天気は快晴。時刻は午後2時を回った頃。
「本当にごめん!」
トーマは乾いた音を響かせて両手を合わせると頭を深く下げた。謝罪を受けた相手の方は「どうしても外せない用事ができて……」と続くトーマの言葉を聞き、ぼんやりとしている。
トーマが青年に頭を下げている理由は、一緒に散策に行こうと言う青年との約束を反故にしてしまったからだ。
青年がトーマと島の散策に行くのを楽しみにしていたのは事実だけれど、散策自体は青年一人でもできる。トーマの謝罪をぼんやりと聞きながら考えているのは、それなら今日は俺一人で行くか、という予定の変更である。
青年はしょんぼりと肩をすくめるトーマの背中を軽く叩き「また今度一緒に行こう」と声をかけた。
「今日は一人で行ってくる」
「え! 一人で行くのかい……?」
ぎょっと驚いてみせるトーマを見て青年は顰め面になる。
「ダメだ。オレがついてないと危ないよ。今日は木漏茶屋で読書なんかはどう?」
「…………」
トーマが真剣に心配しているが、青年は20歳の男である。立派な成人男性だ。それなのに子供のように扱われていい気はしない。
「外を出歩きたいのに篭って読書なんかしたくない」
「でも、強い魔物が出たら大変だろ?」
「魔物ぐらい自分で倒せる」
「そんなこと言って万が一のことがあったら困るだろ?」
「大体トーマが行けなくなったのが悪いだろ。わがまま言うな」
「!」
こうなると埒が明かない。青年はくるりとトーマに背中を向けてスタスタと歩き出す。
トーマはその背中を引き留めようとしたが、ゆっくりとこちらに向かっていた人影に「トーマさん」と声をかけられそうもいかなくなった。あーと唸って頭を搔く。
「シャルル!」
トーマは大きな声を出して青年を呼び止めた。
シャルルと呼ばれた青年が振り向いてみると、怒っているのか申し訳なく思っているのか、なんだか複雑な顔をしたトーマがいる。
「暗くなる前に帰ること! 17時までには帰ってきなよ!」
「……」
シャルルはポケットから懐中時計を取りだした。
短針は2、長針は1と2の間を指している。それの短針が5を超えるまでに帰ってこいと、トーマは言ったのだ。
どこまで子供扱いなんだと顔が歪み、自然と大きなため息をしてしまう。しかしこの場だけは素直さを見せた方がいいだろう。
シャルルはトーマにヒラヒラと手を振った。しっかり17時までに帰るかは別として、わかった、という意思表示だ。
そんなこんなでシャルルは神里屋敷を後にして、当初予定していた同行者はいないものの、目当てにしていた孤島にたどり着いた。鳴神島から大分距離のあるこの島。ボートの操縦方法は知らないので、ここまでひたすら海面を凍らせ歩いてきた。
トーマには、この前綺麗に晴れた日に孤島を見つけたから行ってみたい、とだけ伝えていた。彼は心配性なので、実際これ程遠い道のりを行くことを知られていたら今日のひとり散策は許されなかっただろう。
島を散策していると地中に埋もれた遺跡を見つけた。
シャルルは冒険が好きだ。疼く胸を落ち着けるように一旦深呼吸をし、その場にしゃがみこんで、陥没した遺跡の中をのぞき込む。
中はうそ暗く、寒気を感じる細い風の音が聞こえる。宝箱なんかがたくさんありそうな気配だ。
足場となりそうな瓦礫もあるし、場所を選んで降りていけば奥まで行けるだろう。
早速空洞に飛び込んだ。
やはり遺跡は脆くなっているのかパラパラと小石が転がった。
足場に気をつけながら先に進む。
遺跡の浪漫、仕掛けを解きながら進んでいたが、ところどころ人の痕跡があった。既に誰かが解いたものがあるのだ。
その先客がまだいるのかはわからないが、これだけ広い遺跡、きっと先客の見落としもあるだろうと、シャルルは構わず進んでいく。
また仕掛け部屋だ。ここは解かれていない。
さて挑戦するかと歩き出すと同時に背後から耳を劈く咆哮が聞こえた。
「!」
明らかに人の声とは思えないそれは、大型の獣、あるいは魔物の類いだろう。
シャルルがここに来るまでに通らなかった道がひとつある。その道の先が声の出処と考えて間違いなさそうだ。
先客が魔物を起こしたのか、それとも魔物が一人で勝手に起きたのか。どちらかは知る由もないが咆哮を上げた魔物を放ってはおけない。
シャルルは急いで来た道を引き返す。
分かれ道を右に進む。魔物の吼える声とは別に打撃音が聞こえてくる。どうやら『先客』がやり合っているらしい。
開けた場所に出た。
