人気者イケメンの片思い相手が女装した俺のわけがない


美形攻め。陰キャ受け。女装。

「エイト〜!土曜の合コン来てくんね?エイトが来ねーと女子が盛り上がんねーからさ〜!」
「ちょっと!うちらのエイトとられんじゃん!」
「そぉだよ!ねーエイト行かないでぇ?」
「ちょ、お前らマジ黙ってて!女子大生だぜ〜?来なきゃ損だって!」

煩い。耳が痛い。何故このリア充共は俺の近くでこんなにアホみたいに騒いでるのでしょうか。答え、こいつらの中心の八矢エイトが俺の隣の席だから!クソが!俺の孤高のランチタイムを邪魔しやがって!屋上とかでやれよ!バーカバーカ!

「七見誘ってやれば?絶対暇じゃん?」
「あはっ確かにー!ねー七見!合コン行ってきなよー!」
「彼女できるかもよー?」

ケバケバした女が俺の机に手をつく。
やめろ。弁当食ってんだよ。見てわかんねーのか。
無視して卵焼きを口に放り込む。
…母さん。俺は卵焼きは出汁巻派なんだ。甘いのは解釈違いだ。
まぁ文句は言わないんだけどな。ぶん殴られるから。母は強いんだ。物理的な意味で。

「はー?こんなネクラオタク連れてったら女の子帰っちゃうだろ?」
「言えてる!」
「ちょ、可哀想じゃん」

どっと起きる笑い声。面白くねーんだよ。
ごはんとウィンナーときんぴらごぼうを詰め込みお茶を飲んで弁当箱を鞄に突っ込む。
ゆっくり食べたかったが早くこいつらから離れたかった。
別に合コンとか興味ないんだよ。女子大生?知るか!二次元に敵う女の子はいないんだ。ていうか暇じゃないし。土曜日は友達と約束があるんだよ!ぼっちなのは学校でだけだよ!
席を立ち扉に向かう。俺を嘲笑う声が聞こえたが教室を出る頃には話は八矢の話題に戻っていた。
何が別に興味ない、だ。カッコつけめ。

八矢エイトは俺とは正反対の男だ。
芸能人にも匹敵するレベルのイケメンで身長も高い。女子にモテモテでいつも周りに侍らせている。男にも人気で友達が多い。こう挙げると完璧なイケメンみたいだが性根は最悪だ。陰キャオタクの俺を見下し嘲笑う。さっきの奴らみたいに大っぴらに何か言う事は無いが、中心で馬鹿にしたように笑っていやがる。実にタチが悪い。
対する俺はぼっちなオタク。昼飯食う相手もいなければ体育の授業で二人一組を作れと言われれば先生と組む常連生徒だ。
正反対で、俺に無いものを全部持ってるが羨ましいとかは特に思わない。俺は陰の道を突き進むメンタル強めのオタクなのである。

中庭に着きベンチに腰掛ける。ここは屋上と違い生徒がほとんど来ないので穴場なのだ。
スマホを取り出しアプリゲームを起動する。
今俺が一番ハマっているアイドルゲームである。
やっぱ二次元だよなぁ。
先ほど絡んできたアホな女とは大違いだ。
可愛いし、声でかくないし、無神経じゃないし、見下してこない。
推しを眺めて癒される。そもそも比べるのが失礼だよな。
俺は昼休み終了のチャイムがなるまでイベントを走った。



×××

話は飛んで現在土曜日昼頃。
俺は友人宅でオタク談義に花を咲かせた。

「次のイベント、柊くんの推しがメインだって」
「マ?絶対走りきる」

数少ない、というか唯一今も付き合いのある九重くんは中学からの友人だ。知り合ったきっかけはトゥイッターで、同じジャンルのオタクで、何度かやり取りをするうちに同じ歳で同じ市に住んでる事が発覚して、オフで会って、今ではお互い本名で呼び合う仲である。
同じオタクと言っても九重くんは性格も明るいし俺と違って陽キャだ。ちなみに趣味はコスプレ。完全なる陽の者である。あと顔もいい。
俺とも仲良くしてくれるし九重くんの前世って仏だったんじゃないだろうか。もしくは今世が菩薩なのか。

