降谷のお墨付きですか
報告も兼ね、久々に登庁すると会議室へ来るようにとの伝言を聞き急いで向かう。すると中には課長だけで無く、降谷も居て問題が起きたのかと身構える。
「蒼井和希くんは君の弟だね」
「……和希が何か…」
「今、刑事部捜査一課強行犯三係に所属してる」
「へ?」
「とても優秀だと噂で聞いてね」
「…ダメですよ!?」
「もう遅い」
反論しようと、息を吸うと数回のノック音がし扉が開いた。失礼しますと中に入ってきたのは、数年振りに見る弟だった。
「…なん、で」
「刑事部捜査一課強行犯三係から参りました!本日より宜しくお願い致します!」
「ああ、宜しく」
「期待しているよ」
「はい!」
「ちょ、待って。私は反対です!八神さん、彼を刑事部に戻して下さい」
「私情を挟むな」
「降谷は黙ってて」
「蒼井くんの心配する気持ちは良く分かる。危険な任務だってある。でも、彼はね全て理解した上で決めたんだ」
「……でも!」
同じ道に進みたいと言っていた弟が、実現させた事はとても誇らしく思う。でも、危険を伴う任務が多い公安部への異動なんて認められるわけない。
「姉さん。俺、姉さんみたいになりたいんだ」
「…私?」
「いつも俺の目標で、手を伸ばしても到底届かない場所にどんどん行ってしまう」
「……」
「姉さんからの連絡が途絶えてから、必死に勉強したよ。きっと、公安部にいる。俺もって」
「良い弟だな」
「危険なのは姉さんも同じだろ」
危険なのは私も同じ、確かにそうだ。だけど、両親の事を考えると頷けない。言い返せず黙り込む私に痺れを切らしたのか、降谷が口を開いた。
「藍」
「…何」
「お前の班に入れろ」
「は?」
「自分の目で見て判断すればいい」
「その方が良いかもしれないな。しっかり見てあげなさい。蒼井和希という一人の警察官を」
「……はい」
企画課にいる部下達に挨拶を済ませた後は、此れから一番使うであろう資料室や仮眠室。シャワー室等を案内し、再び企画課に戻って来た。
「佐田、後の事頼んでもいい?」
「大丈夫です」
「任せた」
「はい」
和希の教育は佐田に任せ、報告書の作成に取り掛かろうデスクに座る。ふう、と息を吐く。危険から遠去ける為、会う事を避けていた弟が今此処に居る。最後に会った時よりも少し大きくなって、顔も大人びている。
「大丈夫だ」
「何が」
「思ってる以上に優秀だぞ」
「降谷のお墨付きですか」
「見れば分かる」
「…頼んでないけど?」
「部下になるんだ。目を通しておけ」
降谷に渡された資料に目を通すと、私の知らない数年間の弟の記録が事細かに記されている。警察学校は首席で卒業。あんなに勉強嫌いだったのに。必死に勉強して、私と同じ道に進んだのだ。馬鹿みたいに真っ直ぐな弟らしい。
「この子、ちょっと借りてもいい?」
「大丈夫です」
「有り難う。和希、ちょっと」
「…はい」
仕事にひと段落したところで、和希の手が空いてそうなのを見計らい連れ出した。私に怒られると思っているのか、弟は企画課を出てからずっと黙っている。こういうのは昔から変われないみたいだ。
「俺…」
「頑張ったんだね。勉強」
「え?」
「あんなに苦手だったのにね。凄いじゃん」
「あ、いや…」
「一つだけ、約束して」
「?」
「無茶はしないで」
「それは姉さんもだろ」
「私は大丈夫」
「今だから聞くけどさ、降谷さんとデキてんの?」
「は?まさか!」
「お似合いだと思うけどな」
「止めてよ」
「……苦労するだろうな」
「何か言った?」
「や、何でもないです」
企画課に戻るまでは、姉と弟として話していた。企画課の扉を開ければ、私達は上司と部下に戻るのだ。中に入れば、待ってましたと言わんばかりに和希は降谷に連れて行かれた。子犬のように震えながら着いていく弟の背中をそっと見送る。ご愁傷様、と。