シャルルの目に飛び込んできたのはどす黒い狼のような巨体の獣と、それに向けて矢を放つ男の姿だった。
不意に男がよろめいた。
吼える魔獣が男に向かって鋭い爪を振りかぶったのを見てシャルルは勢いよく地面を蹴った。
魔獣の腕を切り落とす。
血飛沫。
咆哮する魔獣が反対の腕をシャルルめがけて振り下ろしたが、それより先にシャルルは獣の太い首目がけて迷いなく大剣を振り上げた。
血飛沫を避ける。
『先客』は無事だろうか。
「あんた、大丈夫――」
男の安否を確認しようと魔獣から目を離す。
振り向きざまにヒュッと空を切る音がした。
「あーあ……」
愉快そうに口角を上げる男をシャルルは呆然と見つめた。遠くから見た時、血まみれになって押されていると思ったが、よくよく見ると彼を染めているのはほとんどが返り血で、それなりの擦過傷はあれど、重傷はないようだ。
ひらひらと男は手を振る。深い青色の瞳がシャルルを射抜く。
「やっと親玉が出てきたと思ったのに、横取りなんてずるいんじゃない?」
「……」
先程から言葉が出なかったが、改めて絶句した。
親指で右目の下を拭う。赤い血がべとりと付着している。シャルルは放心気味でいた。
シャルルは男を助けたつもりだったが、男にとってはとっておきの楽しみを邪魔されたにすぎなかったのだ。「……え。いや……」ほぼ思考停止しているがなんとか声をひねりだす。
「邪魔してごめん……」
シャルルの謝罪に男は何も返さない。
シャルルはもう一度魔獣を見た。先程シャルルの頬を切った矢は魔獣の額に刺さっている。それを一瞥して、シャルルは男を振り返り、
「!」
「あはっ」
勢いよく振りかぶられた剣を寸前で躱した。
シャルルが大剣を薙ぐと男は軽い身のこなしでそれを避けた。
二人の間に距離ができる。
「なに、あんた……」
「君、強いよね?」
「……」
「あの魔獣、俺が相手してたからまあそれなりに弱ってたけど、一振であんなに太い首を、それも迷いなく切り落としちゃうなんてさ。……ねえ、邪魔したんだから君が俺の相手をしてよ」
男の目がぎらりと光る。それだけで応戦する以外の選択肢がないのを悟った。
シャルルは大剣の柄を握り直した。
「いいね。雰囲気が変わった。……楽しめそうだ」
問答無用で追撃がくる。
振りかぶられた剣から普通のものとは違う空気を感じていたが、彼の手元に水が集まり槍が形作られるのを見て、水元素か、とシャルルは理解する。
この展開を理解したわけではないがやめろと言っても相手は聞く耳を持たないだろうし――なによりこの状況、そんな平穏な思考を巡らせている余裕などない。
迷いなく心臓を狙う槍を大剣で弾き飛ばす。「うっわ、見た目の割に馬鹿力!」なんて嬉しそうに声を震わす男の首めがけて大剣を薙ぐ。
当然のように男はそれを避けた。
「君、やっぱり容赦ないね」
「は? ……」
お前が言うかとシャルルは眉間に皺を寄せた。
この状況、どう考えても話し合いでは解決しない。特に男は自分を殺すまで満足しないだろう。
この男はシャルルを殺す気できているのだから、シャルルも男に殺意を向けているだけだ。
戦闘は拮抗した。
シャルルは何度か男に傷を与えたし、男もまたシャルルに何度も食らわせた。
どちらも致命傷がとれていない。
けれどシャルルの方が多く傷を作っていた。
「君って頑丈だね。まだ立っていられるんだ」
「あんたも十分しぶといよ」
「あは」
シャルルはピクリと指先を震わせた。
楽しそうに笑った男の雰囲気が変わった、と思った時にはもう遅い。目の端に紫電が走った。
思いっきり吹っ飛ばされて受身を取る暇もなく壁にぶつかった。一瞬呼吸が止まる。
ポケットから何かが落ちた。
「――! やば、――っ゛」
鈍い衝撃。
ジリジリとした痛みが体を痙攣させる。
じわじわと赤色が滲む。
「あれ、避けられなかったんだ?」
水の剣はシャルルの脇腹を貫いていた。
「……いっ……て〜……、この、クソ野郎……」
「はは、やっと痛そうにしたね」
「……うっ、……ざ……」
シャルルが自分の腹を貫く剣を握る。
すうとこの場の空気が冷たくなった。
「!」
パキパキと音を立て剣が凍りつく。
この青年、自分の前で一切元素を使ってこなかったので神の目を持っていないのかと男――タルタリヤは思っていたがそうではなかったらしい。氷元素。水元素の自分では分が悪いが、逆手に取ることもできる。
いままで元素を使わずに応戦していた理由は知らないが、つまりは本気じゃなかったのだ。彼の力はまだ隠されている。ああ! 楽しい、楽しい、楽しい!