「柊くんもコスプレしようよ!絶対可愛いって!」
「…またそれ?」

困った事に菩薩、もとい九重くんは俺をコスプレに誘ってくる。九重くん曰く可愛くなるし可愛くしてあげるとの事だが正気の沙汰とは思えない。九重くんの審美眼どうなってんの。
俺の好きなアイドルゲームの推しキャラクターのコスプレをして欲しいらしい。
ピンクとか青とか黄緑とか紫とかの髪色のキャラがたくさんいるなかで黒髪のキャラなのでハードルは低いと言うがそもそも女装の時点で俺にはハードルが高すぎる。

「じゃあ今から同時にガチャ引こう!俺の方がレアリティの高かったら柊くんはコスプレ!柊くんの方がレアリティ高かったら俺は引き下がる」
「俺の意見はないですかそうですか」

九重くんはたまに強引なのだ。
困った友である。
というか二人ともノーマルだったらどうするんだ。決着つくまで引くのか。そんな何十回も引くほどクリスタルないぞ。
二人でスマホを見せ合いながらせーのでガチャを引く。

「なん…だと…」
「っしゃー!絶対可愛くするから!」

結果は俺はノーマル。九重くんはSSRだった。
単発だったのに。なんだその引き!重課金勢かよ!
俺も課金はしているが小遣いの半分以下で微課金だし、九重くんはコスプレとかメイクとかで出費が大きいので課金は滅多にしないと言っていた。なにこの格差。負けたとかより普通に羨ましいわ!
いつの間にか化粧道具やら衣装やらを用意した九重くんがにこにことしていた。

「絶対可愛くするからね」

何で二回言ったの。

「……」
「…九重くん」
「可愛すぎ」
「嘘だろ」

衣装の前にまずはメイクという事で顔面に色々塗りたくられ一時間超え。コスプレイヤーって凄いな…。世の女性のメイクもこれくらいかかるんだろうか。
鏡を見ていないのでどんな感じに仕上がっているのかわからないが九重くんの反応を見た限り美少女に仕上げてもらったらしい。…本当かよ。
ウイッグを被せ髪を解かれる。胸元まで伸びたそれは初めての感覚だからか変な感じだ。指で掬ってみるとサラサラのツヤツヤだった。最近のウイッグって凄い。高いやつなのかな。

「完成でーす!」

九重くんに手を引かれ姿見の前に立つ。

「…お、おぉー」

思ったより美少女だった。
化粧はいつも九重くんがやってるみたいなガチガチのコスプレ用メイクではなく薄めだったが、それだけでも肌色が明るくなり雰囲気が大分変わる。頬もうっすらピンクで血色がいいというか健康的な感じだ。
髪型が大きく変わるだけでガラリと変わるもんだなぁと鏡を見つめた。

「初めての化粧だし、あんまりゴテゴテするのもと思ってナチュラルメイクにしたけど、柊くんやっぱ美少女だなー」
「…そう?」

散々嫌がってたくせにそう言われると悪い気はしない。美少女かな…?美少女かも…。ノセられて調子に乗ってポーズをとってみる。…これはコスプレハマる人の気持ちがわからなくもないかもしれない。俺はハマんないけどね!

「衣装どうしよ?制服とアイドル衣装があるけど」
「え、着替えんの?!」
「当ったり前じゃない!折角ウイッグもメイクもしてんのに!」
「…制服で」

アイドル衣装より制服の方がまだマシだろう。
二の腕やら臍やら脚やら剥き出しのフリフリ衣装は幾ら何でもハードルが高すぎる。まぁ制服は制服でミニスカートだけど。それでもアイドル衣装よりはマシだ。
制服に着替えて鏡に全身を写す。青いチェックのスカートに白いブラウスのセーラー服が可愛らしい。
こうして見ると推しキャラクターに見えなくもない…?
黒髪ロングというリアルでも珍しくないキャラデザだし、本当は目の色が赤色なんだけどカラコンはつけていない。化粧も薄めなのでめちゃくちゃ似ているかと言われると困るんだけど雰囲気は近いと思う。制服が特徴的なのでわかる人にはわかってもらえるレベルだろう。
今すぐ脱ぎ捨てたいくらい嫌ってワケでもないんだけど、スカートが。短い。脚が剥き出しで違和感がやばい。脚寒い。

「柊くん、デートしよう!」
「はぁ!?」

抱きつかれて、吃驚して離れようとして、思ったより力が強かったので失敗に終わる。
デートって、この格好でだよな?無理!恥ずかしい!こんな格好で外出るとか俺変態になっちゃうじゃん!

