道に落ちてた幼女

やぁ。突然だけど道端に幼女が倒れていたら君たちならどうする?俺?俺はねぇ、見捨てるよ。え、非道だって?そりゃあ俺だって助けようと思ったよ。近くに保護者がいないか幼女に怪我がないか確かめて周りに人は誰もいなかったからとりあえず幼女に話しかけようと思ったさ。普通の幼女だったらな!
まず目についたのはド派手なピンクの髪。これについてはまぁ随分とハジケたママさんをお持ちなんだなぁと思った。問題はそこではない。
派手な髪に目がいって気がつかなかったが幼女の格好が問題なのである。ほぼ全裸と言っていい破廉恥ルックだった。最低限見えてはいけないところが隠れているだけでしっかり隠れているのは太腿から下と二の腕から手首だけ。少し指をかけるだけで胸も下も露出してしまうんじゃないかってくらい頼りない装いなのだ。
痴女だ。幼女のエロコスプレイヤーだ。
話しかけて助けてあげろって?事案だよ。

「…たす、けて」

なんか言ってる。痴幼女がなんかヘルプを求めてる。
ごめんなさい無理です。まだ捕まりたくないです。

「…おなか、すいた…」

食事に連れていけって?その後ホテルインだろ!知ってるぞ!それで大人は捕まるんだ!俺はまだ中学生だけど!それでもこんな幼女連れ込んだら捕まるんだ慰謝料請求されるんだ周りから白い目で見られロリコン変態ペド野郎と一生蔑まされるんだ!

「俺じゃなくて女の人とかに助けを求めてください!」

この現場を第三者に見られるだけでも人生が終わってしまう。
幼女に背を向けダッシュする。せめて次に通りかかるのがロリコンじゃない様に祈っとくねっ!

「…助けてって、言ってるだろがぁぁぁ!!!」

背後で叫び声がした。先ほどまで弱々しい声で助けを求めていた幼女と同じと思えないほどの雄々しい声だった。
声がだんだん近づいてきて振り向くと幼女が猛スピードで迫ってきていた。…めっちゃ元気やん!?

「とりゃあああ!!」

俺の腹目掛けて幼女がタックルをかます。
勢いに押されて俺は尻からすっ転んだ。とても痛い。頭から突っ込んだ幼女はそのまま俺の腹に吸い込まれるようにぐんぐんと入ってくる。頭、首、胴、尻、足、と幼女の全部が俺の中に収まった。…何で?


+++

なんとか帰宅して自室で腹をさすってみる。痛みも違和感も特に感じなかった。気になる事といえば空腹感にも似た渇きというか何かが物足りないないような虚無感を感じる事くらいか。なんと言っていいかわからない曖昧な感覚だけがあった。
あのコスプレ幼女は何だったのか。幻覚?白昼夢?女子と縁が無さすぎてついに幻覚を見たのか。にしても幼女って。俺はロリコンではない筈。

「はぁー!助かったー!死ぬとこだったわ」
「そうですか」
「そうなんだよ。お前は命の恩人だな!名前は?」
「墨斗」
「墨斗だな。私はインカ。よろしく頼むぞ」
「あぁ、よろしく……ってきゃああああッッ!!」

隣にコスプレ幼女が座っていた。
幻覚じゃなかった!ていうか何で部屋にいるんだよ!事案だ…幼女連れ込み…ダメなやつ…!

「空腹でな。餓死寸前だったのでな。お前に取り憑かせてもらった」
「取り憑くぅ?」

なにそれ穏やかじゃないんですけど。エロコスプレイヤー幼女の幽霊?キャラ濃すぎでは。

「私は淫魔でな、お前たちの言うところのサキュバスとかインキュバスとかいるだろ?あれの同類。ずっと飯にありつけなくて困っていたのだよ」

設定もしっかり作ってある…。衣装も凄いしガチ勢か…。

「お前が補給する事で私も補給できる。私が回復したらちゃんと解放してやるからそれまで世話になるぞ」
「ふぅん。俺はごはんいっぱい食べればいいの?」
「ごはん…というか精液だな」
「せ…っ?!」

幼女の放った予想外の台詞に思わず噎せる。
なんつー事言うんだこの子供。どこで覚えた?!