タルタリヤは興奮を隠せなかったが、とにかく今は、柄を握る手まで氷漬けにされてしまっては困ると、咄嗟に剣から手を離す。
「――ぐ、っ!」
その一瞬の隙を突いて、シャルルが思い切りタルタリヤの腹を蹴り上げた。
タルタリヤの体が勢いよく吹っ飛び瓦礫にぶつかる。鈍い音と土埃がたった。
それなりの不意打ちだったのか反撃の気配がない。シャルルも随分と疲労しているがタルタリヤの方もそうなのだろう。
重々しく体を起こしたシャルルはもう一度、やばい、と呟いて、脇腹に刺さった剣をそのまま、ふらふらと歩き出す。
もたつく足は落としたそれを避けられず、バキと音が鳴った。
「トーマに、怒られる……」
脇腹を貫かれる前、シャルルを動揺させたそれ。
シャルルはそれをトーマと別れたあとに一度見ているので、この遺跡に来てから――戦闘の衝撃で壊れたに違いない。つまりそれまではしっかり動いていたのだ。
表面がひび割れ、秒針の止まった懐中時計は、短針が11を指していた。
行きと同じように海面を凍らせ、鳴神島まで戻ってきた。浜の岩に目印をつけていたので遠目に見える鳴神島の方角さえ分かれば迷うことはなかった。
刺さった剣がただの剣であれば引き抜いて適当に傷口を塞いだものの、水元素で作られた剣を凍らせてしまったので、皮膚だのの自分の体と癒着してしまった。ただ引き抜くだけでは終わらない。
溶けるのを待つのもいいがここはトーマに頼ろう。と、思考して、それじゃあこの様をトーマに見せることになるではないかと血の気が引いた。トーマを頼るのはなしだ。氷は適当に溶かそう。
怒られる、怒られる……。
シャルルの頭の中ではトーマへの恐怖がぐるぐると渦巻いている。
17時までに帰ってこいと言われた。それが18時くらいになるのはまだ許されただろうが、いまや23時。しかもあたりは真っ暗。
14時に出発したから9時間も経っている。遺跡に着いた時間は分からないが、それでも、あの気の狂った男と気が狂った時間争っていたことになる。闘争中は放出されまくったアドレナリンで誤魔化されていたが、体が異様に重いし傷が強く痛む。
"暗くなる前に帰る"
"17時までに帰る"
その両方を破ったのだ。
さすがのトーマの急用もこんな時間まで続かないだろう。絶対家にきて待っている。玄関前で腕を組み仁王立ちするトーマの姿など想像にかたくない。
怒られる、怒られる――。
あいつと出会わなければこんなことにならなかったのに!
シャルルは泣きそうだった。タルタリヤに殺意を向けられた時なんかは全く怖くなかったのに、トーマの笑ってない笑みを想像すると心臓が寒くなった。
ふと顔を上げると浜辺に人がいるのが見えた。
「シャルル!!」
「! ……」
トーマ。
浜辺で自分の名前を呼ぶのが誰なのかわかると、急に気が遠くなって、海面が割れた。
シャルル、と今度は悲鳴のように名前を呼ばれたような気がする。
水に体を打たれた感覚と水の割ける音が遠くに感じられた。
☆
ぱたぱた、ぱたぱた――。
不規則に軽い物音がする。なんだか馴染みのある音だ。シャルルはゆっくりと意識を浮上させた。瞬きをする。見ているものが家の天井だと気がつく。
「う、……」
体が異様に重たい。
首だけ捻って部屋の中の様子を見た。
ぱたぱたという音の発生源を見つけた。トーマがハタキで棚の掃除をしている。
トーマか……。だから音を聞いた時馴染みがあると思ったんだ。
「トーマ……」
小さくつぶやく。
どうやら聞こえたのか、トーマが少し不思議そうに振り返り、それから瞼を上げているシャルルを見つけ、目を丸くした。
「シャルル! 起きたのか?」
トーマは慌ただしく駆け寄ってきた。
「あ! ちょっと」
「い゛……だぁ〜……」
普段通り起き上がろうとしたのをトーマに制止されたが一足遅い。体を起こした途端に腹部から激痛がして、シャルルは起き上がったばかりの布団に沈んだ。
「ああ……」
そういえば、孤島の遺跡を探検していた時に魔獣を見つけ、その魔獣と先にやり合っていた男に殺されかけたんだった。激痛の原因は素直に思い出した。それを思い出すと、不安げに自分を見下ろすトーマに対して、冷や汗が吹き出した。
「目が覚めてよかった……」
「トーマ……」
「なに? 無理しちゃだめだよ」
「ご、ごめん……」
「……」
シャルルの謝罪を聞いてトーマの表情が曇る。「それは」と重々しく口を開いた。
「何に対する謝罪かな?」
「……、約束を守らなかったこと、……です」
思わず敬語である。
シャルルとしてはこのこと以外の謝罪は思いつかないのだが、シャルルの返答が気に食わなかったようでトーマはますます顔を顰めた。