「大丈夫だって!柊くん可愛いしどっからどう見ても女の子だよ、美少女だよ!バレないって!」
「いや無理あるしバレないとしても流石に抵抗ある!」
「でも俺の方がレアリティ高かったから柊くんは俺の言う事聞かないと」
「そんなルールでしたっけ?!」
「SSRだったから!」

ゲーム画面を突き付けられる。
SSRの文字ときんきら枠の中には俺の推しキャラがいた。よりにもよっての引きである。何も俺の推し引かなくていいじゃないか。



×××

九重くんは人が多く賑わっている中心部の方に住んでいる。なので家から割と近い距離に大きなショッピングモールやゲームセンターなどがあって、遊べるところが充実している。
この格好で電車やバスに乗るのも抵抗あるけど、だからといってこんな人の多いところもなぁ…。
いつバレるか、もしくはとっくにバレていたらと恐怖で買い物どころではなかった。
心なしかいつもより視線を感じる気がする。自意識過剰なだけだろうか。不安になって九重くんに聞いたら「柊くんが可愛いからだよ」だって。
そんなわけあるかい。

いつもはテンション上がってフィギュアとかタオルとか取りに行くゲーセンだったが今日は大人しくしていた。女装への羞恥心もあったが、あんまりはしゃぐとパンツ見えそうなんだよ。ちなみに下着は男物である。流石に女子用パンツは履けない。九重くんは女装の時下着はどうしてるんだろうな。なんか恐くて聞けないわ。

「ねぇ!上の階の音ゲーのとこ行かない?」

ここのゲームセンターは一階はクレーンゲームやプリクラ、二階は音楽ゲームや格闘ゲーム、三階からはゲームの他にカラオケがある構造だ。
一階のクレーンゲームの客層は学生だったりカップルだったり、プリクラ撮りに来たJKが主だが二階と三階はオタクの領域だ。いや、俺の偏見なんだけど多分そうだ。
流石にそんなオタクフロアに行けばコスプレだってバレるだろう。人気ゲームだし、結構特徴的な制服だし、がっつりメイクしてなくても後ろ姿や遠目から見たら多分一発だ。女装だってバレるかもしれない。

「えー。新曲実装されたのにー」

頬を膨らませて九重くんが拗ねる。あざとい。
俺だってこんな格好じゃなかったらやりたいわ!
ここで待ってるから行ってきなよ、と九重くんを二階に送り出す。九重くんは若干渋っていたがすぐ戻るよ、と言いエスカレーターを上って行った。
正直帰ってしまいたかったが俺は一階をふらふら彷徨きながら九重くんを待つ。
女装させられようがそのまま外へ連れ出されようが俺は友人思いのいい奴なのだ。
九重くん以外に友達いないしな。ぼっちには慣れたものだが付き合いの長い九重くんと友達じゃなくなるのは嫌だしな。

クレーンゲームの近くだと物欲が疼くのでプリクラ機の密集するコーナーに移動した。
普段絶対来ないからちょっとだけ新鮮だ。
プリクラなんてどれも同じだと思うけど結構種類あるんだな。
どの機会も美白、デカ目、小顔と書いてある。どれも同じじゃねーか。
プリクラ機から女の子が二人出て来た。土曜日なのに制服を着ていて、部活帰りなのかな。撮り終えたばかりのプリクラを切り分け二人できゃぴきゃぴ笑ってる。
JKを見送り自分の身体を見下ろす。流石にリアル女子高生と比べると女子には見えない。
男にしては低い身長だが女子として見れば少し高い。体格もさっきの女の子たちの方が細いし柔らかそうだ。…いや何言ってんだ俺。女は二次元に限るだろ!
やっぱりゲームコーナーに戻ろう。
悶々としつつ結局クレーンゲームをやる。アニメやゲームのグッズではなく、動物のキャラクターのぬいぐるみがケースの中で積まれている。
いつもみたいに物欲センサーがないからか、あっさり景品をゲットできた。
手のひらに収まる白いうさぎのぬいぐるみだ。紐が出ていて鞄とかにつけられるタイプだ。
取ったはいいけど、どうしよう。そんな事を考えていると肩を叩かれた。九重くんが戻ってきたのかと振り返ると知らない男が二人いた。チャラ男だ。
えっ何カツアゲ?

