異形の花嫁2
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昔の話。七年前で俺が十歳だった頃の話。
俺には居場所がなかった。今にして見れば勝手に一人になっていただけだけど。
転校に納得いかなかった俺は変な意地を張って話しかけてくれるクラスメイトにも愛想を悪くした。最初はそれでも遊びに誘ってくれたりしてた子達も次第に離れていくようになった。自分で招いた状況なのに俺はそれが辛くて独りでいるのが兎に角嫌だった。
分校にいれば他の子供達が仲良く遊んでいるのに対し俺だけが独りきり。家に帰れば母親は祖母に付きっきりで俺は独りきり。分校にも家にもいるのが嫌で、そのうち俺は分校の裏手にある森に居座る様になった。
「立ち入り禁止の看板があるのに入ってきたんだ」
森に居座る様になって半月程。俺だけだと思ってたから話しかけられた時は吃驚した。
銀とも白とも水色ともつかないきらきらした髪に翡翠の瞳。白い着物を着た子供がそこにいた。
「村の大人達に止められなかったの?ここ入っちゃ駄目なんだよ」
「…自分だって入ってるじゃん」
「俺はいいんだよ」
てっきり女の子かと思ったその子は男の子だった。
大きな目に長い睫毛に白い肌に桜色の唇。綺麗な顔をした子だった。
「村の人となんて喋らないよ。僕、独りだから」
「ふぅん」
「僕はこの村の人じゃないし」
「この村にいるのに?」
「ほんとは違う!」
「へぇ」
からからと笑う男の子にむっと唇を尖らせた。
「君の名前は?教えて」
何で、と思わなくもなかったが素直に名乗る。
「四ノ宮 祝」
「歳は?」
「十歳」
自分だけが名乗るのが不公平な気がして、男の子の名前を聞く。
「無いよ、そんなの」
「無いって…そんなわけないだろ」
「うーん。あえて言うなら神様かな」
「神様ぁ?」
何言ってるんだ。
にこにこと笑う美しい顔に、馬鹿にしてるのかという気持ちと馬鹿なのかという気持ちと本当かもしれないという気持ちが綯交ぜになった。本当に人間じゃないみたいな不思議な子だった。
それからも俺は度々森に足を運んでは神様と話す様になった。
独りが嫌で一人になりたくて来た森で友達が出来た気がして、ここにいる間だけは心が楽になった。
梅雨が明けてからからと暑い夏が始まって、俺は相変わらず放課後も父親が来る休日もこの森で過ごしていた。
「神様は子供を攫うの?」
この学校に来る前の学校の図書室で借りた本を思い出していた。
小さな子供が神様に攫われる話。神の祠に入った子供が神隠しにあって、その子供の親や友達が必死に探すのだけど見つかりませんでした、と言った内容だった気がする。あの本が何を伝えたかったのかはわからないが、俺はこの村に来てからこの本の事を考える事が多かった。
「神隠しの事?そんなのしないよ」
「なーんだ」
神様と言っても同じ年頃の子供だ。神かどうかが本当かはともかく攫うなんて無理だろう。
何でそんな事を聞いたのかな。攫われてしまいたかったのかな。
「神隠しにあいたいの?」
わからない。この村にいるのは嫌だと思うし分校も好きになれない。でも前の学校にはまた行きたいし友達にも会いたい。家だってこんな田舎の古い家よりずっと住んでた、広くはないが十年間暮らしてきたあの家に帰りたい。
攫われたい、とは少し違うかもしれない。でも、この村からは
「いなくなってしまいたい」
その言葉は本音だった。
神様はそっかと笑うと手を重ね指を絡めてきた。
吃驚して神様の顔をじっと見る。
「神隠しはしないけど、お嫁さんにしてあげる」
そしたら祝はこの森で、ずっと一緒だよ。
ぎゅっと掴まれた手は子供の力とは思えない程力強くて痛かった。
「思い出してくれた?」
あの頃の同じ笑顔で笑う。
繋いだままの手を顔に近付けると指先を口付けられる。
ぎょっとして手を引くも残念そうに指先に視線を向けていた。
「…神様なんて言ったけど嘘なんだ」
そう言われれば普通は神様でなく人間なんだと納得するところだらう。
だが俺には目の前のこいつが人間とは思えなかった。
本当の本当に神様でしたーなんて言われた方が納得できる。
「まぁ神様っていうのも半分は本当にみたいなものなんだけどね」
ふふ、と声を漏らす。
曰く、彼の正体は鬼だと云う。
姿も人間の物でなく本来はツノが生えていて、身体もずっと大きくて人間とはかけ離れているのだと。
怖がらせたくないし、嫌われたくないから見せないけど、と。
昔は祠があって、そこに住み着くつちに村人から崇め奉られるようになり、いつからか神様となったらしい。
「だから鬼でもあり神様でもありって感じなのかな。かっこいい?」
悪戯っぽく笑われるも俺は反応できずにいた。
「純粋な鬼ではなくなって、亜種の鬼だから亜鬼(アキ)。祝に名前を呼んで欲しくてあの後考えたんだ。どうかな」
あの頃は自称神様で俺もそう呼んでいて、アキと名乗ったのは俺がこの村を発ってかららしい。道理で覚えのないはずだ。
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