「あのさ」
たったの三文字だったが思いのほかドスの効いたトーマの声にシャルルは身を震わせる。
「何をしてたらそんなボロボロになって帰ってくるのかな?」
「え、……さ、散策……」
「ボートが操縦できないからって元素で海面を凍らせて遠い孤島まで行くなんて無鉄砲すぎるよね?」
「……」
「何してたかは今から詳しく聞くけど、あんなに遅くなっても戻ってこないから、もう人がほとんど寝静まってる中シャルルを見かけてないかっていろんな人に聞き回って、ここにもいないここにもいないって駆け回ってたとき、シャルルが海の方からお腹を押さえて足を引きずって血を垂らしてながら歩いてくるのを見つけた時のオレの気持ちがわかる?」
「……、……」
「だからシャルルはオレがついてないと危ないって言ったよね」
怒涛だ。感心してる場合ではないが、よく噛まずに言えるなと感心してしまう。
トーマに対してシャルルが何も言えずにいると、徐にトーマの方が大きなため息をついた。
「本当に心配したんだ……」
「……ん、ごめん」
「これからはオレの目の届く範囲にいること」
「えっ」
聞こえた言葉にシャルルが思わず不満を含んだ声を漏らせば「反省してるんだよね?」と圧をかけられ黙ってしまう。
それって、自由に行動が出来なくないか? 非常に困る。自分の行動範囲がトーマの目の届くところだけになるなんて……!
けれどトーマはシャルルの反論を聞きそうにない。少なくとも今は、話し合いで解決できないだろう。……おや、こんな状況、つい最近もあったような。
「で、何があったのかな」
トーマにニコリと笑われて、シャルルは複雑な気持ちのまま件の出来事について説明を始めた。
☆
タルタリヤは貴重な休暇中、稲妻で人探しをしていた。
細身で、髪の色は光に透けるアッシュグレージュ、瞳はターコイズブルー、背丈は自分より少し低く、耳にピアスをあけている。
これだけ特徴があればこの人探しは簡単にクリアできそうだったし、実際この尋ね人の名前はすぐにわかった。最初に尋ねた老婆は「ああ、シャルルちゃんのことね」と親しみを込めて言った。シャルル『ちゃん』だなんて。タルタリヤがどう思い返してもあの男はちゃん付けするような性格ではなさそうだったが。
稲妻にシャルルがいるのは間違いなかったが、なぜか本人が見つからない。島民の話ではシャルルは冒険が好きらしく、わりと島の中をフラフラしているため確実にここにいるとは言えないんだとか。それでもよく彼を目撃するというところはあるわけで、そこを何ヶ所か訪れてみた、が、いないのだ。
タルタリヤは彼が稲妻を離れた可能性も考えたが、それについては島民が否定した。
「トーマがいるのに出ていくわけがないよ」
タルタリヤは深く聞かなかったので詳しい事情は知らないが、そのトーマとやらに話を聞くのが早いとわかった。けれどもその存在があるから稲妻を離れない、という相手は、シャルルの重傷の容態を知っているに違いない。トーマとシャルルがどういう関係かは知らないが、尋ねたところで簡単にシャルルのことを話してなんかもらえないだろう。
つまりどうにかシャルル本人を見つけるしかないのだ。
タルタリヤが貴重な休暇を利用して稲妻に来た本来の目的は、旅人が何気なしにタルタリヤに語った、稲妻の孤島に封印された魔獣の噂がきっかけだった。
遠い昔、ある孤島に人の肉を裂き食い荒らす凶悪な獣が存在していて、排除のために何百もの戦士が送られたが誰一人として帰ってこなかった、とか。そんな魔獣は苦肉の策で建物に封じられた、とか。
なるほどそんなに強いならどれ一つ探しに行ってみよう。タルタリヤを行動させたのは闘争への期待だ。
そしてタルタリヤは噂頼りに稲妻の孤島にたどり着き、地中に埋もれた遺跡を見つけ、なんと噂の通り本当に封印されていたお目当ての魔獣を叩き起し、生死をかけた戦いを楽しんでいた――のだが。
邪魔が入ったのだ。
そいつはいきなりタルタリヤと魔獣の間に入り込んできて、体つきに似合わぬ大剣であっという間に魔獣を絶命させた。
タルタリヤは瞬時に怒り、興ざめし、そして目の前の男に興味を抱いた。自分と魔獣との間に臆せず割り込んできたこの男。ああそうだ、魔獣は横取りされてしまったから、この男を殺せばいい――。
結論を言うとタルタリヤは男を殺せなかった。情が湧いて殺せなかった、とかいう話ではなく仕留め損なったのだ。不意をついて綺麗に鳩尾に重い蹴りが入り、壁まで吹っ飛び背中を強打、自分が把握する以上に長時間やり合っていて体の方は疲労困憊、タルタリヤは不覚にもそこで意識を失った。
