「いってらっしゃい」と「おかえり」をいつも困ったような顔をして口にする。そんな審神者に同田貫は違和感を覚えていた。
あまりにもそれが頭に残り、ついつい御手杵に話してしまったのはつい先程の事。「なんだ、」そんな事も分からないのか?と言うように、同田貫にへらへらと笑みを浮かべた御手杵に話す相手を間違ったと後悔した。しかし、口にしてしまったからには後戻りできるはずもなく、ペラペラと得意気に話す御手杵に同田貫は黙って耳を傾ける。
「そりゃ、だあいすきな俺達が心配なんだよ。今日は無事で帰ってくるか、怪我してないか、帰ってきても、また送りださないといけないなあー、なんて。きっと主の事だからそう思ってんじゃないか」
俺達は武器だ。と顕現して間もない同田貫が口にするのはおかしな事では無い。武器として刀生を過ごして来た同田貫にとって、審神者の感情は些か理解に難しい。
「あいつは変わってる」
「そうかな? 人間らしいと思わないか? 何にでも情が湧いちゃうんだよ。刀の俺達にでさえ。特に今はこんな姿だしな」
自らの手のひらを見つめる。傷だらけの己の手は、厚い皮膚に覆われ硬い。しかし温度がある。熱も、冷たさも感じ、痛みも感じる。皮膚が裂ければ血肉が露になり、時として、この体は壊れる。
「……ンでわざわざ」
「こんな姿に? うーん。なんでだろうなあ」
深刻に眉間に皺を刻む同田貫とはうって変わり、御手杵はあまり興味無さげに笑った。
「あ!こんな所にいた!」
バタバタと騒がしく、こちらへやって来る主に御手杵が「おー」と手を上げる。
「正国!手入れ受けてないでしょ!もー!軽傷でもちゃんと受けてよね!」
プンプンと怒った審神者が同田貫の手を掴んだ。その手はやけに温かい。
「お前怪我してたの?」
「…怪我のうちに入んねえよ」
微かに痛む腹部に同田貫は、まるで他人事のように呆れる。
―――人間を真似たような肉体でなければ、こんな痛み。
「怪我だし。もういい加減私の言うと聞いてよね」
審神者の声が、少し震えた事に同田貫は俯いていた顔を上げた。途端に前を向き、同田貫の手を握ったまま歩き出した審神者の足音は大きい。
「怒ってんのか悲しんでんのかよく分かんねえ」
「怒ってるし悲しんでんの」
「俺達は武器だぞ」
「………、知ってる」
きっと自分が思っているよりも、この主は幼い。感情的になりがちで、戦闘には向いていない。同田貫がこの本丸に来てから、審神者の印象は怒るか泣く。で、果たして主と呼ぶべき相手なのか、と思う所もある。
「一々泣くんじゃねえ」
「分かってる」
「……分かってねえよ、信用もしてねえんだろ、あんた」
無事に俺達がこの本丸に帰ってくる事を……。
ぴたりと審神者は立ち止まり、鼻をすする音が前で聞こえた。
「それは、……ごめん。そうかも。……なんか、すごい心配なんだよね。日に日に。正国や他の皆が大切になればなるほど、武器だって割り切れないし、戦場に送り出した後凄く怖くなる。……でもごめん、流石に不味いよね。審神者がこんなんだと……ごめん、信じる。正国達は帰って来る」
握られていた手を、ぎゅっと強く掴まれる。同田貫は思わずその手を握り返した。
「……うん、でもやっぱり温かい。武器だって割り切るのは難しいよ」
困ったように笑うその顔が嫌いだ。
同田貫は言葉も見つける事が出来ない。じわりと染み込むような温かさに居心地が悪かった。
「とりあえず、今は手入れすること」
人の形とあれど、武器はいつか失うものを得てしまったとしたらどう壊れていくのだろう。
きっと揺れる動く感情に耐えられない。