「淫魔のエネルギー源は精力でな。なので食糧は精液になる。お前が精液を摂取してくれれば私も栄養補給ができるワケだ」
「む、無理!っていうか何だそのエロゲーみたいな設定は!お前まだ子供だろ!そんなん止めなさい!」
「子供なのは見た目だけだ!ていうか設定じゃない!事実だ!」
「じゃあ何で俺が精…せ、精液を飲まきゃダメなんだよ…!お前が飲めばいいだろ!」
「それができんからお前に取り憑いたんだ!」

幼女、もといインカは両手を腰に当てない胸を反らせて踏ん反りかえった。
そこからは長くもなく短くもなく自称淫魔の事情説明が始まった。
食事…つまり精液を摂取するには実体化する必要がある。だがインカは空腹すぎるあまり実体化できるだけの力が残っていないらしい。しかしそれではいつまでたっても食事ができないので最後の力を振り絞り俺の前に現れて見せ取り憑いた、との事だ。

「お前の精子を搾り取っても良かったが一人分では足りんからな。お前と共有体になりお前経由で食事を取る事で安定してありつけるというワケだ」

だからなにその恐ろしい設定。というか俺のを飲むって…本当に捕まるから止めて。

「というワケでガンガン精液飲んでいこう!」
「いけるか!!」

俺もお年頃だしこっそりそういう本や動画を見るのでそれなりに知識はある。精液を飲ませるプレイがあるのも一応知ってる。だが俺にそういう趣味はないしまして自分が飲むなんて絶対に嫌だ。マジで!ほんとに無理です!

「うるせぇぞ墨斗。さっきからなに一人ではしゃいでんだボケ」

ノックなしに入ってきた無礼な兄にいつもならはしゃいでないわボケ!と返していたが、出来ずに固まった。
見られた。よりによってこいつに見られた。
自室で幼女と二人きり。しかも幼女らほぼ全裸なスケベコスプレ。何度も言うが事案。
俺の脳がフリーズしつつ走馬灯が駆け巡る。
小学校の卒業式。俺は泣いていなかったが隣に座っていた佐藤くんが男泣きを始めて釣られた泣いた。涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして泣いた。それを袖で拭ったらカピカピになって母親に怒られた。高かったのに、って。ええやん、兄のお古やん。
中学校の入学式。同じ小学校だった百合奈ちゃんがいなくてショックを受けた。お受験に合格して違う中学校に進学したらしい。一切知らなかったんですけど。
中学校に上がって二年現在。一年の時に入った部活は付いていけなくてすぐ辞めた。その分放課後は友人と遊ぶのが楽しかった。彼女がいないのが地味にコンプレックスだ。好きな子がいるわけではないが、黎巴は同じ年の頃に彼女を家に連れてきてた。母に、あんたも連れてきていいのよって言われて、反応に困った。黎巴がムカつく顔で笑っててイラっとした。
さよなら、俺の青春。女児誘拐軟禁で逮捕か…。つらい。

「…ん?一人?」

黎巴は一人といった。入り口で突っ立ってる黎巴の顔をじっと見る。俺に対して苛立ってる表情だが破廉恥幼女に対してはノーリアクションだ。
俺の隣にいるインカを見て、視線を黎巴に戻した。

「見えてない?」
「…はァ?」

眉間にシワを寄せ怪訝そうな目を向けられる。
実の弟に向けるカオじゃねぇぞ。

「…モテなさすぎてイマジナリー彼女でも作ったか?」
「失礼すぎるぞ!!」

別に非モテじゃないし!…告白された事はないけど。彼女もできた事ないけど。イケメンじゃないにしても不細工でもない筈…。親戚にめっちゃ可愛い可愛いと言われて育ってきたし。
俺を訝しげな目でじろりと見て、次騒いだらシバく、と物騒な台詞を残して黎巴は部屋を出た。
…ドア閉めてけよ!

「実体化できんと言ったろ?」

いつのまにかベッドに移動し寝大仏のポーズでドヤるインカ。人のベッドでえらそうだ。
ドアを閉めてベッド近くの床に座る。

「他の人間にはお前の姿は見えない、と?」
「そうだ。共有体であるお前以外には見えん」

…一先ず逮捕の心配はないか。
それなら安心…できるか!一番の問題が残ってる。

「…精液以外で栄養は取れないのか?」
「無理だな。普通の食事では満たされんし餓死する」
「…でも、俺は絶対嫌だし絶対飲まない。餓死したくなかったら他の人に取り憑いてくれ」

例えば黎巴とか。いい気味だしザマァミロだ。

「それも無理だ。他に移るだけの力はない」

きっぱりと言われる。
しかし嫌なものは嫌だ。他人の精液なんて絶対に飲みたくない。自分のも…絶対に嫌だ。
黎巴にインカは見えなかったし淫魔かどうかはともかく人間じゃない事は信じるしかない。
見た目も幼い女の子が飢えているのも可哀想だとは思う。けれども。

「…俺は絶対飲まないぞ」

それはインカにとっては餓死を宣告させる台詞なのに、言われた当人は余裕綽々で言葉を返した。

「そうは言ってられんと思うぞ?」

とても幼女とは思えない、貫禄のある笑みだった。
…スケベ衣装着た飢えかけ女児のくせに。



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