脇腹を貫かれておいて人をぶっ飛ばすほどの重い蹴りをできる、生身の人間がいるなんて驚きだ。言ってしまうと油断である。タルタリヤは男を侮っていた。
再び目を覚ましたとき、タルタリヤは一人だった。あるところから点々と残る血痕は乾き切り、浜辺まで続き、そこから先はなくなってしまった。
海を渡ったのか。
血痕が消えた方角は鳴神島だった。
そんなわけでタルタリヤはボートに乗って鳴神島に向かい、尋ね人を探しているというわけだ。そしてその尋ね人の情報ばかりが得られ、肝心の本人が見つからない。それが現状である。
あの時は彼もまだ本気じゃなかっただろう。
次は初めから元素を使わせてやりたい。
タルタリヤはシャルルを見つけ出しもう一度戦う気であった。そうしないとこの不完全燃焼感を拭えない。
☆
かくかくしかじか……。孤島での出来事をトーマに説明する間、特に『先客の男』の話に触れたところでトーマは厳しい表情を見せた。「オレがついていれば……」とトーマはシャルルの腹の傷跡を痛々しそうに見るけれど、シャルルとしてはこればかりは自分一人で良かったように思う。
魔獣はトーマと連携すればスムーズに事が運ぶが、あの男は、魔獣なんかよりよっぽど危険な存在だった。誰かを庇いながらなんてことを考えていれば一瞬で足元を掬われるような。タイマンだったからシャルルも周りを気にせずにめちゃくちゃに戦えたものの、周りに誰かがいたら加減が難しかっただろうし、確実に巻き込んだ。それに多分、あの男相手だとトーマでも無事ではいられなかっただろう。トーマが自分についてきて、自分のように怪我をしなくてよかった。
「その遺跡、今度改めて調査した方がいいかもな……とにかく今日はゆっくり休むこと。オレも一緒にいるから」
「? トーマ、暇なんだ?」
「シャルルのために今日は予定をあけたんだよ」
「……」
ほんの少し呆れたように言われた。
トーマはわざわざ怪我をした自分の看病のために休暇を取ったのか。なんだかむず痒い。
☆
昔から体が丈夫だねと言われてきた。「相変わらず傷が塞がるのがはやいな」と感心するトーマに包帯を巻き直してもらった。
「もう動ける?」
「うん」
トーマに怒られた翌日だ。まだ休んでてもいいよと言われたが、部屋の中でじっとしているのは嫌いだ。今日はトーマに予定があるらしく、目の届く範囲にいろといわれた身としてはそれについて行く以外の選択肢がない。
「トーマについていく」
「……。わかった」
トーマに手を握られながら外に出た。多分これ、フラフラとトーマから離れどこかに行ってしまわないようにと捕獲されている。まるで飼い犬の散歩だなとシャルルは遠い目をした。
トーマは社奉行の役人と話があるらしく屋敷の中に入っていった。こればっかりは部外者のシャルルがついていき話を聞くなんてことはできないので外の木陰でトーマを待っている。最初は屋敷の玄関前で待てと言われたが、そんなところで突っ立っていてもなにもできないし人通りもあって怪訝な目線が気になってしまう。
それはあんまりだと訴えて、なんとか海の近い木陰で待機することを許された。ちなみに「絶対に動くなよ」とドスの効いた声で釘をさしてきたトーマの目はマジであった。
シャルルはその場に座り、木に凭れ息をついた。少し離れたところに猫がいる。トーマがたまに餌をやっているやつだ。残念なことにシャルルは手持ちがない。
ああ、冒険がしたいな――。
「やっと見つけた」
唐突に降りかかった声には聞き覚えがあった。
虚ろめいた瞳をそちらに向けるとやはり見覚えのある姿。
深淵の青を持つ男がニコニコと笑っている。なにがおもしろいのか。自分はちっとも面白くない。
「はぁ〜…………」
「あれ、警戒しないの?」
シャルルはタルタリヤを警戒していないわけではないし、タルタリヤを見た時それなりに身構えた。あの孤島から鳴神島までやってきて、第一声が聞き間違えでなければ自分を探していたなんて、どれだけ執念深いやつなんだ。
「少なくとも今すぐ殺そうって気じゃなさそうだから」
「へえ、わかるもんだね」
タルタリヤからはこの前のような殺気を今は感じない。それを素直に伝えるとタルタリヤは感心したように呟いた。ばかにしてるのかこいつ、とやや癇に障ったが我慢する。ここは人の暮らしが近い。こんなところで剣を抜いたらややこしいことになる。
「あんたのせいで俺の自由は潰えた……」
「なにそれ」
タルタリヤは不思議そうに首を傾げた。そりゃ自分のことを知らないタルタリヤにこんなことだけ呟いてもなにも伝わらないだろう。しかしシャルルがトーマを怒らせてしまった要因はこいつにもあるのだ。事情を知らなかろうと一言恨み言を言ってやりたかった。
