと言ったものではなく、心の底に根付いた自分の父母と違う人物だからという事実に気付いてしまった。
だがパパとママにとって3人目とはいえ可愛い愛娘に違いはない。
男の子が欲しかったんだろうなと考えはするが、だからといってネグレクトされる事もなく、いやむしろお手伝いさん達含め全員で全力の愛で育ててくれる。
とても大事にされている。それは身に染みて感じ、分かっていた。
この生の父も、母も、姉も、もう一人の姉も。

今の私にとって大事な存在になっていた。

それでも、20年以上の“私”の記憶達が「薄情者」と引き留める。
人は、人の事を声から忘れると聞いたことがあったが確かに学生時代の友人達の声がちゃんと思い出せない事に最近気づいた。
もう数年もすれば親友と呼べた友人の声も、前世の親の声も忘れるのだろうか。
前世の親の声も、顔も、思い出せなくなってしまったら。
その時、私の中での“優先順位”は変わるのだろうか。

それが良いことなのか、悪いことなのかわからなくて時偶に虚空を見つめて考え込む事がある

パパがくれたキャンディボックスのリボンを解いてキャンディを1つ摘み上げて光に翳した。

黄色い飴は陽の光を通すと金色に輝いて、それはそれは宝石のように綺麗で、口の中に思い切って入れるとリンゴ味の甘酸っぱい風味が口いっぱいに広がって、少しだけ寒く感じていた心がほんのり暖かくなった






◆◇◆


side:Sonoko


私の2つ下の妹、夢子はいつものんびりゆったりしている。
私が連れ出さないと一日中部屋の中で絵本を読むか浅霧さんの後を追いかけているのだ。
浅霧さんの仕事の邪魔じゃない。何してるのよ。と一度聞いてみたら「にんげんかんさつ?こみゅにけーしょん?」って答えが返ってきた。
なに?にんげんかんさつって。
私の方がお姉さんなのに夢子は頭がいいのか難しいことを偶に言うのだ。
そんな夢子と過ごすのは午後がメインで、午前中私は幼稚園に通っている。サクラ組なの。かわいいでしょ?
毛利蘭ちゃんっていう仲のいい友達と、転園してきた工藤新一くんっていう子と最近はよく遊ぶようになった。
蘭ちゃんを好きなんだろうけど意地悪ばっかりするいじめっ子を追っ払える中々に凄いやつ。
ま、新一君も蘭ちゃんが好きなんだろうな、ってのが見てて分かるけど?

そんな新一君のお家に遊びに行っていいと言われた日、私は夢子を連れて行ってあげた
いつも家で1人でいるあの子に私の友達を紹介してあげようと思ったの。
車でいきなり呼び捨てにされて腹が立ったから叩いちゃったけどシツケよシツケ!
お姉さまを呼び捨てになんてさせないんだから!
新一君の家につくといつも以上にもじもじと動こうとしない夢子を引っ張ってあげれば蘭ちゃんも夢子の手を引いてくれた
蘭ちゃんも新一君も兄弟がいないと聴いていたから少しだけ優越感を感じる。
いいでしょ、私はお姉ちゃんも妹もいるのよ!
新一君が不貞腐れた顔をしてこっちをチラチラ見てくる。
最初は蘭ちゃんを見てるだけだと思ったけど新一君が声をかけた先でわかった


「おめぇ喋れねえのかよ」

「ぁ…えっと…しゃべれる…」

「ふーん、俺は工藤 新一。」


なんだ、夢子と話したかったのか
コイツもコイツで素直じゃないわねーと呆れながら新一君のお家へお邪魔した
新一君のママはきゃぴきゃぴしていてうちのママと違う
面白い人?うん、明るくて楽しい感じの人。
出てきたお菓子も私の好きなメーカーのものだし友達と一緒に食べれてる特別感もあっていつもより美味しい
そのあと新一君が夢子を呼び捨てにして、夢子が蘭ちゃんと新一君に呼び方を確認した。
新一君は何でもなさそうなフリをしてるけど二人とも凄くうれしそう。
その様子にちょっとだけモヤっとした
私の妹なんだからね?二人ともわかってる?
なんだかなぁーとジュースの残りを勢い良く吸うとズズズズッと汚い音がした。夢子が何故か同時に音を立てて吸ってて蘭ちゃんと新一君に笑われた。もう!真似しないでよね!



家に帰ると夢子は一目散に自分の部屋へ入っていった
こういうのを引きこもりというらしい。テレビでやってたから知ってる!
将来ニート?とか無職?にならないように私が毎日遊んであげなきゃって決めたんだけど家に帰った途端これだ。
はぁー、と溜め息を一つ吐いてから私は自分の部屋に帰るために夢子の部屋の前を通りかかる
ドアがほんの少し開いていたのでちらりと覗くとお絵描き帳に一心不乱に何かを描いている
あの子が絵をあんなに夢中になって描いてる姿は初めて見た
流石に邪魔しちゃ可哀想か、と覗くのをやめて私は自分の部屋に戻った

そのあと何日にも渡って絵を描き続けているので無理やり中庭まで連れ出したりしてあげたが夢子は相も変わらずよくわからない絵ばかり描いている
何かのマーク?まぁ3歳のお子ちゃまが描くものに意味なんてないと思うが。
偶に数字がついていたりと意味が分からない
お姉ちゃんに聞いてみるが


「んー。私にも何を描いているかは分からないけど、絵本を読むばかりだったあの子に新しい楽しみが増えたんなら別にいいじゃない」


…なんて呑気なことを言っていた
まぁ近いうちに飽きるか。なんて私も呑気に構えていたら夢子が高熱を出したのだ
後悔した。やっぱりやめさせればよかったんだ
まるでおばけに憑りつかれたようにクレヨンを握る妹からクレヨンをぼっしゅーすればよかった

ママはアメリカの取引先に行ってるからすぐに帰っては来れなかったけどパパが仕事を切り上げて急いで帰ってきてくれた。
急いだ割にはしっかりお土産を買って帰って来る辺り娘に好かれようと必死なのがわかる
大丈夫よパパ。あの子は私より大人ぶってるところがあるけどちゃんとパパのこと好きよ。…多分。




家族の愛情。



(今日から毎日お外に出てたいよー浴びんのよ!)

(はーい…)

(園子、夢子。お姉ちゃんと一緒にテラスでおやつにしましょ?)

((わーい!!))




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