「君可愛いね!一人?」
「俺らと遊ばね?」

違う。ナンパだ。
マジかこいつら。
チャラ男二人に挟まれる俺。普段ならどう見ても金を巻き上げられてる図なのだが残念ながらナンパらしい。どっちも嫌だよ!

「制服も可愛いね。学校どこ?」
「いや、あの…」
「上のカラオケで話そうよ」

密室は嫌だ!
肩を抱かれ男の方に引き寄せられる。
やめろ!気持ち悪い!そして怖い!
肩にあった手が腰に回され鳥肌が止まらない。
せ、セクハラだー!!

「お…私、友達と来てるんで」
「そうなの?じゃあその子も一緒に遊ぼうよ。女の子?」

男だよ。
そして俺も男だよ。

「あの、ほんとにやめてください」

なんとか離れようともがくが男の力は強く離れられない。もう一人の男が歩き出して、その男に着いて行く様に身体を引っ張られる。いっそ男だとバラそうかと思ったとき、思わぬ助けが入った。

「嫌がってるだろ。離せよ」
「え…えっ?!」

俺を助けたのは八矢エイトだった。
何故ここにいる。合コンはどうした。行かなかったのか。そういや興味ないとか言ってたな。
突然のイケメンの登場にチャラ男達は捨て台詞を吐いて去っていった。完全に当て馬じゃん。

「男連れなら言えよ!」

男連れも何も男なんだよ。
チャラ男達を見送り、俺もどさくさに紛れて八矢から逃げようと考えていると視線を感じた。
見ると八矢が俺を注視している。
めっちゃ見ていらっしゃる。
まさかバレたのか?見知らぬ男たちならともかく、顔見知りの八矢には流石に俺が七見柊だってバレるかもしれない。
どう反応していいか困っていると八矢が口を開いた。

「大丈夫?」
「へ?あっ、はい。…ありがとうございます」

…バレてない?
俺はいい子なので相手が気に食わないあんちきしょーな八矢でもちゃんとお礼を言う。
…助かったのは本当だしな。

「一人で来たの?この辺、危ないよ」
「えっと、友達と二人で…」

会話が発生してしまった。
何で話しかけてくるんだ。俺も普通に返事するなよ。
完全に立ち去るタイミングを逃してしまい、一人気不味くなる。

「名前聞いてもいい?」
「えっ」
「俺は八矢エイト」

知ってる。
同じクラスの隣の席の八矢エイトくんでしょ知ってる知ってる。
陽キャグループの中心でいつも男女問わず周りに侍らせてる人気者の八矢エイトくんでしょ知ってる知ってる。
名前、どうしよう。馬鹿正直に名乗って、女装してるのがバレたら間違いなく俺の高校生活は終わる。
今でさえぼっちだとかネクラオタクだとか色々言われてるのに女装癖のある変態だとか言われるに決まっている。
助けてもらっておいて無視するのも感じ悪いしな…。
別に助けてなんて言ってないんだけどね。こいつが勝手に助けただけだからね。でも助かったのは本当だし…。
八方ふさがりな状況に困り果てていると助け舟が来た。

「お待たせー!」

九重くん!遅いんだよ、ばかっ!バーカ!
俺と八矢を見て、どう言う状況なのか頭にハテナを浮かべていた。何か言いたそうにしている九重くんが、俺の名前を呼んでしまう前に、俺は持っていたうさぎのぬいぐるみを八矢に押し付けた。

「っお礼です!ありがとう!…後さよなら!」

何か言いかけた八矢に背を向けて、九重くんの手を引き自動ドアに向かって走った。
パンツが見えない様にスカートはしっかり押さえる。その辺抜かりのない俺である。

ゲーセンを出てからも暫く走って、すぐに体力の限界がきたので速度を緩めて歩いた。インドアオタクなのでもやしっ子なのだ。

「何あれ?ナンパされてたの?」
「…ナンパされてたのを助けてもらったんだよ」

ふーん、と九重くん。それだけかい。

「…やっぱり柊くんを一人きりにしたのは失敗だったかな」

この格好で外に出た事が失敗なんだよ。
次は本屋に行こうよとほざく九重くんを全力で言いくるめて、俺たちは帰路に着いた。



×××

昼休み。俺はいつも通りゲームをする為中庭へ向かった。ついでに今日はここで食べようと思って弁当も持ってきた。
今日の卵焼きは出汁巻であります様に。
いつものベンチに着くと先客がいた。
一人は女の子で、多分一年生の子だ。もう一人は八矢だった。何故ここに。