「あの日あんたに絡まれてボコられたせいでトーマに怒られて行動制限かけられてんの」
「ふうん? じゃあその『トーマ』とやらを殺してしまえば君は俺とやりあってくれるのかな」
もちろんタルタリヤにその気は無い。ただ、島民からシャルルについて尋ねている間にトーマという名前は何度も聞いていたもの。まるでシャルルとセットのようだった。その名前が本人からも出たのだ。これは仕掛けるに越したことはない。
いわゆる挑発だ。
「……。は?」
タルタリヤの発言を聞いてシャルルの目の色が変わった。あたりだ。タルタリヤは思わず身震いする。
「いいね、やる気になってくれて嬉しい――」
避ける暇がなかったが衝撃はなるべく逃した。大剣で薙がれ、体は後方へと吹き飛ぶ。タルタリヤはすぐに双剣を作り出した。瞬間的に間を詰めてきたシャルルには躊躇いも容赦もなかった。
「こんな所で剣を抜いちゃっていいのかい?」
「すぐにあんたを殺すから問題ない」
「あは、熱烈だなぁ! 少し名前を出したぐらいでここまでやる気になってくれるなんて、本当に殺してしまったら君はどれだけ俺を楽しませてくれるんだろう!」
今回は挑発しているつもりはない。タルタリヤは純粋に目の前の殺意を楽しんでいる。荒々しく振りかぶられる大剣を避け、避け、パシャンと水音。
「俺は一昨日君に深手を負わせたつもりだけど、よくそんなに動き回れるもんだ! 面白い!」
漣を踏んだのを合図にタルタリヤも反撃に出た。双剣を振るい、シャルルに負けない力で彼の握る大剣を弾き飛ばす。無防備だ。さあさらに間合いを詰めようとしたとき、タルタリヤ違和感に気がついた。
「!」
相手は氷元素。
タルタリヤの両足は止まった漣と一緒に氷漬けされ固まっている。これは少しだけまずい。けれど大剣ははじき飛ばしたのだ。今のシャルルには武器がない――はずであった。
「シャルル!」
パキンと氷が砕けた。タルタリヤはバランスを崩しその場に尻もちを着く。勢いをそのまま、シャルルはタルタリヤに馬乗りになって止まった。
タルタリヤの喉仏に冷たい、鋭利な感覚が触れている。先端の鋭利にとがった氷であった。なるほど自分のように元素で武器をつくりあげたのか。タルタリヤは冷静に解析していた。
「シャルル、なにをしてるのかな」
若い男の声だ。
「……」
サクサクと砂を踏んで気配が近づく。
タルタリヤはシャルルの目を見つめていたが、シャルルの方はタルタリヤの目ではなく、タルタリヤの喉仏を見つめている。まさに今、裂こうとしていた人間の急所を、青ざめた顔で見つめている。いや、シャルルの意識はタルタリヤの喉仏になんかないのだろう。
シャルルの代わりにタルタリヤは足音の方を向いた。
柔らかい金髪。明るい緑色の双眸。赤が基調となった服を身にまとっていて、額当てをつけた男がいる。
「シャルル、あそこから動くなって言ったよね?」
「こ、こいつに喧嘩を売られたから……」
「あはは、先に手を出してきたのは君だろう?」
「は? 余計なことを」
タルタリヤの喉仏を唖然と見つめていたシャルルであったが、調子づいたタルタリヤのセリフに反応してタルタリヤを睨みつけた。が、その威勢も「シャルル」と鋭く名前を呼ばれ萎れる。
「知らない男に馬乗りになってるなんて感心しないな」
「トーマ」
慌てたようにシャルルはトーマを見た。しゅんと眉が下がっていて、脅えているようだ。
「今まさに俺は襲われそうなところだよ」
「あ?」
「シャルル」
シャルルは情緒が忙しい。タルタリヤに敵意を見せたかと思えばトーマに縮こまってみせる。「とにかく降りなさい」とトーマに厳しい口調で言われ、シャルルは大人しく従った。タルタリヤから離れ、しょんぼりとその場に立ちすくむ。
タルタリヤも体を起こした。服も髪も、すっかり海水で濡れてしまった。
「で、どうしてこんなことになってるのかな」
トーマは腕を組み、シャルルとタルタリヤを見る。
どうやらトーマは、タルタリヤがシャルルに深手を負わせた相手だとは気づいていないらしい。シャルルはトーマに男の特徴を大して伝えていないのだろう。
どうして――。トーマの問いにしばらく沈黙が続き、タルタリヤがどこから話そうかと悩みながらもひとまず口を開こうとした時だ。
「だってこいつがっ、……」
「ん?」
口を開いたのはシャルルが先だった。
シャルルはトーマを見つめながら、わなわなと震える手でタルタリヤを指さしている。
「こいつが、トーマを殺すって言ったから!」
トーマはぽかんと目を丸くした。
タルタリヤの方は、そういえばそんなことを言ったなあと思い出した。
