聖女






百合子を初めて抱いたのは、彼女の二十何度目かの誕生日。俺がまだ成人を迎える前のことだった。互いに酒が入っていたのは、俺が彼女に歳を教えていなかったから。しっかりしている百合子のことだ、もしも俺がギリ未成年というのを知ったら勧めなかっただろう。それもあいまってなのだろうが、あまりそう考えたくはない自分がいる。とにかく俺はあの時から本気で百合子を求めていたし、今でもそう。けれどどんなに愛おしく思っていても黙っている方が良いのである。素性の知れない男がお前に惚れたなんて、言ったら困らせてしまう。今まで散々困らせているというのに何を言うか。頬に涙の筋が痛々しく引かれた百合子の隣で、くわえた煙草に火をつけた。

「帝統、帝統」
呼ばれて目を覚ますと、パジャマ姿の百合子がいた。カーテンからはわずかに日が差している。そうか、もう朝か。記憶が曖昧だが、たぶん一本だけ吸って眠ったのだ。おはようと百合子が言うので俺もそう返して体を起こす。さて、昨日枯れるほど泣かせた女に何を言うべきか。……悪いしか出てこなくて頭をかいた。
「あのさ、百合子――」
「朝ごはん、食べるでしょ?」
「…は…?」
朝ごはん。繰り返して言うと、百合子は軽く頷いた。俺の是非も聞かず、用意してくるねと言った百合子は、昨夜俺が酷くしてしまった人とは思えなかった。
いい女。百合子はそう言うにふさわしい女だ。けれど彼女を“都合のいい女”たらしめているのは他でもないこの俺で。いっそ俺も、なんの罪悪感もなく百合子を都合のいい女だと言えれば良かったのに。


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