俺の協力者になってくれるか?
彼女との仲が中々進展せず擬かしく感じていた矢先に、弟が配属になると知り直ぐに資料を用意させた。首席で卒業し、射撃の腕も上位で運動神経も良い。顔も整っているが、彼女とはあまり似てないようだ。並んでいるのを目の当たりにして改めて思うが、間違いなく恋人に見えるだろうな。自分で勝手に考えたのに腹が立ってくる。血の繋がった弟に嫉妬するなんて、俺は何て器の小さい男なんだ。
戻って来た二人を見ると、収まっていた感情が再び湧いてきた。成る可く彼女の顔を見ないようにし、戻ったばかりの蒼井和希を連れ出す。
「降谷零だ。改めて宜しく」
「よ、宜しくお願いします!」
「佐田から聞いてるかもしれないが、俺や君のお姉さんは外に出てる事が多い。何か分からない事があれば、佐田や風見に聞くといい」
「はい!…あの、それで…」
配属初日に呼ばれ連れて来られた理由が分からず、恐る恐る問う蒼井に申し訳なさが募る。目の前に居る蒼井は、不安な表情で俺を見ていた。
「悪いな。連れ出して」
「…い、いえ」
「単刀直入に聞くが…」
「はい!」
「お姉さんは相当鈍感だよな?」
「へ?鈍感?」
「恋愛に疎いのは昔からか?」
「あ…恋愛。って、え"!?」
「で?どうなんだ?」
「昔からです」
「そうか」
「……あの。もしかして、降谷さんて姉の事が好きなんでしょうか」
「好きだよ」
目の前に居るのは、彼女の弟。つまり男だ。好意を伝えたのは彼女に対してだが、何故か見る見るうちに蒼井の顔が赤くなっていく。
「直球過ぎて…」
「同じ反応だったら良いのにな」
「え、」
「驚いただけだった」
「言ったんですか?!」
「少し前に」
今は組織の事もある。だから返事は不要だと伝えたのだが、彼処まで普段と何も変わらない様子を見ると正直堪える。少しは動揺してくれても良いのではないだろうか。
「相当効いてると思いますよ」
「アレで?」
「はい」
普段通り過ぎる彼女の態度を見ていると、効いているという言葉はとても信じられない。あの様子で動揺しているのなら彼女は相当なポーカーフェイスのようだ。
「普段通りに見えてても実は違うんです。姉は、昔から何かあると珈琲を飲む回数が多くなるんです」
「…そうなのか」
「香りが落ち着くと前に言ってました」
「へえ、」
思い返してみると、蒼井の言う通りかもしれない。ポアロでも珈琲を二杯飲む時がある。それは決まって"何か"が起きた時だ。
「だからカフェで働いてたのか」
「…もしかして、通ってました?」
「ああ」
「降谷さんて一途なんですね」
一途だの、物好きだの、彼奴らに散々言われた。ゲラゲラ笑いながら賭けをしようと誰かが言って、全員が玉砕に手を挙げ賭けにならないとまた笑っていた。
「降谷さん。何でも言って下さい」
「?」
「力不足かもしれませんが、協力します!」
「いいのか?」
「姉には、降谷さんしか居ませんから」
「は?」
「其れにあの降谷さんが兄になるなんて!!!」
「……話しが飛んでないか?」
「え、違うんですか?」
キョトンとした顔で俺を見る。あわよくば、と考えていた事をサラッと言うもんだから面を食らう。一筋縄ではいかないのは、姉にそっくりのようだな。
「蒼井」
「はい!」
「俺の協力者になってくれるか?」
「もちろんっ!」
「宜しく頼むよ」
「ハイッ!」
尻尾を付けたら、千切れんばかりに振っているだろう。こういう顔も良く似ている。連絡先を交換し、課に戻ると怒りに満ちた眼で睨まれる。そんな顔も、愛しくて堪らない。