トーマの怪訝な眼差しがタルタリヤに向く。「いやぁ、ちょっとした挑発でさ」とタルタリヤがカラカラ笑う。
「トーマが死んだら、俺、おれ、……」
「……」
「生きて、いけない……」
ついにはボロボロと泣き出した。
タルタリヤはギョッとしたし、トーマもこれには驚いていた。
トーマの死を想像したのか、シャルルは喉を引きつらせながら未だに泣いている。先程までの殺気はどこに行ってしまったのか。まるで幼子のようだ。
「お、落ち着いて。シャルル、オレは生きてるよ」
「うう、……」
トーマに背中を撫でられ、しゃくり上げたシャルルは、唐突に鋭い眼差しでタルタリヤを睨みつけた。
涙を浮かせて、口を歪ませているその表情は明らかに弱者なのに、瞳だけは明確に強者であった。
タルタリヤは背中にぞわぞわと興奮が走るのを感じる。戦いたいという衝動が体をつき動かそうとしている。
ただ、ここは一般人もいる街中だ。先程までの物音を疑問に思ったのであろう人々が、ちらほらと集まり始めていた。
「……殺さないよ」
タルタリヤは両手を上げて敵意がないことを示す。
今は。と。それは余計なので言わなかったが。
☆
シャルルの生まれはフォンテーヌだ。母親はお淑やかなフォンテーヌ人で、父親は自由なモンド人。シャルルの好奇心は父親譲りと言っていい。
幼い頃から冒険が好きだった。初めはフォンテーヌ地区を1人で歩き回ることから始まり、ブロー地区、ベリル地区――あることをきっかけに神の目を手にして、少年ながらに親に一人旅を認められてからは外国に向かうようにもなった。初めにめざしたのは父親の故郷、モンドだった。
基本は徒歩。たまに行商人の船や荷車なんかに乗せてもらうこともある。
時間をかけてたどり着いたモンドは風の心地よい国だった。
とはいえ冒険への好奇心だけで行動してしまっているので、シャルルは宿を借りるお金もなければ父方の親族を探すにも手がかりはない。でもそれでよかった。特に後者は、せっかく冒険に来たのだからなんのヒントもなしに父親のルーツというものを辿ってみたかった。
モンド城内で見つけた風車の下にしゃがみこみ、しばらくはここで過ごそうと決める。西風騎士団に目をつけられたらモンド城の外で過ごせば良いだろう。
「……」
「……」
と、思っていたのだが。
地図を開き今日の予定を考えているのを一人の少年にじっと見られている。シャルルが思うに自分と大して年齢は変わらなそうな、男の子だ。
そのうち興味を失っていなくなるだろうと放っておいたが少年は一向にいなくならない。シャルルはしぶしぶと地図から目を離し、少年を向いた。
「なに……?」
「!」
シャルルから声をかけると少年は肩を揺らして驚いた。柔らかい金髪、明るい緑の瞳。背丈は自分と変わらないくらいの少年。
「た、宝探しをするの?」
「え?」
「オレも、一緒にいいかな?」
精一杯勇気を振り絞った声音。
シャルルはぽかんと少年を見た。それがシャルルとトーマの出会いだった。
☆
それからモンドではずっと一緒に過ごしてたんだけど、シャルルは冒険が好きだからって今度はスメールに向かっちゃったんだよね。もちろんオレは気落ちしたさ。シャルルがいなくなっちゃったんだから。いつかまた会おうって約束してたけど、まさかシャルルが、オレの親父が稲妻出身だって話したのを覚えてくれていて、またモンドを訪ねたときに俺がいないからって、本当に稲妻まで俺を探しにきてくれたときには――。
云々。トーマの語りをタルタリヤは湯のみ片手に頬杖をつきながら聞いていた。
一体何故こんなことになってしまったのかと言うと、服がずぶ濡れのタルタリヤを見かねたトーマが、シャルルの家に寄るといいと提案したせいである。
もちろんその提案にシャルルは絶句した。元はと言えばすべてタルタリヤが悪いのに、なぜ世話をしてやらなければならないのかと。
けれどトーマは今回の件は九分九厘タルタリヤが悪いということは知らない。トーマが目撃したのは、シャルルが獣のような瞳で一人の男の喉仏を掻っ切ろうとしていた現場だったし、男は足元を凍らされていたし、シャルルには多少血気盛んな面があることも知っている。
加えて、シャルルはトーマとの約束を破ったばかりだ。トーマが説教をするとシャルルはいつも縮こまる。――このトーマの印象をシャルルが聞くと卒倒するだろうが――叱られたくなくてなんとか罪をタルタリヤに擦り付けようとしているようにも思えた。
シャルルは始終「こいつが! こいつが!」と訴えていたが、指をさされ胡散臭い笑みをする男の様子も含め、五分五分のおあいこ様だと判断した。