「あのっ、私、八矢先輩の事が好きですっ。良かったら付き合ってくださいっ」

告白現場だった。
これだからリア充はよ!クソが!
八矢はモテモテだが彼女がいるという話は聞いた事がない。…どうせ取っ替え引っ替えしてんだろ。
返事、どうすんのかな、と思っていると意外にも八矢の返答はノーだった。なんだ、好みじゃないのか?結構可愛い子だと思うけど。俺の推し程じゃないけどなっ!

「好きな子いるから、付き合えない」

意外だ。
好きな子がいるという事も吃驚だが、平気で何股もする男だと思っていたので意外と誠実なんだな、と思った。この間も助けてくれたし、思うほど嫌なやつじゃ無いのかもしれない。俺だと思って助けたんじゃないだろうけど。仮に俺がカツアゲにあってたなら同じ様に助けてくれたんだろうか。…いや、クラスで馬鹿にされてる時も中心で嘲笑ってるだけだし。無いな。やっぱり嫌いだあんな野郎。
中庭で食べるのもなんとなく気不味くて、俺は教室に戻った。

昼食を終えてスマホを取り出す。
ちなみに卵焼きは甘かった。
いつもより静かな隣の席に視線をやる。静かなのは中心である八矢がいないからか。いつもこのくらい静かならいいのに。
そんな時間も長くは続かず八矢が教室に戻ってきた。

「どこ行ってたん?」
「中庭」
「告白だろ?」
「うん」

こんな男の何処が良いんだか。
やはり顔か。顔なのか。
世の中不公平だよなぁ。

「どうせまた断ったんだろ?」
「試しに付き合ってみりゃいいのに」

試しに付き合うって何だよ。女の子は試供品じゃねーぞ。

「好きな子いるから無理」

その八矢の一声で一瞬教室が静かになる。
それからあちこちで驚きの声や悲鳴が上がる。
いつも以上に騒がしい教室。八矢は好きな子がいるって言ってなかったのか。まぁでも言いふらすタイプでもなさそうだよな。

「えっ嘘!?誰!?ショックなんだけど!」
「マジかよ!?この学校?!」

いつも八矢に群がってる女共が悲痛な面立ちで問い詰める。男共は驚き半分興味半分といったところだ。

「この学校じゃないよ。見た事ない制服だった」
「どんな感じの?」
「青いチェックのスカートで白いブラウスのセーラー服。襟は青いラインが入っててリボンはスカートと同じ柄」

まるで俺の推しの通う学園の制服みたいだな。

「この辺じゃみないな。とんな感じの子?」
「髪は黒髪で胸までの長さで、背は多分165くらい?」
「女にしちゃ高いか?」

黒髪で胸元までの長髪か。まるで俺の推しみたいな特徴だな。
…まさか。いやいや。まさかまさか。無いって。
だって、黒髪ロングなんてよくいるし。165の女だってこのクラスにもいるし珍しくも何ともないだろう。
制服も…たまたま似た服を着てただけかもしれないし。

「名前も知らないけど、忘れられなくて。多分一目惚れ」

八矢の周りがより一層騒がしくなる。
その声につられて隣を見る。八矢の席、その机にかけられた学生鞄にはあの白いうさぎのぬいぐるみが下げられていた。

俺の事じゃねーか!
がくっと頭を抱え机に突っ伏した。
嘘だろ。あいつの女の趣味どうなってんだ。ていうか女じゃねーよ!
まさかおれと同じ趣味…?いやいや、俺のは二次元だし。推しの格好した俺と俺の推しじゃ推しの圧勝だし。
周りの声より俺の心臓がばくばくとうるさい。どうしてそうなった。
スマホに視線を戻すと、ゲームを画面では俺の推しが可愛らしい笑顔で写っていた。



終わり

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