あの場は人だかりができ始めていたので、場所を変えて話し合おうと思ったわけだ。
今は浜辺から場所を変えてシャルルの家だ。
タルタリヤはシャルルの家でシャワーを借りてややサイズの小さい部屋着を借りたし、トーマはシャルルの家でお茶を入れ完全にくつろぎモードだし、シャルルはとりあえず家にあった三色団子を提供した。
そんな謎の空間が改めて出来上がったとき、最初に口を開いたのはタルタリヤだった。
「君たちってどういう仲なの?」――タルタリヤとしてはなんてない質問だった。まるで2人セットのように語られていたので、どういう関係なのかと少しばかり聞いてみただけだ。トーマの話をまとめるとこの二人の関係は幼馴染みみたいなものだろう。初めからその一言を言ってくれればそれでいいのに、まさかこんなことになるなんて。
「この人って君に関していつもこんな調子なの?」
「思い出語りに花が咲いただけだと思う」
タルタリヤの質問にシャルルは冷静だった。先程、トーマが死んだら生きていけないと涙し、こいつがこいつが! と喚いていた本人とは思えない。
「シャルルはなんだかんだ言ってオレに懐いてるんだろうなと思っていたけれど、まさかオレのことが泣くほど好きだったなんて……」
「…………」
話を掘り返されてシャルルは苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
「好きとは言ってない」
「いや、でも、オレがいないと生きていけないってそういうことだよね?」
「……」
「前々から思ってたけど、シャルル、君ってツンデレだよね」
「……」
シャルルは何も返さなかった。
ニコニコと嬉しそうなトーマに噛み付いたところではいはいツンデレなんだからといなされる未来しか想像できなかったからだ。
「まあオレとシャルルはひとまずそんな感じなんだけど……」
トーマの視線がタルタリヤに向いた。
「オレからも質問だ。君とシャルルはどういう関係なのかな」
どういう関係なのか。その質問にタルタリヤは困った。聞かれることを想定していなかったわけではないが、自分と当の男に、名付けられるような関係性は正直ない。「そうだなぁ……」悩みの晴れないまま呟く。
「遺跡にいた野蛮人だよ。トーマ」
「ちょっ」
シャルルは素直だった。
タルタリヤとしてはその一件を語るとトーマがいい気分じゃなくなるだろうと察していたので、今は伏せていたかったのだけれど。
シャルルを咎めたって今更遅い。しっかりとシャルルの発言を聞き取ったトーマが「へえ、遺跡の……」とトーンダウンする。
「シャルルの腹に穴をあけたのは君ってわけだ」
ほらやっぱりこうなった。
隠す気のない敵意がチクチクと刺さる。
タルタリヤはため息をついた。こうなっては取り繕っていても仕方ない。
「俺は強者との戦いが好きでね。突然現れたこの男が只者じゃあなかったから、手合わせをお願いしただけだよ」
「はあ? 明らかに殺す気だったよな」
シャルルは非難めいた視線をタルタリヤに向けた。
「ていうかあんた、誰なの?」
「俺は『公子』のタルタリヤ。ファデュイの執行官さ」
それを聞いたトーマが固まった。
この肩書きを聞いたらだいたい皆そういう反応をする。だからシャルルもそうだろう。
「ふーん。執行官サマが仕事サボってなにしてんの?」
「……え?」
シャルルは相変わらず非難の眼差しをタルタリヤに向けている。
思わずタルタリヤの方が聞き返してしまった。
「えっと……?」
「いやだから、ファデュイの執行官なんだろ。こんなところで油を売ってていいのかって聞いてるんだけど」
シャルルは呆れ半分真面目にタルタリヤに聞いている。そこに動揺や恐れはない。
「もしかしてファデュイを知らない……?」
「はあ? どこの国に行っても名前を聞く組織なのにしらないわけないだろ」
フォンテーヌでも聞いたしモンドでも聞いたし、スメールでも、璃月でも……。まるでスイートフラワーのごとくどこにでもあるのに知らないわけがない。
呆気にとられていたタルタリヤだが――ふっと唐突に吹き出した。
「あははっ、君、面白いね! 俺の肩書きを聞いて少しも驚かないなんて!」
「くそ。驚くのが正解だったのか……。はぁ。服が乾いたら帰ってくれる?」
「ああそうだ、ぜひ手合わせの続きをしようか、シャルル」
「えっ……急に呼び捨てしないでくれない? ……トーマ」
収集がつかなくなってしまう。
シャルルは固まっているトーマの袖を引っ張った。
「ごめん、……ちょっとついていけてない……」
シャルルの頼りのトーマだったが今にも目眩を起こしそうな表情だった。